エピローグ
「漆原さーん。仕様書修正になりましたー」
「は~!?おま、昨日のが完成版って言ってたじゃねーか!!」
「そんなの穂積さんに言って下さいよ」
「っか~~!!」
漆原の元でインターンを続けてまだたった三ヶ月。美咲は穂積蒼汰率いるパーソナル開発部に転属していた。
美咲はパーソナルの方が適正があるだろうと漆原が推薦したのと、パーソナル開発者の中でもトップに名を連ねる穂積蒼汰の強い希望によりこれが決定した。
今は両部署の間繋ぎのような存在となっている。
若い現場社員では漆原に強く出る事ができないが、そこを遠慮無しに突破していく度胸とそれを許される関係性は何よりも重宝されていた。
「あ、そうだ。今度うちに来て下さいよ。みんながお礼したいって」
「俺はアンドロイドの不手際謝罪に行っただけだって。販売管理とセキュリティ保持」
「あんな演出しといてよく言いますよ」
「必要最低限をやっただけだよ。それより祖母ちゃんどうなんだよ」
「元気ですよ。記憶は無くても洸だから、って。お父さんの事兄貴って呼んでます」
「それ親父さん複雑じゃねえの?」
「複雑そうですね。でも何だかんだ可愛がってますよ」
洸は再起動して初期化された。メモリを取り出す事はできず、真っ新な状態になってしまったのだ。
果たしてこれをどう伝えたものか迷ったが、美咲が切り出す前に祖母が言ってくれた。
「多分ね、あの子は直らないと思うのよ」
「わ、分かんないよ。まだ調べてくれてて」
「ううん。メモリがね、多分焼けてるのよ。最後の方はもう色々忘れてたのよ。だから私も……捨ててしまおうかって……」
「お祖母ちゃん……」
「漆原さんに伝えてちょうだい。直らない時は初期化していいから、その代わり最新のセキュリティを入れて新品にして下さいって」
「……うん。分かった」
それを聞いた漆原は悔しそうな顔をしていたけれど、頼まれた通り最新型と同様のセキュリティと性能も安全性も高いパーツで修理をした。
祖母はそれでも喜んで、再出発するにはこれが良いのかもしれないと祖父もそれを迎え入れた。
「本当に有難う御座いました」
「いいって。あ、でも感謝してくれるなら親父さんと話させてくれよ。店舗の事がどうにもこうにも」
「ああ、アンドロイドカフェでしたっけ」
「動物型がメインだけどな。絶対イケる」
「じゃあちょうどいいですね。というか、実はお父さんが呼んでるんですよ。私の事で一度じっくり話をしたいって怒ってました」
「怒りって何の怒り?仕事?俺結構優遇してやったと思うんだけど」
「そうですよね。何だろう。真相を聞く必要があるとか何とか……」
漆原は少しだけ考えると何かに気付いたように目を剥いて、うわ、と頭を抱えた。
「……お前うちに泊まった事言ってないだろうな」
「まさか。言ってないですよ」
「直接的に言ってなくてもバラけた情報で総合判断した可能性あるだろ。何言った」
「えー……お母さんとはちょっと話しましたけど……」
「それ!何話した!?」
「話したっていうか、マンション着いてすぐ電話かかって来たじゃないですか。あの後動画通話に切り替えたら漆原さんが見えたみたいで」
「うっわ……」
「その後、実家着いた時。玄関から漆原さんが見えたらしいですよ。でもそれくらいです」
「それくらいじゃなくてそれだろ!あの時間に男の車から降りて来て実家まで来たなんて、どう考えても朝帰りじゃねーか!」
「でもお母さん結構ボケ~っとしてるし」
「してねーよ!常に重要なとこ抑えてたわ!お前の方がよっぽどボケてるっての!うわ~……絶対その話だ……」
「けど何があったわけじゃ無いし。そもそも私が悪いし」
大丈夫ですって、とケラケラ笑っている美咲を見て漆原は大きくため息を吐いた。
じとりと睨みながら美咲を見て、もう一度ため息を吐く。
「お前さあ、本当に俺が責任者として動いただけだと思ってる?」
「違うんですか?」
「いや、まあそうなんだけど」
「じゃあいいじゃないですか。で、今週末ヒマですか?」
「……暇だよ。家行けばいい?」
「やったー。有難う御座います。じゃあその修正お願いしますねー!」
よかった、と美咲はスキップして部屋を出ていった。
そのお気楽な後姿を見送って、漆原はごろんと机に突っ伏して三度目のため息を吐いた。
「久世大河より強敵だな……」
そして週末、再び久世一家と漆原朔也が一堂に会し、新たな戦いが始まる事となった。
壊れたアンドロイドの独り言 蒼衣ユイ @sahen
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