時は来たれり

鐘の音ががやんだ。

正確にいえば、時計の針が止まった。

空には2人の魔法使いが浮かんでいる。

至極奇妙で気味の悪い光景。

鎖は外されたが首輪はそのままだった。

テムズ川の先から地鳴りと水流が遡ってきて波が押し寄せてくる。

いよいよ、未知の襲来だ。

爺は川周辺を完全に空間方位し、

誰も侵入しない、誰からも見えない、

この区域からなにか-例えば爆発の余波など-があってもその先に影響が及ばない魔法の幕を張っているという。


最高の舞台ではないか。

つまり、どれだけ暴れてもいいということか。


爺からは魔力が吹き込まれた刀を持たされた。

生意気な小娘の姿の魔法使いに、

「ノアールになにかあったらその体ごと消す」と宣戦布告されているからたまったものじゃない。

何故俺がお前らと共に戦わないとならないのか。


魂を人質にされるというのはこういうことか、もどかしい気持ちと葛藤が渦巻く。

俺1人になったとしても、因果を絶ちきる覚悟をして此処にいる。

すべてを壊して、自分の存在がすべて消える前に叶えたいものがある。

刀を鞘から僅かに抜いて見る。

清らかでまぶしくて、うすら気持ち悪い。

なにが光だ。

旅人は、いや、猫耳は落ち着かない様子でストレッチをしている。

「僕の役目は街を囲むことだ。魔方陣の外枠を描く予定だから、なるべく川沿いを行きたい。助力頼む」

なにやら、起動装置の役割らしい。

古典的な魔法だなと思いながら、猫耳は戦うには戦力が弱すぎるから逃げまわるついでに利用するのが最善だろう。

その点で合意。


次第に月が隠れ、風が強くなってきた。

仕立てのよい黒のコートが揺れる。


「敵襲!」

黒煙にも似た大蝙蝠が夜空を覆い尽くしている。

魔女は雷を呼ぶ呪文を唱える

猫耳が道の真ん中を走り出す

俺も並走する

河が渦巻き、波立つ合間から大きな物体がせりあがる。

黒翼に覆われた体に、焔が蜷局を巻き、瞳は何を捉えているのかわからない。

周辺の空気が震え

風が鳴り雷のような奇声をあげた。

( 家臣を返せ! )

不思議と言葉が理解できた。なぜ?

前に向き直ると、頭のない人の体が鋭利な武器を手にして行進してくる。

同じ歩幅、速度で。


「はっ…ハハハハ! 貴様もしぶとく生きてたんだな!」

黒い巨大なモノに届くように叫んだ!

「 俺こそが奇異なる國の狂人、ブラン・カンパニュラ ! 地獄の底まで道連れにしてくれる 」

刀で黒いモノの頭頂部を指し示した。

黒いモノは体をねじまわし、咆哮する。

間違いない。

「爺! そいつは奇異の國の女帝の成れの果てだ。 なんの因果か知らぬが、くだらぬ茶会なんぞ、もうたくさんだ」

「なに、この化け物が?」

魔女が冷静に魔法円を描いている。

「正体がわかれば…手加減するわけにいかない。そうだろう、「帽子屋」さん?」

魔女が魔法の矢を乱れ打ちはじめる!

俺は手前に迫りくる集団の前にして立ち止まった。

「ブラン…?」

「笑止」

刀を斜め下に持ち、道路に刺すように構えた。

「いいか猫耳、お前は走れ。邪魔だ!」

顎でくいと空をさした。

猫耳は合図に気がついたのか、後ろに下がった。

集団の刃がもう間近に迫る時分、猫耳が刀の鍔に走り乗った。

その瞬間に、力を振り切って猫耳の体を空に押し上げた。

そう、それでいい。

戦いは一人のほうがやりやすい。

上に振りかぶった刀を、今度は斧のように一番前の敵に力強く振り下ろした。

首周辺の空洞をすり抜けて、胸のあたりでガラスの割れる破裂音がした。

「ハハハハ、ハハハハ!

阿呆みたいに数だけの無能、よくぞここまで集めた。ぶっ壊してやる。すべてを賭けて終にしてやる」


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