第3話 4度目の正直

 モグモグモグ


「うめええええ!」


 今、僕は、江口光さんの部屋で、豚キムチ丼(特盛)を食している。

これがまた絶品で、甘辛い味付けの豚キムチとからしマヨネーズがお互いを引き立ててご飯が進む進む。

この豚キムチ丼なら毎日でも食える!ぜひともシェフの顔を拝みたい。完全に胃袋を掴まれてしまった。


 顔を拝みたいといえば、憎き1000位プレイヤー『プシュケ』である。

決して忘れていたわけではない。腹が減っては戦はできぬ、と言うであろう。

たしかに偶然、光さんの探し人と名前が一致してびっくりした。

この情報をすぐに光さんに知らせるべきかどうか迷ったが、同一人物であると断定できたわけではないため、一旦保留にした。

ただし黙って見過ごす九尾様ではない。この『プシュケ』に探りをいれることにした。

神悪2も、初代神悪と同様に同じ名前をつけることができないため、光さんの探している、前作の『プシュケ』と同一人物である可能性が高い。

具体的な行動として、ゲーム内にある個人チャットで、話をしてみることにした。

送る文面を食べながら考えていたのだ。食べ終わる直前にようやく決まった。


「ごちそうさまでした。」


 合掌しながら、心からの感謝の意を込めて言った。


 食べている最中に、イベントの最終順位が1001位だったことを同盟のみんなに伝えて、返答を見ずにスマホを閉じていた。おそらく返答が来ている頃だろう。

僕はスマホを開き、神悪2を起動した。すると、同盟リーダーからメッセージがあった。


【はっはっは!、惜しかったな『キュウビ』くん、まあ今回は君の頑張りに免じて脱退は無しでいいよん】


 助かった……首の皮一枚つながった……九尾堂くびどうだけに。


『キュウビ』くんというのは、僕の神悪2でのプレイヤー名になる。

誰も本名だとは思いますまい。


 それはさておき、早速『プシュケ』にチャットを送ろう。


【初めまして!1000位おめでとうございます!1001位だったキュウビと申します。いやー負けました(笑)これも何かの縁だと思うので良かったらフレンドになっていただけませんか?よろしくお願いします】


 パーフェクト!これでフレンドになって根掘り葉掘り聞ければ一気に進展するぞ!


 ニヤニヤ


 お、早速返信が来た、どれどれ、


【フレンド申請は拒否されました、『プシュケ』があなたをブロックしました。】


 やっちまった……この結果は予想できなかった……なんか気に障るようなこと言ったっけなぁ……


 作戦は失敗に終わった。


(まだです!)


 この声は……我がスタンド「ナインビースト・フォーチュン」の第3の能力『おぼろ』ではないか。いわゆる『復活の合図』である。


 まだ方法はあるはず……考えろ、考えるんだ、九尾!


 ピコンッ!


 閃いた!『プシュケ』と言えば、エロスの嫁だ。エロスという名前でゲームを始めて、プシュケにコンタクトを取ろう。誰もエロスなんて名前にしたがらないだろうし、夫が会いに来たんだからきっと振り向いてくれるはず!


 僕は、カバンからサブのスマホを取り出すと、神悪2を新しく始めて、エロスという名前を入力した。


 グレイトゥ!


 やはり、まだ誰もエロスという名前をつけてはいなかった。ただ若干恥ずかしい。


 急いでランキング画面から『プシュケ』の個人チャットに飛び、メッセージを打った。


 【迎えに来たよ、愛しのプシュケ。】


 ズキューン!恋の矢刺さりました!確定入りまーす!


 【『プシュケ』があなたをブロックしました。】


 なんでやねん!感動の再会するシーンだったろがい!

やっぱり、エロスっていう卑猥な名前がいけなかったんだろうか、でも夫の名前だぞ?

まあ現実は神話の通りにはいかないってことですわ。

今度こそ、万事休すか!?


(まだです!)


 朧ぉ……そうだ、まだ諦める訳にはいかない。次の策を考えよう。


 ピコンッ!


 閃いた!『プシュケ』と同じ同盟に入れば、無理やりでも話ができるぞ!

もうこれしか方法はない。早速、『プシュケ』が所属している同盟を調べた。どれどれ……


 同盟名『美女と野獣』 同盟リーダー『ダルク』 定員空きあり


 ジャスティス!


 今入ってる同盟を脱退して、こっちに入ろう!


【すみません、リアルが忙しくてがっつりプレイできないので抜けます。クソお世話になりました】


 という挨拶を残して、脱退した。正直、効率重視のプレイヤーばかりで息苦しかったので理由がどうあれ脱退できてよかった。


 よし、早速、『美女と野獣』に加盟申請を出した。


【加盟申請は拒否されました】


 俺って嫌われてるんかな……ぴえん

あ、加盟申請前に同盟リーダーの『ダルク』に一言言うの忘れてた。何やってんだか……


どうしよう?フリーになってしまった。かといって他に入りたい同盟もないし……

『プシュケ』の手がかりが遠ざかっていく……


 「風呂でも入るか……」


 気分転換にお風呂に入ることにした。

もちろん、お風呂もそれはそれは豪華な浴場であったが、そんなことより、三連拒否の精神的ダメージが大きすぎて、魂が抜けきっていた。


 生気を取り戻し、風呂から出て、体を拭いて、ピンクのバスローブを身に纏った。

おもむろにスマホで時間を確認すると、もう22時を過ぎていた。

その時、


ブルブル


 スマホの通知バイブが鳴った。見てみると、


【同盟の勧誘が一件あります】


ジーザス!神はまだ見捨ててなかった……どんな同盟でも入ろう……どれどれ、


!!!!!!!


開闢かいびゃくの闇……だと……」


 同盟『開闢の闇』とは、神悪2における最強同盟の一角である。初代神悪で光さんが作った『開闢の光』をリスペクトした同盟で、今回のイベントで世界ランク1位とった、『ハデス』を中心とした、最強集団である。

初代神悪は、『ゼウス』の一強であったが、神悪2では、特定のプレイヤーが常に一位というわけではなく、上位の入れ替わりが激しくなっている。

また、神悪2では『ゼウス』の存在は確認されていない。


 まさか『開闢の闇』からお声がかかるとは……


 『運命の人を探していたら秒速で見つかって求愛したら瞬殺で拒否されて、路頭に迷っていたら、世界最強ギルドから勧誘を受けた件について』


 っていう異世界小説書けそう……


 もちろん、勧誘を承諾した。一言挨拶しないと。


【初めまして!『キュウビ』と申します!まさか『開闢の闇』から勧誘されるなんて夢にも見ていませんでした!実は、初代神悪で、『開闢の光』に入っていたこともありまして……】


 打ち込んでいる途中で『アポロン』というプレイヤーが同盟チャットで発言してきた。


【わんこ拾ってきた(笑)】


 わんこーーー!??

 僕は捨て犬ですかーーー!??

 一応、狐ですけどーーー!??


【冗談、冗談、昔の仲間だと思って懐かしくて誘ってみた】


 また『アポロン』が発言した。


 まさか……『アポロン』って……


【もしかして、『開闢の光』のナンバー2の『アポロ』さんですか!?お久しぶりでつ!】


 僕は興奮気味にチャットしてしまい、見事に誤字った。


 まさか、また伝説の人に出会え

るとは……

今日はなんて日だ!!!!


【そうそう、よく覚えていたね!実は昔の仲間の名前をよく検索してたんだけど、キュウビくんの見たら、フリーになってるもんだからつい勧誘しちゃった(笑)】


アポロがそう発言して、僕はこう返した。


【光栄です!また一緒に戦えるなんて……よろしくお願いします!】


【よろしくねー】


【よろしゅう】


【よろろ】


 同盟のみんなから暖かい歓迎を受けた。


【よし、これでみんな揃ったね。今から話すことはトップシークレットなんだけど……】


 『アポロ』さんが発言した。続けてこう発言した。僕は息をのんだ。


【『ゼウス』が復活した】


 なん……だって……


 僕は密かに燃えていた。こんな激熱展開はない。

しかも僕には元世界ランク2の光さんがいる。

この戦い、誰にも予想ができない!


「下剋上じゃあああああ!」


僕は思わず叫んでしまった。

光さんはまだ爆睡していた。

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