第2話 人探し②
ライトさんは僕が一番尊敬しているゲームプレイヤーだ。
まさかリアルの世界でナンパ、否!、運命的な再会を果たすとは……
ライトさんは覚えてないと思うけど、ライトさんと僕は神悪の中で同じ同盟に所属していた。
同盟というのは、大学でいうところのサークルみたいなもので、同盟を作り、メンバー募集や勧誘を行い、ワイワイ楽しむ集団のことである。
ライトさんが作った同盟、『
世界ランク2位の同盟なのでメンバーは上位ランカーの集まりかと思いきや、実は初心者の育成に力を入れており、一か月限定で入団することができる。
もちろん応募する初心者は数知れず、審査基準は明かされていないが何百倍もの倍率を潜り抜け、僕は奇跡的に入団を果たしたのである。
『開闢の光』に入団できたときは本当に喜んだ。全てが新鮮で本当に楽しかった。
特筆すべきことは、ライトさんのカリスマ性だった。
打倒『ゼウス』を目標に、どうやったら『ゼウス』を倒せるかをメンバーと日々研究していた。イベントが開始すると、ライトさんの一声で、同盟員全員が奮い立ち、すさまじい連携で次々とポイントをあげていった。
この人いつ寝てるんだ?と疑問に思うくらいずっとポイントを稼いでいたライトさんだったが、僕がいた間のイベントもライトさんは結局2位で、1位はやはり『ゼウス』だった。しかもその差は圧倒的だった。一桁違うくらいの絶望的な点数差であった。それくらい打倒『ゼウス』の壁は険しかった。
でもライトさんは決して諦めなかった。その姿勢が同盟員だけではなく、他の神悪プレイヤーの胸をも熱くさせていた。そう、神悪を中心で盛り上げていたのは間違いなくライトさんだった。
昔話はこれくらいにして、時を戻そう。
そんなマイモウストフェイバリットパーソンことライトさん、いや江口光さんが目の前にいらっしゃる。
正直話したいことは沢山ある。実は同じ同盟にいたことも言いたかった。
しかし、今は自己紹介の途中である。ライトさんが自己紹介をしてからもう5分くらいの沈黙があり、そろそろどっちかが何かを発しないといけないような雰囲気になっていた。
順当にいけば僕が自己紹介をする番なのだが、多分100回くらいあったタイミングを全てスルーしてしまったので、ぶっちゃけ、ちょっと言うの恥ずかしい///
スマホも落としたままだし、このまま一回死んだふりしとくか?それも恥ずいな。
僕は、一度目を瞑った。我がスタンド『ナインビースト・フォーチュン』の第二の能力『
(光さん、頼む!あの有名なセリフを言ってくれーーー伝われーーーー!!!)
いわゆる『察してくれ』である。
僕は念じ続けた。そしてしびれを切らしたのか、光さんは作り笑いをしながらこう聞いてきた。
「……んで君の名は?」
イエエエエエエエス!!!伝わったあああ!!!
「
要らんことまでいってもうたああああ。絶対引かれた……これだからコミュ障はいかん。
「くびどう?珍しい名前だね、どういう漢字なの?」
「狐のキュウビに、お堂のドウです、覚えにくいので結斗で読んでください。」
「わかったよ、結斗!よろしくな!」
「よろしくお願いします!」
なんか色々あった気がするけど、無事自己紹介を終えた。本題はこれからだ。
ふう・・・
僕は一度深呼吸をして、さりげなく落としたスマホを拾い、高鳴る気持ちを落ち着かせ、真剣な表情でこう言った。
「世界ランク2位のライトさんですよね?事情を詳しく説明してもらえますか?」
光さんは大きく頷いた。
「ありがとう、そう、僕が世界ランク2位のライトだよ。よく覚えていたね。ところで、ちょっと場所を移さないかい?あまり他の人には聞かれたくないんだ。良かったら僕の城に来るかい?」
聞き間違いだろうか?家じゃなくて城と聞こえたような・・・?
尊敬する光さんの家がどんなところか気になるのでお邪魔することにした。
「はい、わかりました。」
僕は二つ返事でオーケーした。
「着いたよ。」
歩いて10分くらいだろうか?意外と近かった……
えーーーーー!!!
僕は目を疑った。本当に城だった。ちょっと寂れてて小さいが確かに城だ。
ってラブホやないかいっ!
なんて巧妙なナンパ術なんだ……自然すぎてわからなかった。
狙いは最初から僕だったんか……
光さんはそそくさと中へ入っていったが、僕は躊躇していた。
なんて節操のない人、初めからあたしの体が目当てだったんだわね!
「早く入りなよ。」
光さんがフロントから戻ってきて、そう言った。
こうなったらもうヤケクソだ。結斗行きまーす!
「お邪魔します!」
初めてのラブホテル、フロントの天井には煌びやかなシャンデリア、床にはレッドカーペット、その先には王の寝室へと続いていた。トビラには101号室と書かれてある。
「ここが俺の部屋ね、どうぞ。」
恐る恐る入ってみると、あまりの美しさに目を奪われた。
「す、すげぇ……」
思わず、心の声が漏れてしまった。
まず目に飛び込んできたのは、中央にでかでかと鎮座しているベッド。なんかヒラヒラがついていて、ベッドの中が外から見えにくくなっている。
壁は全て、ルネサンス時代に書かれたような天使の絵の壁紙が貼られている。
そして、一番惹かれたが、部屋の隅に置かれた透明な女性の像であった。
「お、気が付いた?あれはクリスタルでできた、プシュケの像だよ」
もちろん、光さんが探している『プシュケ』さんではなく、ギリシャ神話にでてくる、愛の神エロスの妻のプシュケである。プシュケは絶世の美女であり、クリスタルだということを差し引いても、その見た目は
我に返り、すぐにスマホを拾った。床が絨毯だったので、ダメージはなかったのが幸いだった。
光さんは、着ていた紺色のトレンチコートを脱ぎハンガーに掛け、サングラスを丸いテーブルの上に置いた。
さっきは暗くて光さんがよく見えなかったが、今ならよく見ることができる。
その出で立ちは、まさに王子様、いやそれ以上とも思わせるような美形だった。
しかも、瞳の色が宝石のアクアマリンのように透き通った水色をしていて、どれだけでも見ていられる。
男の僕でさえ一目惚れしてしまいそうな、そんないい男であった。
シューーーーポコッ
何やら聞きなれない音がした。音の発生源まで行ってみると、カプセルみたいなものがあった。
!!!!
まさかこれは!!!古より伝わる伝説のエアーシューター!実際に見るのは初めてだ。
「お、来た来た!はい、これ、ここのポイントカード。表に住所と電話番号書いてあるから、なんかあったら連絡して。」
光さんがそう言いながらポイントカードを渡してきた。
『ホテル オリンポス』、なるほどここはギリシャ神話をモチーフにしたホテルなのか。
さっきから日常離れした情報ばかり入ってきて頭が追い付かない。
聞きたいことは山ほどある。逆に増えていく一方だ。
そろそろ話を切り出そうとしたとき光さんから衝撃の一言が、
「ふわぁ……ごめん、眠くなってきたから寝るわ。」
えーーーー、なんも説明されてないけど!!!
「ご飯はただで食べれるから。風呂はそっちね、眠くなったらこのベッドで寝ていいから。」
何しに来たんだ俺ーーー!
「あ、最後にこれ渡しておくわ、はい、俺の自伝、良かったら読んでね。じゃあおやすみ……」
そう言って光さんから自伝を手渡された。そして本当にすぐ寝てしまった。
色々ツッコミたいが、とりあえず、スマホの時計を見た。時刻は20時半を回っていた。
あ、ここで思い出した。今回のイベントの順位を見ないと。頼む1000位以内に入っていてくれよ……
『おめでとうございます!今回のイベントの最終順位は1001位でした!』
なんでやねん!全然おめでとうちゃうやん……
1000位に入ると入らないでは、もらえる報酬に雲泥の差がある。しかも、今入っている同盟の絶対条件がイベント1000位以内なのだ。
「終わった・・・」
とりあえず、イベントの順位を同盟のチャットで報告しないといけない。その前に、俺の1000位を奪った、
憎き相手の名前でも拝みに行くか。
どれどれ・・・
!!!!!
「なに……プシュケ……だと……」
ここから僕の運命の歯車が狂い始める。
あっけなく見つかった探し人『プシュケ』、果たして光さんの探してた『プシュケ』なのだろうか?
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