お姫様 3
中学生になった市倉は、制服を買ってもらえず。それに伴い中学にも通わなかった。
ある日家に母親が連れてきた男が居た。親戚のおじさんらしい。
家にはおじさんと二人きりになった。市倉は色々な質問をされる。
そして、夜になり、市倉がシャワーを浴びている時、それは起きた。
ガラッと音がして、おじさんが浴室に入ってきたのだ。
「愛依ちゃん。おじさんが体洗ってあげるよ」
市倉は恐怖で声が出なかった。おじさんはお構いなしに体を洗ってくれた。
それはもう隅々まで……。
市倉は恐怖や気持ち悪いという感情と同時に、心地よさも感じていた。
誰かに、こう面倒を見て貰ったことが嬉しかったのだ。
だけど、そんな気持ちになる自分も気持ち悪い。
先に風呂から出た市倉は体を拭いて、服を着て、家から飛び出した。
宛なんて無い。どうすれば良いのかも分からない。誰も味方じゃない。
夜の街へ出た。見回りの警察から隠れてやり過ごす。見つかったら、あの家に連れ戻されてしまうと思い。
「ねー、キミ一人」
知らないおじさんに声を掛けられた市倉。40代だろうかニコニコと笑顔だ。
「もし空いてたらさ、これでどう」
指を三本立てておじさんは言う。意味が分からなかった。
「キミ、大丈夫かい。おじさんとご飯でも食べない」
ご飯と聞いて市倉は顔を上げた。確かに自分はお腹が空いている。
「それじゃあ、ご飯食べるだけで、良いよね、ね」
魅力的な提案に、市倉は知らないおじさんに付いていくことにした。
「こことかどうだい?」
連れて行かれたのは焼肉屋だった。だが、市倉は不安を感じる。
「私、お金もってない……です」
それを聞いておじさんは大笑いした。
「大丈夫大丈夫、おじさんが全部出すよ」
半信半疑だったが、もうどうにでもなれと自暴自棄になった市倉は付いていくことにする。
店に入ると、煙臭さと、今まで嗅いだこともない良い匂いが鼻に充満した。
席に座り、待っていると、肉が運ばれ、おじさんが眼の前で焼いてくれる。
「ほら、食べなよ」
皿に乗せられた焼肉をひとくち食べて、その美味しさと、おじさんの優しさに市倉は涙が思わず溢れた。
「どうしたの、泣いて。何があったの」
優しくおじさんは尋ねる。市倉は家出をしたことと、生い立ちを軽く説明する。
「そうだったの、辛かったね」
言われた瞬間、目の前のおじさんは、世界でただ一人の味方のように思えた。
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