第94話 おひるね


 『怪異動物保護センター』では混合飼育を実施している。

 混合飼育とは、種族のちがう動物を同じエリアで飼育する展示方法のことだ。

 とはいえ、センターは動物園ではないので、混合飼育というのも普通の意味とは異なる。ここでは、通常は同じ展示施設には入れないような動物どうしも、相性しだいでは同じ檻で飼育することがあるのだ。

 というのも怪異の力を得て、知能が高くなった動物たちは、ひとりぼっちを寂しがる傾向にあるためだ。

 この日、お日様がよく当たり、プールもある飼育舎では『夢を食べるほう』の獏のばくちゃんと、『未来予知をする』ワオキツネザルのコンちゃんと、なぜかマメダヌキのマメタがいっしょに昼寝をしていた。

 マメタは保護センターの子ではないが、この間宿毛さんと一緒に来たときにばくちゃんたちと仲良くなり、以来、勝手にやって来ては誰にも知られずに忍び込み、飼育員さんに見つかってはお外に出されるというのを繰り返していた。

 ちなみに、こっそり忍び込んでいることを宿毛さんはまだ知らない。マメタは潜入がバレるたび「宿毛さんにちゃんと断りを入れてから来た」と言っている。大ウソである。

 ばくちゃんとマメタは地面の上に並んでぐうぐう寝息を立てていた。

 正確には、ばくちゃんは脚をそろえて横になっており、マメタはその隣でヘソ天になってぷうぷう寝息を立てていた。

 コンちゃんはひとり高いところに張られた板の上(冬場はヒーターが置かれている場所)で目をつむり、難しい顔をしながら両手を広げ、日光浴にいそしんでいた。

 寝息以外は穏やかな午後であった。

 ぷうぷう、ぷうぷうと寝息を立てているマメタが、かすかに手足をばたばたさせはじめた。お外を走っている夢をみているのだろう。そのうち、もっちゃもっちゃとお口を動かしはじめた。なにかおいしいものを食べているのだろう。

 そのとき、ばくちゃんが何かを察知してむくりと起きた。

 そしてマメタの頭のあたりに口を寄せて「ひゅごっ!」と音を立てて吸い込んだ。

 ばくちゃんは形のないものをもぐもぐし、また昼寝にもどった。

 代わりばんこに、マメタがむくりと起きる。

 マメタはみじかいお手てでばくちゃんの背をぽんぽん叩く。


「ばくちゃん、ばくちゃん、またマメタの夢を食べたでしょ~?」


「んんん~?」と、ばくちゃんは寝ぼけているふりをしながら言う。「食べてないよぉ~?」


「うそだ~、マメタの夢かえしてよ~」


 マメタがみじかい二本の足でぽんぽん背中を叩くと、ばくちゃんはくすぐったそうに「ふふふ」と笑う。


「しかたないなぁ~」


 ばくちゃんは夢を返してくれた。

 マメタは満足してまたお昼寝をはじめる。

 さんさんと陽射しが降り注ぎ、風がそよそよと気持ちがよい。

 実に静かで平和、穏やかな午後であった。

 そのとき、それまで黙っていたコンちゃんがカッと目を見開く。


「NYダウ、暴落…………!」


 ダウは暴落した。

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