第7話 それぞれの言いたかったこと

 放課後、近岡と私は他に誰もいない場所で向かい合っている。今の近岡の表情は、柔道をしているときと同じだ。真剣な顔。

 かっこいい……。

 いつも思っているけど。

 本当に、どうしてこんなにかっこいい近岡は私なんかといてくれるのかな「好きだ」


「……え?」


 今、何て?

 近岡は凛としながらも赤面している。


「おれは……ずっと前から、ひとみが好きだった」


 嘘……。


「誰にも取られたくない。ひとみの隣は誰にも渡さない。これからも、おれはひとみの側にっ……」


 ごめんね近岡。


「うわあぁぁぁぁぁあんっ!」

「ひ、ひとみ!」


 せっかく告白してくれたのに、私が遮っちゃった……。

 私、どこまでポンコツなの?

 何で近岡の邪魔をしちゃったの?

 バカだよ、バカだよ私は!

 でも……そんな私を近岡は、


「ほら、これで……」


 好きになってくれたんだね。


「ううっ……ありがとっ……」


 私は近岡からタオルを受け取って、ぐちゃぐちゃな顔を拭った。




「……大丈夫?」

「うん。本当にごめんね……これ、ちゃんと洗って返すから」


 近岡は私を気遣って、どこか座れるところを見つけて座らせてくれた。私が落ち着くまで何も言わずに側にいてくれた。

 近岡は今、それどころじゃないというのに。


「私って、いつも近岡に世話を焼かせちゃってるね。こんなポンコツ、一緒にいるだけで疲れるのに……ごめんなさい」

「ひとみ、自分のことをそんな風に言っちゃダメだ」

「だって……」


 自己嫌悪に陥っている私の頭を、あのときみたいに近岡が優しく撫でてくれた。また温かくてドキドキしているけれど、私は下を向いている。


「おれ、ひとみをポンコツだなんて思ったこと、一度もないぞ。もし仮にそうだとしても……ああ、おれと同じだと感じるだけだ」

「へっ? それどういうこと?」


 近岡がポンコツ……?

 何だかひっかかって、つい顔を上げた。


「今日ポンコツって言われたんだぜ、おれ」

「そんなことないよ近岡」

「そっか、ありがとう。ひとみだって絶対そんなことないからな」

「……ありがと。でも実際おんぶにだっこだよ。私、近岡に迷惑かけてばっか。例えば、私が初めての生理痛で倒れたことあったよね」

「あ、ああ……」

 

 また近岡は顔を赤らめた。近岡は私が唯一、生理のことを報告できる男子だけど、まだ慣れないみたいだ。


「生理なのを隠して、無理に部活やっていたら、近岡と乱取りしているときにバタッていっちゃって……。近岡は練習したいのに、私を優先して助けてくれたね」

「そんなの当たり前だよ」

「というか出会ったころから優しかった。初めて喋ったとき、私めっちゃキョドっていたのにさ、毎日構ってくれて嬉しかったよ」

「おれはただ、ひとみと仲良くなりたかっただけ。あとキョドっていたって言い方は何か好きじゃない。緊張していた、が良い」

「……ありがと」


 でも、どうして?

 どうして私なんか好きになったの?


「おれはきっと……初めて会ったときから、ひとみのことが好きだったんだよ」


 絶妙なタイミングで近岡が語り出した。


「え? そんな前から……?」


 キョトンとしている私に、近岡は静かに頷いた。


「初めて喋った後、ひとみは小学校のときからの友達と集まったよな。あのとき、ひとみが笑っていたのを見たら、おれもひとみを笑わせたいと思って……それから気になって、ひとみのことばかり考えてた。もうそのときから、おれはひとみが好きだったんだと思う」


 近岡は私の目をじっと見て、思いを打ち明けてくれた。


「私、邪魔者じゃなかったんだ……」

「どうして、ひとみが邪魔なんだよ」

「だって近岡かっこいいのに、優しいから私の面倒を見ているせいで、なかなか彼女ができないのかなって思っていたから」

「そんな……」


 近岡は私の話に驚いている。

 そりゃそうか。

 好きになった人に自分のことを、そういう風に考えられているなんて思いたくないよね。


「だから私は今日、言おうと思ったの。もう私のことは構わないで、近岡は自由に恋愛でも何でもしてって」

「ひとみ……」

「でも、そんなことなくて良かった。だって私も」


 次は、私の番。

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