第6話 放課後まで待ってて

「お前さぁ、あんまり調子こいてるとマジで遠塚さん取られるぞ?」

「……は?」


 昼休み半ば、友達から謎の忠告を受けた。もう食べ終えていて良かった。そんな話題になったら、食べることに集中できない。


「ひとみが取られる……?」

「え! お前あれだけ側にいるのに、マジで分かんねーの?」

「やっしーって案外ポンコツなんだね」

「は~、残念なイケメンだ……」

「おい、おれの悪口大会でもする気か」


 おれは確かに至らない部分もあるだろうが、さすがに言い過ぎだ。


「いやマジでさ、お前が思っているよりも遠塚さんってモテるかもよ?」

「うんうん。ってか、もう絶対ファンいるよ」

「あれだけ良いものを持っていれば、そりゃあ男もほっとかねーよ」


 ひとみがモテている……?


「ふーん。良いものって例えば?」


 おれは訳の分からない対抗をした。すると目の前の奴らがニタァッ……と笑う。何だその顔は。


「もちろん顔だろ。かわいいじゃん!」

「口元のほくろも色っぽい!」

「分かる。あれ、セクシーだよな」

「化粧しているよね? そういう女子力もナイス!」

「オシャレ頑張ってるよな。センス良い」

「でも派手じゃない。決してケバくならない!」

「他の女子と比べると、お淑やかだよな~。あんな控えめな女子も珍しくね?」

「あれで柔道部だったのもギャップ萌え!」

「あとスタイルも、ちょうど良い感じでさ!」

「そうだよなー。あと胸は「おいっ! それ以上やめろ、お前ら!」


 嫌らしい笑みを浮かべる奴らを急いで止めた。

 おれが思っていること、ほとんど吐き出しやがって……!


「……トイレ行ってくる」

「いてら~」


 興奮気味のおれを、今あいつらは涼しい顔で見送っているだろう。振り向かずに退室した。

 分かっている。

 自分がグズグズしていられないことは。

 早く伝えなきゃならない。

 ちゃんと告白するべきだ!


「あ、近岡。トイレ?」


 ズンズン進んでいると、


「私、今トイレで大きくクシャミしちゃった~。誰もいなくてセーフ!」


 さっきまで、おれたちが噂していた女の子が現れた。


「ひとみ、もしかして化粧直しか?」

「正解。近岡は何でも分かっちゃうねぇ」

「手に持っているの見れば分かるよ」


 ひとみが持つ化粧ポーチを指差すと、ひとみは「ふふっ」と笑った。


「いやー、参っちゃうよ。トイレに行く前に、みんなから『その化粧は誰のため?』なんて言われちゃって。だから『自分のため!』って力強く返しちゃった」

「そうか……」


 それが『近岡おれのため』なら、すごく嬉しいのにな。


「え?」

「あっ……!」


 しまった。

 おれ今の言葉、口に出して……!


「近岡、それって」

「ああ、おれ急ぐからっ!」


 何やってんだ、おれのバカ野郎!

 でも……。


「近岡?」


 おれは足を止めた。そして戸惑っているであろう、ひとみに再度向き合った。


「この続きは絶対に話す。だから放課後まで待ってて」


 それだけ伝えて去ろうとしたが、


「近岡! それは私も同じだから!」

「え……?」


 ひとみの言葉に、おれはまた止まる。顔が赤い、まさか……!


「私も近岡に言いたいことがあるの! だから今日も、一緒に帰ろう!」

「……ああ……」


 何だ、そういう意味か。

 おれは落胆しながら数秒間、教室へ戻るひとみを眺めてからトイレに行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る