第5話 何で私?

 うーん……。

 お風呂の前に、自分を鏡で見ている。近岡は、どうしてこんな私といつも一緒にいてくれるのか。なぜ私なんかが近岡の隣にいられるのか。それが気になったからだ。

 そして私は胸を見た瞬間、中学時代の最も恥ずかしかった出来事を思い出していた。

 近岡……。

 あのとき近岡に胸を触られて、ドキドキした。近岡の男らしかった手が忘れられない。空手と柔道で鍛えられた、がっしりとした手。思い出すだけで、顔が赤く染まる。恥ずかしいけれど、全然嫌じゃなかった。

 私が既に、近岡を好きになっていたからなのかな……。

 心なしか、私の胸は右よりも左の方が膨らんでいる気がする。近岡に揉まれてしまったからと思ったけど……それは気のせいだな、うん。どっちもDカップだよね。あまり大きくないとされている、Dカップ……。近岡だって私の胸なんかより、もっと大きな胸に触れたかったよね。


「はあ……」


 本当に全く良いところがない私。

 コミュ症でポンコツで、守りたくなるような女でもない。柔道黒帯だから、か弱い女だと決して言えない。確かに近岡には勝てないけど、いつも近岡に思いっきり掴みかかっていた私。そんなムキになる汗臭い女なんて全然かわいくない。

 だから私は高校入学前に、せめて見た目は頑張ろうと決めた。高校デビューと小バカにされるのを覚悟して、ずっとやりたかったオシャレを解禁した。中学卒業&高校合格祝いに貰ったコスメ等をフル活用してメイクを練習し、ファッション系のメディアも漁った。柔道部引退後に弛んだ体のシェイプアップも本格的に取り組んだ。

 中学卒業後の私は、そういうことばかりしていた。家族からも友達からも「かわいい!」「良いじゃん!」と褒められた。もちろん近岡も、


「何か変わったな、ひとみ」

「良い。似合うよ」


 とか言ってくれた。ちょっと物足りない気がしなくもなかったけど、好きな人に褒められて嬉しかった。でも近岡は優しいから、私を気遣ってくれただけかも。

 優しい……。

 あ、そうか。

 もう答えが出た。

 どうして今まで気付かなかったんだろう。

 やっと分かったところで、私は風呂場に入った。そして近岡に謝ることを決めた。

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