第2話 おれたちは付き合っていない

「やっしーってさ、遠塚とおづかさんと付き合ってんの?」

「えっ!」

「お、その反応は……」

「いや、違う違う!」

「えー? 何だよ、紛らわしい反応だな~」

「悪い。予想外の質問だったから、つい」


 昨日、それと似たような質問をされた女子がいるとは言わない。大丈夫、本当に予想外だったのだから嘘ではない。ただ言いたくないことを言っていないだけだ。


「マジか……あれで付き合っていないのか」

「そうだよ。あれって何?」

「だって、すごく仲良いじゃんか」

「そりゃ友達だからな」

「……ふーん」


 皆不満そうな表情を決めている。申し訳ない。


「あーあ、分かったよ。でも遠塚さん、泣かすなよ」

「……」

「お、おい! そんな顔するなって! ジョークだよ!」

「そうそう! 大体やっしーは、みんなに優しいじゃん! 女子を泣かすなんて、そんなこと……」


 おれは、一体どんな顔を見せていたのか。「うんうん!」と焦りながら同調しているみんなを見て、少しゾッとした。


「じゃあ、そろそろ行くから」

「あ、ああ! バイバイ!」

「また明日な!」


 みんなは心底すまなそうに、おれに手を振っていた。


「ひとみ」

「はーい」


 おれは、ひとみと共に教室を出た。




「昨日ひとみがされた質問、おれもされたよ」

「えっ」


 帰り道、おれは友達から質問されたことを話した。この反応からすると、ひとみには聞かれていなかったらしい。安心した。


「そんなこともあるんだ。おもしろい」


 おれは全然おもしろくなかった、と心の中で返した。


「私たち、本当に付き合っていないのにね」

「……うん」

「それに近岡は」

「……」

「誰にでも優しくて、誰とでも仲良くしているのにね」

「……そうかな……」




「……はぁ……」


 おれは帰宅して、すぐに溜め息を吐いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る