近く見えて遠い、遠く見えて近い。

卯野ましろ

第1話 私たちは付き合っていない

「ひとちゃんてさ、近岡ちかおかくんと付き合ってんの?」

「え?」


 友達からの質問。もちろん答えは、


「ううん、付き合っていないよ」

「なぁーんだ……」


 私を囲む仲間たちは、みんな残念そうにしている。ごめんなさい。


「一緒にいることが多いから、てっきり付き合っているのかと思っちゃった……」

「ああ、登下校とかね」

「そうそう。あと近岡くんって、ひとちゃんに優しくない?」

「えー、みんなに優しいでしょ? 優士やさしなだけに」

「いや確かに優しいけどさ、何か……ね」

「ん?」


 ニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤ。

 楽しそうに笑い合うみんなを見て、私は首を傾げる。


「でもさぁ、近岡くんと付き合えたら最高だよね~!」

「うんうん! イケメンで優しくてスタイルも良くて……」

「頭も運動神経も良いし!」

「あ、空手やってるんだっけ? それと中学では、柔道部に入っていたんだよね。すごくない?」

「強くて優しくて、かっこいい……!」


 キラキラキラキラ……。仲間たちは恋する乙女のように話に花を咲かせている。


「ひとみ」

「あ、はいはい」


 名前を呼ばれた私は、声の主と目を合わせ、鞄を持った。


「じゃ、また明日ね」

「うん! バイバイ!」


 みんなに挨拶し、私は話題となっていた男子と共に教室を出た。




「さっき、『近岡くんと付き合ってんの?』って聞かれた」


 校舎を出た後、私は友達からの質問について話した。


「知ってる。聞こえたから」

「そりゃそうか。そこそこ大きな声だったもんね」

「うん」

「そんなことないのにね」

「……うん」

「でも何か、いっぱい褒められていたね。良かったじゃん」

「……そうだな……」




「……はぁ……」


 私は帰宅して、すぐに溜め息を吐いた。

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