⑥一大決心

 その土曜日。

 美鞠の部屋に、またいつもの様に異様な空気が流れ始めた。

 この気配を感じると、俺はいつも帰るようにしていた。

 だが、今日の俺は耐えた。

 耐えなければならなかった。

 俺は、今日、一大決心をしてココにやって来たのだ。


 俺は上半身をソファーに横たえ、膝から下を肘掛けからぶらぶらさせた。

 仕返しのつもりなのか俺の苦手な「キムチ鍋」を夕飯に出した美鞠は、今はその後片付けをしている。

 チラ見すると、彼女の顔は仁王のようだった。

 (怖い怖い・・・)

 この気まずい時間を、俺はとりあえずテキトーな曲を口ずさみながら、ケータイをいじるフリをしてやり過ごした。

 テーブルダスターを持って美鞠がキッチンからリビングに移動してきた瞬間を狙って、俺は意を決して口を開いた。

 「なぁ・・・美鞠」

 俺はケータイから目を離さず、そう言った。

 「何?」

 抑揚のない一言だったが、無視されなくてよかった。

 俺は続けた。

 「もう、今日で終わりにしようぜ」

 

 「・・・うん・・・わかった・・・」

 暫くの沈黙の後、窓にかかったカーテンをみつめながら美鞠は、か細い声でそう呟いた。

 俺はソファーから身を起こし美鞠の前まで行き、俯く彼女の顔を覗き込んだ。

 「なんでしょげてんの?」

 「しょ、しょげてなんかないしっ!」

 睨まれて、俺の頭はハテナになる。

 「あはは。変なヤツぅ~」

 俺は美鞠の頭を軽くポンポンと叩いた。

 「杏士こそ、何!?頭おかしいんじゃないの?」

 彼女は俺の手を払い除けた。

 「だーかーらぁ~もう終わりにしようって言ってんじゃん?」

 だが、美鞠は俺の言葉を無視して続ける。

 「とにかく、早くココから出てって!大きな荷物は後で送るからっ!」

 「は?」

 「は?・・・じゃなくて!あたしの前から、早く消えて?」

 語尾が少し震えていた。

 「・・・俺のコト、嫌いなの?」

 「・・・嫌いじゃないから・・・大好きだから早く出てってって言ってんじゃないっ!」

 美鞠は、声を荒げた。

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