③邪な期待

 俺は下心を隠し、女の背後から声を掛けた。

「フリマでもすんの?」

 振り向いた女は瞬間顔を歪め、そして、すぐに向き直った。

 間近で見ても美人だった。しかめっ面も、俺好みだ。

 俺は続けた。

「・・・それとも、捨てんの?」

 女は無言のままだった、が、俺は続けた。

「海、汚しちゃダメじゃん」

 俺は、更に続ける。

「埋めちゃえば?したら、海も汚れないし、誰にもみつからないだろうし」

 すると、女はもう一度俺を振り返った。

 俺は、叱咤されるのを覚悟した。

 だが、俺の意に反して女は「・・・ホントだね」、と微笑んだ。

(変な女・・・ま、美人だから許そう)

「だろ?俺が穴掘るわ」

 俺は無我夢中で砂を掘った、掘り続けた。

 その時の俺は、多分ニヤけていたんじゃないかと思う。

(この女をモノにできるかも!)

 そんなよこしまな期待を胸に、俺は、只ひたすら掘り続けた。

「はぁ・・・疲れた~・・・ま、こんくらいでいいだろ!それ、ここに投げ捨てろよ」

「・・・うん・・・何かよくわかんないけど・・・ありがと」

 笑った顔が、これまた極上だった。

 失恋した女を落とすのに、時間は掛からなかった。


 それが、美鞠みまりとの出逢いだった。

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