➁怪しい女

 2年前の、冬の夕刻。

 部屋の窓から見える夕陽がやけに魅惑で、完全に魅せられてしまった俺はカメラを積んで、近くの海へと車を走らせた。

 

 海面をオレンジに染める太陽は、部屋から見るそれとはまた違った表情で俺を見返した。

 海から少し離れた砂浜で、俺は早速カメラを構えた。

 幾度か連写していると。

 突然、何者かがレンズの端に見えた。

 (ん?)

 俺はカメラを下ろし、肉眼でそれを確かめた。

 

 真冬の海に、女がヒトリ。

 その女は重そうな足取りで、だが何かに吸い寄せられる様に海に向かって歩みを進めていた。

 そして、波打ち際で立ち止まると、海の向こうをみつめている様だった。

 俺は、息をひそめてその状況を窺った。

 (・・・そのまま・・・入っちまうのか?)

 だが、その女はものすごい厚着をしていたし、左手には大きな紙袋を持っていた。

  (これから海に入る感じじゃ・・・ねぇな)

 目の前でそんな事をされた日にゃ、この極寒の中、俺まで入水を覚悟しなきゃなんなくなる。

 そんな展開にならずに済みそうな様子に、俺は胸を撫で下ろした。

 その時、不意に、その女の顔が気になった。

 俺はさっきと同じアングルでカメラを構えると、その女に焦点を当てズームアップしてみた。

 ここからだと、辛うじて横顔が見える。

 白い肌に高めの鼻、薄ピンクの唇はきゅっと結ばれていた。潮風にうねる肩までのダークブラウンの髪が隠した瞳の形までは判別できなかったが、美しい部類の貌立ちであるのは判った。

 (・・・おぉ!なっかなかの美人じゃねぇか!)

 興奮した俺は、不謹慎にもその女をレンズ越しに観察し続けた。

 ストーカーの気持ちが、少しだけ解った気がした。    

 (ん?・・・何おっぱじめるんだ、あの女・・・フリマか!?)

 女は、大きな紙袋の中から色々な物を出し、砂の上に並べ始めた。

  (フリマ開店する場所じゃねーしなぁ・・・てかあの女、もしかしてあれを海に流す気か?)


 女に興味津々になった俺は、カメラや鞄をその場に置き去りにして、ゆっくりと波打ち際に近付いた。

 真後ろに立っても、女は気付かず品々を並べ続けていた。

(指環、ネックレス、写真、映画のチケット、マグカップ、キーホルダー・・・って、別れた男との想い出の品かぁ?・・・って事は、この女、今フリー?!これってチャンスじゃん!)

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