1月17日

「市電の二階に若い女が吹きさらしのなかに坐っている。ドレスがまくれ、風をはらむ。雑踏した人と車の流れが、わたしと女とを遮る。市電は走り去って、悪夢のように消える。

往来する人でいっぱいの街路、まかせきったように軽やかに揺れうごくドレス、スカートがまくれる。まくれながら、しかもまくれないドレスまたドレス。」


——

“その行ったり来たり、ふわふわした文はなん の本です。とても気になった。”


“素敵な文ですよね。本自体はアウトサイダーのものなんですけど。アンリ・バルビュスの「地獄」の引用らしいです。”


“視覚情報を見たまま、そのまま表現している感じがして、なんだか素敵だった。”


“こういう美しい文を見つけるために生きてるんですよね。”


“わかるよ。だから私、詩集とかがすき。”


“僕も詩すき。好きな詩人とかはおられるんですか。”


“寺山修司とかになってしまうかな。”


“え!寺山修司!僕もすき!”


“きゃ〜。手を取って踊ろう。今夜は。これはもう踊るしかない。”


“踊るしかないですね。明るくなるまで。”


“中学の時周りに馴染めなすぎて本が好きというより本のある空間が好きだったから図書室によくいたんです。それでたまたま新刊にあった寺山修司の少女詩集を読んで、人生で初めて詩集とか読んだけれど、こんなにロマンチックで幻想的なのかと。”


“奇遇ですね。僕が初めて読んだ詩集も少女詩集です。「爪」がすき。”


“ごめん。「爪」というのはどの章だったかな。「愛する」だ。”


“そうです。「愛する」。”


“ああ、いいないま詩集を片手に浴室から貴方に文を打ってる。我ながら滑稽。”


“とても素敵。”


“というのも今から風呂に入ろうとした矢先、貴方が随分面白いことを言うもので部屋から本を引っ張り出してきて、連れてきた。”


“嘘みたいにロマンティックだ。”


“行動に計画性がないんですいつも。”


“計画された行動なんて退屈ですよ。”


“洗面台にスマホを置いて下着姿で左手に詩集を開き文を打っている。”


“その場面を写真におさめたい。”


“あなたもこの本を持っているのか。”


“うん。初めて買った詩集。”


“いいな。互いに持ち寄って喫茶店にでも行こう。”


“行きましょう。たまに微笑み合ったりしてね。”

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