第4話 久々の旅
〜しばらく経ったある日の朝〜
「様子はどうですか〜」
ハイドリヒがノックして、扉をゆっくり開けてきた
「あんな感じよ」
左手を器用に使いながら、グレーマンの家にある本棚の前で立ち読みをしている
「元気になってますね」
「いや、そうにもいかない」
グレーマンはハイドリヒに記憶喪失であることと、怪我について話した
「よく右腕の骨のひびと火傷だけで済みましたね」
「奇跡としか考えられないか、もしくはあの子自体が特別か...」
「しかし、記憶喪失とは...まぁ、あんだけのことがありましたから納得いきますが、どこからきたのかが分からないとは...」
ハイドリヒが腕を抱える
「でも、一体あの子は何を読んでいるんですか?」
「そうだな...歴史についての分厚い本と新聞をよく読んでいたな」
「なんでしょう?歴史に興味でもあるんでしょうかね」
「さぁ?記憶の片隅にそう言うのがあるんじゃない?」
「そうなんですかね〜?」
グレーマンが姿勢を変え、肘を机に打ち、拳を頬に当てながら聞き返す
「そんで、なんでここにきた?忙しいんじゃないのか?」
「今回は、渡したいものがあってきました」
ハイドリヒが腰掛け鞄から封筒を取り出した
「ん?なんだこれ?」
グレーマンが受け取り、中を確認すると、グレーマンのパスポートと参謀総長のお墨付きが貼られた少年の渡航許可証が入っていた
「...もういく前提で進めてんじゃねえか」
「現状、頼れるのがあなたしかいないんです。今は本当に忙しいので、これでボワーナ共和国に行ってきてください」
いきなりの無茶振りである。
「そんなこと言われてもな〜...」
「経費も勿論ありますよ?それと、特別手当で配給をしますけど」
「金ならいらん。贅沢しなきゃ、生涯は過ごせる量はある」
「う〜ん...相変わらずですね」
と、ハイドリヒがため息をついた。
「グレーマンさん、その人は?」
本を読み終えたのか、ウラジミールが話しかけてきた。
「あぁ、この人?今のこの国の軍のトップの人だ。一応な」
「一応ってなんなんですか。...どうも、はじめましてかな?私はハイドリヒって言う。よろしくね」
「よ、よろしくお願いします...」
ウラジミールが引き気味だ。
「突然で悪いけど、どこか行きたい場所とかある?」
「いや...特に...」
完全に初対面の人、しかも子供に対して馴れ馴れしくハイドリヒが詰め寄る
「そのくらいにしてやれ。子供相手になんでそんなに詰めるんだ?」
「へへ、すいません」
「ただ...」
ウラジミールが口を開けた
「この本にあるナウルカイロに行ってみたい」
ハイドリヒの目が点になる
「...そこって、どこなんですか?」
「ナウルカイロ...120年前までに存在した国だ。その120年前の戦争でボワーナ共和国とこの国に敗れて、そこが確かこの国とボワーナ共和国の国境付近だったっけか...。でも、なぜそこに?」
「うん...ちょっと...」
「なら、なおさら行く必要がありますね」
「だからお前が...そっか、忙しいんだったな...」
「えぇ、ですのでよろしくお願いします」
「...報酬は跳ねると思えよ」
そう言い、グレーマンは旅支度を済ませることにした
<そのまた次の日の朝>
「この服を着るのもいつぶりかな...」
ズボンに巻かれたベルトを巻き、黒いシャツを着て、黒よりの緑色のコートを羽織り、背中には両手剣が入った鞘と革のリュックを背負った。
「そっちは準備できたか?」
ウラジミールの方を見る
「はい、できました」
来た時と変わらない服装で、腰にはグレーマンがかつて使っていた片手剣を提げている。
「魔物なんて最近はあまり出ないが、片手しか使えない以上、油断はするなよ」
「分かりました」
「それじゃあ...行くか」
ため息をつきながら、家のドアを開け、鍵を閉めて、家を後にした。
しかし、その後に馬車を使おうとしてしまったが、皇帝の政策のせいか馬車が運休していたため、徒歩で向かうはめになってしまった。
<道の道中>
「...こういう旅も、何年ぶりかな」
そう、独り言を呟く
「あの〜...」
「なんだ?」
「ずっと家に篭っていたんですか?」
ウラジミールが、横から話しかけてきた
「20年前からな。今じゃ、あん時の自分に目も合わせられんくらい、歳をとった」
「一体何があったんですか?」
「詳しいことは覚えてないな...なんせ、20年前のことだからな...」
「でも、なんで20年前ってわかるんですか?」
「その時は、俺が軍のトップ...参謀総長を辞任した時だからな。いろんないざこざがあって辞めたんだ」
「...そうなんですか」
「まぁ、今は充分な金はあるからそこまで不自由じゃないが」
話を交わしながら歩いていき、やがて日が暮れてきた
「もう時期、日が暮れる。その辺で野宿する準備をするぞ」
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