破滅の音

「奈緒子!」

 黒猫がかりかりと爪を立てている、突き当りのドアに奈緒子が手をかけたとき、ロビーの方から佐野の声がした。

「奈緒子、聞いてくれ。必ず、奈緒子の生徒は返す。奈緒子はゲートの前の駐車場で待ってて。そこに、三人連れていくから。危害は加えない。信じてくれ」

「どう信じろって言うのよ。今ここで引き渡して」

「用事が終わってないんだよ」

 奈緒子の足元で、黒猫が、にゃあ、と鳴いた。

「クロ……お前はいいよな自由で」

 佐野が脱力してように、そう言った。

「ここで飼ってる猫なの? ここに入りたがってるみたいよ?」

 奈緒子は、あくまで警戒を解かずに、佐野にそう言って、ドアを指した。

「その先は大切な場所だよ。奈緒子を入れるわけにはいかない」

「……ここに、詩織さんたちがいるの?」

「バカなことを」


 佐野が一歩前に出る。

 奈緒子がドアノブに手をかける。


 その瞬間だった。


 突然、激しいベルの音が鳴り響いた。

 火事の時の警報だ。


 佐野が足を止めて、上を見上げた。


「何だ? 何が――」


 直後――大きな音が響いた。

 何か、爆発音のようなもの。

 ガラスが割れる音。

 大きな水音と、もう一度ガラスが割れる音。

 メリメリ、嫌な、きしむような音。


 すぐ近くで聞こえた。

 足元にも振動を感じた。

 佐野は、一気に青ざめて駆け出すと、奈緒子を押しやってドアを開けた。


「佳月!」

「え? 葉月?」


 佐野が佳月を呼んだ声は、奈緒子には葉月と聞こえた。

 二人はなだれるようにして、地下室へと駆け出した。

 

 黒猫は、二人が地下に向かったのを確認すると、見えない何かに撫でられているように、心地よさそうに目を細めた後、ロビーに向かい、一足先に、外へと出て行った。

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