閑話1
2の少し後くらいの話
<池田 裕也視点>
「ねぇお願いしますよ。僕と後藤さんの仲じゃないですか」
「悪いね。確かに池田くんの会社とは懇意にしていたけど・・・ちょっと火遊びが過ぎたみたいだね。うちの会社が奥さんの親父さんと古くからの付き合いがあるの知ってるだろ?」
「・・・・」
これで3件目だ。
妻と離婚し一ヶ月が過ぎた後、取引のあった大手顧客数社から契約の打ち切りを言い渡された。
急ぎアポを取り話を聞きに行ったが何処も同じような反応だった。
確かの義両親の伝手で契約した会社だったけど俺の技術やセンスを褒めてくれていたじゃないか。
あれは・・・全部お世辞だったのか?
まだ契約が残っている顧客もあるけど小規模の顧客ばかりだしこれだけじゃ会社の運営は難しい。
銀行に融資を・・・いやこの状況で融資は受けられるとは・・・どうしたら。
そんなことを考えながら社用車を事務所の駐車場に停めエレベーターで事務所のあるフロアに向かうと。
養生された事務所から業者が事務所内の什器を運び出しいているところだった。
「な、何をやってるんだ!!」
俺は慌てて近くに居た作業員に声を掛けた。
当然事務所に引っ越しの予定など無い。
「何って・・・依頼を受けて什器の搬出を行ってるんですよ」
「い、依頼?俺はそんな依頼した覚えはないぞ!!」
「そ、そんな事言われても・・・」
淡々と答える作業員に苛立ちを覚えながら、作業員と問答をしていると事務所の中から見知った男が俺に声を掛けてきた。
「俺が依頼したんだよ」
「・・・藤枝?」
「久しぶりだな池田」
前の会社で隣の部署の課長だった男だ。
俺とは顔を見てお互い挨拶する程度の関係で、そんなに接点があったわけじゃないが・・・なんでこいつがここに?
それよりこいつが依頼を?
「久しぶりじゃない!
どういうことだ?お前が依頼したって?」
「言葉通りさ。会社なんてもうお前にゃ必要ないだろ?
どうせ顧客からも契約切られてるんだろ」
なんで契約のことを知ってるんだ?
それより俺に会社が必要ない?何言ってるんだこいつ。
「ば、馬鹿言うな。ちゃんと顧客なら・・・」
そうだ。大手は契約を切られたが、まだいくつか顧客は残っている。
それに営業かければこれから幾らでも増やしていけるはずだ。
「強がるなって♪もう無理だよ」
「な、何を」
何を・・・言ってる?
それに何か知ってのかこいつは?
「お前の会社負債もあったろ?それに離婚して義両親からの融資も途絶えた。
今までの顧客は義両親の伝手がほとんどのはずだ。
まさか、今までの業績が全て自分の手柄だとか思ってないだろ?」
「う うるさい!!」
「はは。悪い悪い。まぁそういうわけだ。
あ、ちなみに残っていた顧客やお前ん所の社員は俺のところで巻き取ってやったから安心しな」
「な!巻き取る?どういうことだ?」
「質問が多いなぁ・・・」
「う、うるさい!どういうことだ!!」
俺の顧客や社員を藤枝が?
あ。ありえない。
そんなこと・・・
「ありえないとか思ってるんだろ?
うちの会社が"同じ料金で対応します"って言ったらどこの企業も喜んで契約更新してくれたぜ」
「ば、ばかな・・・」
「従業員も全員うちに転職するってさ。少しは残るって言うかと思ったけど本当お前って人望無いな♪」
「・・・そんな」
「まぁ自分の人望の無さと今までの行動を悔いな。
あ、それからここの事務所で使ってた什器の回収は正確にはお前の"元"奥さんからの依頼だ」
「え!?」
「驚くことでもないだろ?お前も仕事で"元"奥さんと知り合ったんだ。
俺が知り合いでもおかしくないだろ。
この間仕事で会った際に頼まれたんだよ。大した額にはならないだろうが慰謝料代わりに売却するらしい・・・って聞いてないか」
「・・・」
「ま、今まで散々好き勝手やってきた報いだな。
あ、事務所の鍵は後で管理人さんが取りに来るはずだから頼むな」
そ、そんな・・・俺はこの先どうしたら・・・・
引越し業者と去っていく藤枝を見ながら俺はその場で膝から崩れ落ちた。
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