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<横田 満視点>


恵利と別れてから2年が過ぎた。

最初の頃こそ僕自身も気持ちが沈み気味だったし、周りも僕に気を遣い腫れ物を扱うな接し方だった。

まぁ恵利の事も知っている人が多いわけだし普通に気まずいよな。


2年経った今も恵利に裏切られた記憶は払拭できず、未だに突然思い出して気持ちが落ち込むことがある。

離婚後はマンションを引き払って、昔住んでいた町に出戻ったりもしたけど嫌な思いは簡単には忘れられないものだ。


でも、田丸さんを始めとした気心の知れた仲間の協力もあり、僕の日常も徐々に戻ってきて・・・今ではほとんど以前と同じような生活が送れていた。


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「お待ちしていました。今日はよろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします。坂下さん」


今日は取引先の川野辺製薬に来ている。

川野辺製薬は僕がエンジニアの仕事を始めた頃から取引のある会社で社内システムのメンテナンスや導入を請け負っているんだ。

坂下さんは技術職ではないけどシステム関連の導入を担当している営業部の人で、

若い(と言っても僕より少し若いくらいだけど)ながらも説明に対する理解も早いし交渉事もやりやすく助かっている。

きっと彼もいい上司に恵まれたんだろうな。


今日はそんな坂下さんと新しく導入するシステムの打ち合わせを行っている。

早速パソコンを起動し資料をお見せしようとしたところ


「あ、そういえば以前横田さんの会社に居らした池田課長。

 この間、横川にある支店で見かけましたよ」

「え?池田をですか」


思わぬ名前が出てきた。

あの日以来、池田とは一切関わり合いは持っていない。

色々と思うところもあったけど慰謝料だけ請求して後は弁護士に任せっきりだったしな・・・

ただ、風のうわさで会社がうまく言っていないとか潰れたとかの話は聞いていた。


「はい。うちの別の担当のところに営業に来ていたらしくて。

 ただ、うちは横田さんのところと運用保守の契約してますし・・・それに池田さんの会社・・・あまりいい噂聞かないんですよね。元上司の悪口みたいで恐縮ですが、メンテナンスの品質が悪いとか対応が遅いとか・・・」

「いえ。もう池田は弊社の人間ではありませんので気にしないで大丈夫ですよ」


池田もこの会社がうちの会社と契約しているのは知ってるはずだけど・・・形振り構ってられないほど経営が危ういのかな。

まぁ知ったこっちゃないし、むしろザマァ見ろってくらいだけど♪


その後、坂下さんとの要件整理は問題なく終わり後日見積もりをお送りするということで打ち合わせも終了となった。




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「外回りお疲れ様。川野辺製薬だっけ?」

「そ。御用聞きだよ」

「ふふ。あそこの会社って横田君の事お気に入りだもんね」

「本当ありがたいよな。他の現場は若手に任せたけどあそこだけは未だに外せないよな」

「まぁお得意様だし頑張ってくださいな横田代理♪」

「了解」


最近になって業務実績が評価され僕は課長代理に昇進していた。

まぁ同期の中では遅い方ではあるけど自分が評価されたのは嬉しい。

そして、上司は相変わらずの田丸さん。

彼女は去年課長に昇進し僕のチームの他にもたくさんの部下を管理している。

ほんと頑張ってるし尊敬できる人だ。


「あ、そうだ横田君。この後も外回り入ってたよね?車でしょ?駅まで乗せてってくれないかな。私も外回りなんだ♪」

「え?あぁいいよ」


田丸さんとは恵利との離婚の後、以前より仲が良くなった気はする。

会話する回数も増えたし何かと僕の事を気にしてくれている。

それに彼女や僕の上司でもある藤枝次長も飲みに誘ってくれたり色々と僕のことを気にかけてくれている。本当ありがたい。


「あ、そういえば。客先で池田の話を聞いたよ」

「池田ってあの池田君?」

「そ。川野辺製薬の支店に飛び込みで営業に来たとか」

「あいつ・・・うちの会社に喧嘩売ってるのかな?」


田丸さん・・・何だか顔が怖いよ。

目が笑ってないし。

まぁ確かにそうだよな。あいつも同じ様なメンテナンス関連の会社立ち上げたはずだから、うちの取引先を奪おうとしたってことだもんな。


「確かにそうとも取れるな。あ、もちろん川野辺製薬は断ったそうだよ」

「まぁそうなるでしょうね」

「だね」


と、田丸さんは少し考える様な仕草をした後、僕に池田のことを話してくれた。


「・・・気分を害するかもしれないから横田君には教えてなかったんだけど池田君、あの件のあと離婚したらしいのよ」

「離婚?」

「そ。恵利以外にも関係をもっていた女性が居たらしいんだけど奥さんやその御実家にバレちゃったみたいで。ほら、奥さんの家って資産家だって言ってたでしょ?独立の資金援助もしてもらってたみたいだから、打ち切られた上に慰謝料まで請求されて大変だったみたいよ」


そうか。まぁ自業自得だな。

人の家庭をメチャクチャにしたんだし同情する気にもなれないな。

それに恵利以外にも・・・あいつの何処が良いんだろう。


でも・・・


「何でバレたんだろ。僕と恵利のときは本当偶然だったし。

 僕は全然気が付かなかった。

 池田ってそういうとこバレずにするの上手そうだったけど」


悔しいけどそういうところは要領がいいというか抜け目がないというか。

僕にはマネできない。


「ふふ♪なんでも匿名のタレコミがあったみたいよ」

「タレコミ?」

「そ。"娘婿さんが浮気してますよぉ~"って匿名の投書があったらしくてね♪

 証拠写真とかもあったみたいで奥さんや義両親に激怒されて身一つで追い出されたみたい」

「そ そうなんだ」


やけに詳しいな田丸さん。

それに・・・に妙に詳しいし楽しそうなんだけど。


「・・・まさかとは思うけど・・・田丸さん?」

「あ、そろそろ外出の準備しなくちゃ。横田くんも準備あるでしょ?」

「あ あぁ」


まぁ深くはツッコまないことにするか。

池田のことなんか知ったことじゃないし。

とりあえず田丸さんを怒らせると怖いってことだな。

うん。気をつけよう。

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