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翌日、仕事をする気になれず会社には休みの連絡を入れた。

色々と頭の中や気持ちの整理をしたかった。


ただ、しばらくして心配した上司から社用の携帯に電話がきた。

滅多に休みを取らない僕が急に休みを取ったから驚かれたのかもしれない。


池田が居た頃は成果重視で現場内もギスギスした雰囲気だったけど、池田の後任の田丸さんが現場を仕切るようになってからは雰囲気もだいぶ変わった。

田丸さんも池田同様に僕と同期だけど真面目で実直なタイプ。

ついでに癒やし系な和み女子。

それでいて確実な仕事で業績を上げて役職に就いた人だ。

視野も広いし部下思いで人望もあり客観的に見ても良い上司だと思う。

僕も見習うところが多い。


と、まぁそれはそれとして、そんな田丸さんからの電話。

同期ということで気心もしれており仲もいい方なんだけど、同じ職場に居た恵利や池田のことも当然知っている。

それに妙に勘がいいところもある。

黙っていてもいずれバレそうだし、少し悩んだけど正直に昨日の出来事を話した。

最も他人に語るような内容じゃないかもしれないけど、どこか心のなかで誰かに話を聞いてもらいたいという思いもあったのかもしれない。


途中気分が悪くなりながらも僕がひとしきり話をするとそれまで黙って話を聞いていた田丸さんが急に苛立った声で大声をあげた(職場にいるんじゃないのか?)


「何考えてるの恵利は!!それに池田のバカ!!最っ低よ。あの2人!!」

「いや・・・その・・・」


なんだか僕以上に怒ってくれているような。

電話口からもその怒り具合が伝わってくる。

田丸さんも普段穏やかな感じなんだけどな。

多分、田丸さんは事務所にいるんだよな?大丈夫なのか?


「とにかく私も部署のみんなも横田君の味方だからね!何かあったら遠慮なく言ってよ!」

「え、お、おぅありがとうな」

「じゃぁ今日はゆっくり休んでね。明日も無理しなくていいから!

 それに私に出来ることとかあったら遠慮なく言ってね!」

「・・・ありがとうな」


そう言いながら少し苛立った口調のまま田丸さんは電話を切った。

・・・確かに池田は自分のことを優先するタイプで人望はなかったし、恵利も注目はされていたけど社交的な感じじゃなかったから友達は少なかったよな。

だとしても部署のみんなが僕の味方って。

僕もそれほど人望あるとは思えないんだけどな。



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電話を終えた僕はキッチンで水を飲み一息ついて、投げ捨ててあったスマホを手にとった。

昨日2人を追い出してすぐに恵利から着信があったから壁に投げつけたんだよな。

幸い画面は割れてなかったけど画面には恵利からの電話やメールの着信で埋め尽くされていた。


軽く見た限り"謝罪したい","もう一度やり直したい"とか色々と書かれていたけど・・・恵利のやつ調子良すぎないか?

僕の気持ちを考えてるとは思えないし謝って済むような状況では無いと思う。

それに・・・今は僕自身彼女や池田に会いたくもないし許せるとも思えない。


僕は念の為メッセージのスクショを取ると恵利からの電話やメールを着信拒否に設定した。

ついでに連絡が来ることは無いだろうけど池田も拒否設定にした。

まぁ元々池田とは仲が良かったわけでもないし社用の携帯はともかく個人携帯に連絡は来ないだろうけど。


と、スマホを弄っていると今度はマンションのインターフォンが鳴った。

昼近いとはいえ平日のこんな時間に誰だろう。

まさか恵利?

僕は少し緊張しながらインターフォンの応答ボタンを押しカメラが映し出す訪問者を確認した。


「はい」

「あれ?その声は満君か?今日は仕事休みなのか?」


インターフォン越しにいたのは恵利のお義父さんだった。

時々遊びに来ることはあったけど今日も恵利と何か約束でもしてたのか?


恵利の両親は、マンションから歩いても10分とかからない近所に住んでいる。

ご両親が心配だからとマンションを買うときも実家の近所で探したんだ。


僕の両親は5年前に交通事故で他界し付き合いのある親戚も居ないので、彼女とそのご両親がある意味唯一の家族と呼べる存在だった。

だから精一杯の親孝行はしてきたつもりだったし、その関係も良好だったと思っている。

だから恵利とのこともきちんと話はするべきなんだろうけど・・・まだ気持ちの整理もついていないのに思ったより早くその機会が来てしまった。


「いや~満君。久しぶりだね。最近忙しいみたいだけど体は大丈夫か?

 それに平日に休みなんて珍しいじゃないか。そういえば恵利は居ないのか?」

「はい。。。そのですね」


玄関に入って貰って早々に色々と質問を受けてしまった。

お義父さん話好きなんだよな。

それに機嫌も良さそうだ。

温厚で凄くいい人なんだよな。


恵利の家は、ごく普通のサラリーマン家庭だったけど高齢になってからの一人娘ということもあり過保護とも呼べる位に恵利のことをとても大切に育てていた。

だから・・・もしかしたら今回の事も恵利の味方をされるかもしれない。

お義父さんとも飲みに行ったりする位に良い関係を築けていただけに辛いな。


そう思いながらもお義父さんをリビング招き入れ僕は昨日の出来事を語った。


最初のうちはお義父さんも笑顔で僕の話を聞いていたが、話が進むうちに段々と顔色が悪くなり怒りの表情が見え隠れし始めた。

それに僕自身も話していてだんだん辛くなってきて・・・最後の方は声をつまらせての言葉となってしまった。


そして、僕が最後に"恵利さんとは離婚したいと考えています"と告げると、突然お義父さんがテーブルに手をついて大声を発した。

昨日は恵利を追い出したし、やっぱり恵利の味方になるのかな。


「何やってるんだ!あのバカ娘が!!」

「え?あ、あの・・・」

「すまない。満君。どんなに謝っても君の受けた仕打ちは癒えないと思うが謝らせてくれ!!娘が本当に申し訳ない」


とフローリングの床に土下座をして涙声で謝罪された。

思っていた反応と異なる本気の謝罪。

あんなに可愛がっていた恵利じゃなく、お義父さんは僕に謝罪をしてくれた。

僕のことも本当の"家族"って思ってくれていたんだな。


そう思っただけで何だか嬉しくて涙が出てきた。

駄目だな昨日あんなに泣いたのに。

何だか昨日から情緒が不安定気味だ。。。

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