板の上に立つ少女

星野志音

プロローグ

 二月中旬。彼女は緊張の面持ちで新幹線を降りた。そして、新幹線から山手線に乗り換え、渋谷駅で叔母と落ち合う手筈だった。中学三年生の彼女がホテルに滞在するので、東京に住んでいる叔母に付いて来てもらったのだ。二人は、二、三の挨拶を交わし、ホテルへと向かった。二年弱振りの再開にも関わらず、二人の会話は弾まなかった。しばらく沈黙が続いた後、叔母が彼女のカバンに付けていたお守りに目を付けた。

「あら、合格祈願ね。良いお守りじゃない」

「まぁ、うちの近所の小さな神社で買ったやつなんだけどね」

 叔母の一言から彼女の緊張も少し和んで、二人はたわいもない話をしながらホテルへと到着した。

 その日は、彼女の高校受験の前日だった。ホテルに着いてからは雑談をする暇もなく、明日に迫る受験に向けた追い込みへと励む。彼女の勉強する中、叔母は静かに紅茶を淹れて一人で飲んでいる。夜は、叔母が気を利かせてルームサービスを注文した。彼女は、食事の小休止を挟みながら夜遅くまで必死に勉強した。あまりにも必死な様に少し驚いた叔母だが、最後まで彼女のことを見守った。

 翌日、全力を費やして試験を受けた彼女は、叔母に感謝と別れを告げ、全身が疲弊した様子で帰りの新幹線に乗った。

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板の上に立つ少女 星野志音 @shion0407

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