クレーム客

最悪な客に当たってしまった。

ファミレスでバイトをし始めてから2か月、今私は怒鳴り声を上げる50代くらいの男性客に向かって頭を下げながらそう思っていた。


男性曰く「お前のふてぶてしい態度が癪に障った」とのこと。

癪に障った…ね。


まあ、確かに私はどちらかというと無愛想な方だ。

元々人と話すのは苦手だったが、小遣い欲しさのために適当にバイトを探していたらたまたまこのファミレスで採用されただけ。


仕事に対して、熱意はない。

たかがバイトだ。


その態度が、癪に障るのも無理はないだろう。


私は、「面倒だなぁ」という感情を押し殺しつつ、男性客に深々と頭を下げた。


「申し訳ありませんでした。」

そう一言。


男性客は、なおも怒鳴る。

大声を出しすぎて、何を言っているか分からない。

「はい、はい」と相槌を打ちながら、表面上謝ったふりをしつつ、私は「早く上がりたい」と思っていた。


すると、男性客は急にこんなことを言い始めたのだ。


「全く…今日が最後の晩餐なのによ…。」

先ほどまでの罵声とは打って変わって、覇気のない、今にも死にかけの老人のような低い声でボソッと呟く。


「最後にうまい飯食って、すっきりした上でいこうと思ったのによぉ…。」

男性客は、俯いたと思った瞬間、グルンと首を上げ鬼のような形相で私を睨みつけ、そして手首を強い力で握ってきた。


「なんなんだよ!その態度!!ふざけるなよ!最後にうまい飯食いたかったのに、お前みたいなクソバイトにイライラしなきゃならないんだよぉ!」

「お客様!おやめください!」


強い力が手首を締め上げ、私は痛みで思わず声を上げる。

私たちの騒動に気づいたのか、いつの間にか店長やスタッフたちが駆け寄り、男性客を取り押さえた。


男性客は、拘束されながらも私の方に向かって叫び続ける。


「絶対に許さねぇ。いった後も、お前を呪ってやる。今まで通り、甘ちゃんみたいな生活が送れると思うなよ。」

男性客のぎらついた瞳が、いつまでも私の脳裏に焼き付いて離れない。


その後、彼は駆け付けた警察によって店内から連れ出された。


――――――――

数か月後、バイトから帰宅してテレビをつけたときに自殺者のニュースが流れた。

そこに映っていたのは、まぎれもなく、あの時私にクレームを言ってきた男性客だった。


一瞬だけ、背筋が凍った。

あの時の、男性客の言葉が脳裏をよぎったからだ。



『絶対に許さねぇ。いった後も、お前を呪ってやる。今まで通り、甘ちゃんみたいな生活が送れると思うなよ。』


呪ってやる。

呪ってやる。


いつまでも、その言葉が頭から離れない。

幽霊や呪いといった類は信じていないけど、まさか…ね?


ふと、カーテンで閉ざした窓から視線を感じた。

嫌な予感がする。

カーテンの向こうに、誰かいる。

開けてはいけない。

でも、開けないと気が済まない。

あの男だったら?

そんなこと関係ない、早く開けたい。

開けろ。

開けろ。

開けろ。


「…今日はもう寝ようかな。」

嫌な予感がして、開けたい気分だったがやめた。

明日もバイトだ。さっさと寝よう。


布団に入り、眠りにつこうとしたその時だった。


「なんで開けないんだよ。開けろと何回も言っただろ。開けたいと言っただろ。ふざけるな!死んだあともイライラさせるなよ!!ふざけるなぁぁぁぁぁ!!」


あの男が、鬼の形相で枕元で私を見下ろしていた。


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