怪獣がくる

「今日、怪獣が来ますよ。」

突然、担当している女性が言い放つ。


私は唖然として、求人票を印刷する手を一瞬だけ止めた。


「怪獣って、どういうことですか?」

「怪獣は怪獣です。大きくて、街一つ壊せるくらいの。」


彼女は、私とは視線を合わさず、淡々と答えた。

質問に対して的を射た答えではないが、その目はいつものように虚ろではなく、真剣だった。


彼女は妄言こそはけど、冗談は言わない。

そんなタイプだ。


私は止めていた作業を開始し、彼女が希望する職種の求人票をいくつか印刷し、渡す。

そして、違和感のないように、相手が納得するように言葉を続けた。


「怪獣ねぇ…。まあ、怪獣が来る日ぐらいありますよ。最近は大型台風とか、火山噴火とか色々あるじゃないですか。」

「それは全部予兆なんです。今日絶対に怪獣が来ますよ。」


その瞬間、大きな地響きの音が鳴り響き、備品や書類が床に滑り落ちる。

一瞬椅子から転げ落ちそうになったが、なんとか机に手を伸ばして落下を防ぐことができた。


所内では、職員や利用者のかすかな悲鳴や同様の声が聞こえる。


もう一度、地響きの音がなる。

今度は大きい。

デスクや備品など、様々なものが揺られ、落ちていく。


正直、机に伸ばした手を強くして、自分の体を支えるだけでやっとなレベルだ。


一瞬地震かと思ったが、違う。

ズシン…ズシン…と、何かが歩くような、そんな音だった。


「ほら、言ったじゃないですか。」

ふと気づけば、目の前の彼女は微かに笑って私を見つめていた。


綺麗な姿勢で椅子に座っている。

あの地響きに、全く動じていないとアピールするかの如く。


「今日、怪獣がくるって。」

彼女の声と同時に、耳をつんざくような咆哮が、辺り一面に轟いた。

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