行き着いた先
あの時、募集について教えてもらった結果、私は晴れて新しい職場を手に入れることになりました。職場は辺境伯所属の騎士団です。その中の魔法専門の騎士になります。騎士と名はついていますが普通の魔法使いですね。
……おかしいですよねぇ? 私、メイド募集の欄に名前を書いたはずなんですけどね。何故かこういうことになって。
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『ネイは家名はないのかしら? 前に確認した時は確か……クレド、だったか家名を持っていた気がしたのだけど』
私が提出した書類を見てレイア様が開口一番に質問して来た内容に私は戦慄しました。まさか私のことを覚えていたどころか家名のことを聞いて来る始末。しかも確認したとはなんのことなのでしょう。気が気ではありません。
『あーなるほどそういうことね。まあ、あの家なら仕方ないかしらね。それと職の志望はメイドになっているけど、本当にこれでいいのかしら?』
あの家なら仕方がないってどういうことなのでしょうね。レイア様は何を知っているのでしょうか。それと本当にこれでいい?という問いには私は少し頭を傾げました。
『貴方の保有している魔力が出身からしても十分に多いもの。最後に確認した時よりも伸びている気がするわね。だから、メイドでいいのかってことよ。これほどに魔力を保有しているならメイドではなく騎士団の魔術職につくことができると思うわ』
私の魔力量を把握されていた、というところにも驚きを隠せませんでしたが、他人の魔力を測るというのは本来なら計測器を使ってするものであって、普通は人の身で出来るものではありません。本当にレイア様は規格外の方なのだと再度その認識を引き締めました。
そうして給金の話になり金額の違いとレイア様の勧めもあって私はメイドではない職を選択することになったのです。
・
……まず、採用の面接官がレイア様本人なんて聞いていなかったです。いえ、他の人の反応からして急遽背負ういうことになったということでしょう。最初にレイア様が会場に入って来た時少し驚いたような表情をしていましたし。
あ、いえ、別に不満があるわけではないのですよ? なんだかんだ言って説得された際に話してもらった通り給金はいいですし、騎士団寮に住めますからそこでお金が出て行くことはないですからね。
「ネイ、大丈夫か?」
「うくっ、ま、まあ平気……です」
「そうか?」
騎士団の訓練所の地面にへたり込んでいた私にジェスクが声をかけて来ました。
正直、騎士団の訓練のことを忘れていました。私は学院の頃からメイドになるための勉強しかしていなかったため、体を動かすような職業を想定していなかったので訓練について行くことが難しいです。これでも傭兵をしていた時に多少は鍛えられたはずなんですけれどね。まあ、所詮は付け焼き刃だったということでしょう。
「はいよ」
「ありがとうございます。ジェスクは元気ですねぇ」
「俺はずっと鍛えていたからな。ネイとは比較にならないだろ」
当然のことでしたね。
この名前呼びに関しては打ち解けたとかではなく、騎士団の規則として加盟で呼ぶことを禁止されているために行なっていることです。別に私から進んで呼んでいる訳ではないのです。
「しかし、ネイが騎士団に所属することになるとは思っていなかったよ」
「私もです」
「メイド職になるとばかり思っていたから就任式で見た時は驚いたなぁ。まあ、俺としては嬉しい誤算的なやつだったけど」
「はい?」
ジェスクの誤算という言葉に引っかかりを覚えました。
「いやぁ、前から狙っていた子がこうも近くに来てくれるとは一切考えていなかったからね。メイドとはいえ同じ家に仕えるなら接点は作れるだろうかと思っていたんだけど、本当に僥倖というか」
狙っていた? 何をどう私を狙う必要があるのか少しだけ考えます。狙う、という意味からして敵意では? 男女間のあれこれの可能性もありますが、正直私は小柄なので豊満な方と違って狙われる理由がありませんし。
「クレド家に恨みでもあった?」
「え? 何でそうなるの? 普通に女性として狙っていたって意味なんだけど」
「なぜ?」
「むしろそこでそういう言葉が出てくる方が何故、何だけどな。好みって人それぞれだからネイが思っているのと同じように見ているとは限らないだろうに」
「そう……ですか」
今までそういった対象に選ばれたことってないんですよね。家のこともありましたが、見た目的なものが一番大きかったでしょうし。
「まあ、だからさ」
「はい?」
「これから少しずつ距離を詰めていく予定だから、よろしくね。ネイ」
「は?」
そう私に言い放ったジェスクはとてもいい笑みを私に向けていました。
お付きの令嬢が追放され、仕事を失ったメイドの行きつく先は にがりの少なかった豆腐 @Tofu-with-little-bittern
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