第3話 真打登場
先鋒が暴れ、次鋒がつなげ、中堅で締め、副将戦で最高潮に盛り上げた後、日本拳法をやり始めてから17年間、この日を夢見てきたという明治のキャプテン登場です。
私が彼に感心したのは以下の点です。
○ 自身の拳法の体質を変えた
○ 明治大学日本拳法部の体質を変えた
○ フィクションをノンフィクションに変えた
① 自分の拳法の体質を変えた
このキャプテンは、よほど器用な人なのか、今年は1年前と全く違うスタイルの拳法をされていました。去年と今年とでは登場した場面が違うから自然とそうなったのか。それとも、決めの一本は突きや蹴りでスカッと取るという方針で今年は臨んだのか。
2020年の府立(全日)決勝戦で、深町氏は非常に難しい場面で(副将戦)登場しました。この大会、明治ははじめの2人が勝ったのですが、その次から立て続けに関大3名が勝利し、明治は絶体絶命のピンチ。まさに剣が峰だったのですが、深町氏は持ち前の図太さで慎重、且つ大胆に、少しずつ相手を追い詰めながら、逆転攻勢をかける関大を押し返していきます。
相手にねちねちと組み付くという、このときの彼のスタイルを見ると「どすこい拳法」のようですが、それは相手にプレッシャーをかけて自分のペースに巻き込むための「身にかわる太刀」(「五輪書」)であり、あくまでも自分の「場を作る」ための揺さぶりでした。
日本拳法とは、蹴りと面突き攻撃から組んで膝蹴り、更に逆を取ったり倒したりという、日本拳法らしい一連の基本的流れがあるのですが、まさにその通り、一本目は組んで膝蹴り、二本目は組むと見せかけて見事に胴を抜きました。組み打ちこそは(柔道・柔術とキックボクシング以外の)格闘技にはない、日本拳法の重要な攻撃手段ですが、これを自分の場作りに利用し、(ひざ)蹴りと拳(胴)で2020年のあの際どい場面を切り抜けた(勝利した)わけです。
さて、今回は昨年と違い、すでに明治が4勝していますので、昨年と違い開始早々から飛ばします。派手に勝つことを狙っていたのかもしれません。
組み付いて相手をけん制しながら突きや蹴りで取るというスタイルはせず、今年は先ず相手に追い詰められながら、待の先で面突きの一本を取ります。相手が自分よりも小さければ押し込み、逆であれば、少し引きながら誘い込む、という常道です。
岩波文庫版「五輪書」から
第二、待の先
敵我方へかゝりくる時、
少しもかまはず、よはきやうに見せて、
敵ちかくなつて、づんと強くはなれて、
飛び付くやうに見せて、敵のたるみを見て、
直に強く勝つ事。これ一つの先。
さらに、彼は攻撃の手を緩めず、勝ちの機運を引っ張ります。
そして、同期で良きライバル、という今回中堅でやはり明治らしいがんがん攻める拳法を見せてくれた大谷氏の面蹴りを意識したのでしょうか、派手な攻撃で〆の一本を決めました。
チームの浮沈がかかった昨年の際どい場面と、優勝が決まって余裕を持って戦うことができた今年と、それぞれの状況の違いによって自然とそのスタイルが変わったのか、それとも今年は初めからこういうスタイルで勝とうと決めていたのでしょうか。いずれにしても、臨機応変に自分の場を作り出すことのできる「アクの強さ」という点は、さすが「大阪人や」です。
② 明治大学日本拳法部の体質を変えた
普段はマネージャーが書くブログが、府立(全日)前から終了後にかけて、各部員が毎日担当して書くというのがこの大学の恒例となっているようです。
今までは、公務員的な、お座なり・当たり障りのない・無難な内容が多かったのですが、今年はキャプテンの性格を反映してか、かなり自分の個性を反映させた・素直に自分の考えを表明した秀逸な「独り言」が多くて楽しめました。
自分が読んだ本の内容を的確且つ簡潔にブログで紹介したり、マラソンと日本拳法のスタミナの違い(言われてみれば、なるほど、です)を教えてくれたり、中秋の名月なんていうロマンティックな言葉、社会人になったあとの自分の姿を想像する(なんて、この人の拳法とは違う一面を見せてくれた)等々。
なかでも「応援のかたちはひとつじゃないよなと自分に言い聞かせながら・・・」という一文は、学生時代、いつも応援される側であった私にとって、その有り難さというものを、改めて思い起こさせてくれました。
「老子」第11章には、「形のあるもの(有)が人の役に立っているのは、形のないもの(無)が作用しているから」という逆説を、3つの例を挙げて解いています。
「其の身をのちにして身先んじ、其の身を外にして身存す」(第7章)。
自分自身を人よりも後回しにするが、いつの間にか自分が先頭に立ち、自分自身を無視するが、いつの間にか自分(の地位)をしっかり確保している。」という(禅などでいうのとは違う)真の「無為自然」。
「大器は晩(おそく)く成り、大象(たいしょう)は形なし」易経
真に大きな器はいつ完成するかわからないほどゆっくりと出来上がり、真に大きなものには形がない。
大学4年と言わず、卒業後40年間かかっても、日本拳法らしさを道として追求できればいいのではないでしょうか。
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