第106話 君を追い求めて
僕はその少女に憧れた。
そして恋をした。愛を知った。
そして失った。
あの日から毎日君が夢に現れる。
だから僕は君を追い求める。
夢を、夢の中の君を。
だから僕はもう一度挑戦する。
ダンジョンへ。
◇5年後
「世界は復興しました。5年前のあの日世界に魔物が現れて、大地震により多くの尊い人命が失われました」
テレビでは、あの災厄の日から5年として追悼番組が流れる。
「そしてのちに明かされたのが、神話の話。そして魔王の復活、悪神ロキです」
あの日世界に何があったか、すべては明かされた。
「魔王の器となったユグドさんは今も復興のため尽力されていると」
あれからユグドは世界を回ってその力を復興に役立てている。
当初こそ避難され、石も投げれることもあった。
それでもただひたすらに彼は世界を回って復興に尽力する。
その5年間は彼の信頼を得るには十分だった。
「そして肝心の世界を救った勇者は…」
そして世界を救った二人の少年と少女。
勇者蒼井レイナ。
テレビではこの日、彼女へと祈りをささげることが通例となる
「では、皆さん。黙祷を」
レイナのモデルの頃の写真が映し出される。
世界を救った英雄として。
世界中が静かになる三分間。
世界を救った少女に感謝をする時間。
…
「御剣剣也さんは、今何をされているんですか?」
黙祷が終わり、コメンテータが質問を投げかける。
「彼は、ダンジョンに潜っています。あの日からずっと毎日」
何かにとりつかれたように剣也はダンジョンに潜る。
実に5年間。
一度たりとも欠かさずに。
番組ではあの日の戦いが何度も流される。
剣也は文字通り救国、いや、世界を救った英雄として祭り上げられる。
しかし彼はメディアには一切出てこなかった。
毎日ダンジョンへ通う。
その様子は狂気にも見えた。
当初こそ多くの取材陣が彼に話をと立ち向かったが、無人の荒野を行くがごとく進む剣也にインタビューは諦めた。
彼の悲しみを止めることなど誰一人としてできなかったから。
…
「先輩…今日も行くんですか?」
「あぁ」
「お兄ちゃん……いってらっしゃい。今日は焼肉にするから! 早く…かえってきて」
「ごめん、今日も遅くなる…」
「そっか……」
美鈴と奈々は剣也を見送った。
レイナを求めて、毎日ダンジョンに通う剣也をいまだに止めることができない。
(お兄ちゃん……)
その背中があまりにも悲しくて、それでも止めることができなくて。
(レイナさん……先輩壊れちゃうよ)
虚ろな目で毎日通う剣也はひげも伸びて今年で21歳。
蓄えは十分なので生活はできているし、美鈴と奈々が身の周りの世話は焼いているが、それでも彼の心を救うことはできない。
夢を追い求める少年をついぞ止めることはできなかった。
…
ダンジョン59階層。
あの日世界から魔物は消えた。
しかしダンジョンにいる魔物だけは例外のようで、いまだに機能を残している。
封印の力は解き放たれているが、ダンジョン自体の機能は残している。
そして剣也は今日もダンジョンに通う。
なんのために?
(レイナ……会いたい)
今日もまたボスの魔物を一撃で屠り、ダンジョンを周回する。
(君に……)
あれから5年。
毎日欠かさずダンジョンに通う。
一階層から59階層まで毎日。
そして今日、遂に達成した。
剣也が追い求めていた一つの目的が達成される。
『レベルアップ! 魂錬金LvMAXになりました』
(あの日から僕は一度たりとも忘れたことはない)
剣也が求めていたのはDP。
しかし次の進化には1000万DPという破格のポイントが必要だった。
だから周回した。
そして今日ついに、進化した。
『これによって、魂から元の状態に錬成可能になります』
(君に言いたいことがたくさんあるんだ、世界を救った君に、最愛の君に)
そのアナウンスを聞いた剣也は手をかざす。
「魂錬成! 蒼井レイナ!!」
5年ぶりに大きな声を出す剣也。
剣也の身体から光の粒子が湧き出ていく。
徐々にかたどって、人の形を成していく。
祈るように、剣也はその光を見つめる。
涙があふれて前が見えなくなる、それでも声が聞こえる。
何度も夢に見た、追い求めた君の声が。
「あ…あ…」
声にならない嗚咽を漏らす剣也。
その手を伸ばす先にいるのは、美しい少女。
「剣也君……あなたの中でずっと見てました」
「レイナ…」
そこには、あの人変わらずに蒼い瞳を輝かせ。
ブロンドの髪をなびかせる美しい少女。
「だからわかってました」
「レイナ! レイナ!」
「信じてました。きっとあなたなら」
「レイナ!」
そしてレイナが両手を前にしてこちらを向く。
「剣也君! あの日の続きを。ぎゅーってしてくれますか?」
笑顔で泣きながらこちらを見る。
剣也は走った。
レイナを強く抱きしめるために。
剣也を強く抱きしめるレイナ。
「好きです、剣也君。あの日から変わらずに」
「僕も、僕もだよ! レイナ!」
そして二人は、口づけをかわす。
「レイナ…」
剣也は膝まづいてポケットから取り出した。
あの日から言いたいことがたくさんあった。
それでも彼女に会ったら、会うことができたなら。
伝えたい思いがある。
もう優柔不断はやめた、思いを全て声にする。
失った5年を取り戻すために無駄な時間なんて必要ない。
だから。
「僕と結婚してほしい」
完治の指輪を差し出して、レイナへとプロポーズする。
もう二度と君を離さない。
どんな敵が来たとしても、どんな悪が来たとしても。
君となら一緒に乗り越えられる。
「僕と幸せな家庭を築いてほしい。君とならどんな困難だって乗り越えられる」
レイナは左手を差し出した。
剣也は、その手を取って指輪をはめる。
満面の笑みで指輪を輝かせレイナは答えた。
たった一言、目いっぱいの涙と共に。
…
カランカラン
祝福の鐘が鳴る。
「新郎。健やかなる時も、病める時も豊かな時も、貧しき時も、彼女を愛し、彼女をなぐさめ命のある限り真心を尽くすことを誓いますか?」
「はい、誓います」
「新婦。健やかなる時も、病める時も豊かな時も、貧しき時も、彼を愛し、彼をなぐさめ命のある限り真心を尽くすことを誓いますか?」
「はい、誓います」
永遠の愛を二人は誓う。
今日は二人の結婚式。
指輪を交換し、誓いのキスをする。
バージンロードを歩く二人。
行きのバージンロードは「過去」の道
二人が歩いてきた道のり。
多くの壁を越えてきた。
二人でならどんな壁だって乗り越えられる。
そして到着した先は現在。
今二人は愛を誓う、勇者と錬金術師は変わらぬ愛を。
そして帰りのバージンロードは「未来」の道。
両脇には、多くの人が二人を惜しみない拍手で祝福する。
「レイナ先輩チョー綺麗! 剣也先輩浮気しちゃだめだよ!」
「おめでとう、剣也君。レイナ君。幸せに」
「お兄ちゃん! レイナさん! おめでとう!」
「坊主、嬢ちゃん。幸せにな!」
「御剣氏! 御剣夫人! おめでとうございます!」
次々とお祝いの言葉がライスシャワーと共に降り注ぐ。
少し照れくさいけど、それでも嬉しい。
多くの人を救った二人、世界すらも。
その二人は多くの人に祝福されて、今日むずばれた。
二人は未来へ向かう。
思わず笑みがこぼれる。
それは隣にいる君も一緒だよね。
「剣也君…」
「ん?」
「私憧れてることがあるんです!」
すると途中でレイナが剣也の首に手を回す。
「ちゃんと受け止めてくださいね!」
レイナが飛んだ、軽やかに。
剣也は両手で抱き上げる。
「これでよろしいですか? お姫様」
「ふふ、よろしくってよ。じゃあ行きましょう! 私達の輝かしい」
レイナはお姫様抱っこされたまま指をさす。
扉の向こう、未来へと。
二人は未来への道を進んでいく。
あの日貧乏高校生、御剣剣也の世界は一変した。
外れジョブ? 無能ジョブ?
いいや、『錬金術師』は最強へ至る正真正銘のレアジョブだった。
勇者も魔王も神々だって、SSSランクには勝つことはできない。
二人ならどんな敵にだって勝利する。
なぜなら。
人間の最も強い武器はこの輝かしい魂なのだから。
だからまっすぐ行こう、君とならどこまでだっていけるから。
さぁ!
「「未来へ!」」
俺だけダンジョン装備がレベルアップ! ~追放された無能職の錬金術師は、錬金を繰り返し最強装備を作り出す。勇者も魔王も神々もSSSランク武器には勝てません~
終わり。
あとがき
まずは読者の皆様に惜しみない感謝を。
ここまで書けたのみ皆さんからの応援のおかげです。
本当にありがとうございました。
この小説を作品に昇華していただいたのは紛れもない皆さんのお力です。
この作品は私の2作品目の完結品となります。
処女作ワールドクエストオンラインの次に完結させた作品です。
実は一作品目の主人公と同じ名前を付けています。
どちらも私の中の主人公像。
優しくて、お人よしで、甘ったれで、へたれで。
でもきっと困っているときは絶対助けてくれる。
そんな古臭くてかっこいい主人公を描きたかった。
どうですか、もしあなたがピンチの時に、御剣剣也君が横にいたら。
きっと助けてくれそうと思えませんか?
そして女性たち。
誰しもみな辛い経験を超えて剣也君を好きになる。
ただ好きになるんではなくて、私が惚れた主人公に私と同じ理由で惚れてほしかった。
ピンチを助けてくれる。
優しくて、お人よしの主人公。
そんな彼の打算なきやさしさに惚れてほしかった。
一部不快表現はあったので、次回作は反省を込めて表現を変えてみようと思います。
まだまだ描きたい作品がある。
実はこの作品1月半ば連載なので2か月たってないんですよ。
自分でもびっくりです、めちゃくちゃ書いた気分ですが。
次作の構想に実はもう入ってます。
次はもっと、もっと面白くします。
この作品がよかったと思ってくれた人にはさらに感動を、興奮を。
では、最後になります。
皆さんからの応援は執筆の励みとなります。
本当です、★が欲しいから言っているんじゃないんです。
またサポーターとなってくださった皆様本当に嬉しいです。
面白い、その一言で作家はどこまでも世界を広げられる。
どこまでだって筆が動く。
想像力は無限だから!
では、最後になりますがここまで読んでいただき本当にありがとうございました。
KAZUの次回作にご期待ください!
(もしかしたらこの作品に今は明かせない発表があるかも? フォローそのままだと嬉しい)
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