第105話 勇者も魔王も神々もSSSランク武器には勝てません

「さすがは勇者……一回死んでしまいましたよ」


 ロキが立ち上がる。


 悲しむ時間すら与えずにロキは立ち上がった。


 剣也はそれを見て何も言えない。


「不思議ですか? 魔王の力は、絶対です。そんな時間制限のある欠陥品ではない。

私の命は全ての魔物とつながっている。今ので一万体ほど死にましたが」


 魔王は他の魔物の命を犠牲にしてダメージを肩代わりできる。


 その事実は誰も知らない。


「死にましたね、勇者も。あとはあなただけです。特異点」


 ロキが呼ぶ特異点。


「過去見たことがありません、あなたのような能力は。私にも予想がつかない」


 錬金術師という職業がもたらすものが何なのか。


 だからロキは警戒していた。

しかしもう勝利は確定しただろう。


 最後の希望の勇者も死んだ。


 剣也はレイナに視線を戻し、レイナを見つめる。


 すると脳内にアナウンスが流れた。


『魂が通じ合った者の魂を検知しました。魂錬金を行いますか?』


 それはついぞ使うことはないと思っていた剣也の新しいスキル。

得たものの、どんな力かもわかっていなかった。

でも今ならわかる。

今日、そして今、この時のためのスキルだったんだと。


・魂錬金Lv1

(魂が通じ合ったものと自分を錬金することができる。ただし分離できない)


 剣也は無言で選択する。


 レイナが光となって消えていく。

そしてその光が剣也の身体に集まって同化する。


 それをみたロキが困惑する。


「な、なにをした!?」


 剣也は吸い込まれていった光を追いながら自分の手を見た。


 するとまるで装備品を見た時のようなウィンドウが表示される。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

説明 

・勇者 御剣剣也

 SSSランク レア度★★★★★

能力

・約束された勝利

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 剣也は立ち上がる。


 そしてロキの方へ振り返った。


「なんだ…なんなんだ!? なにをした!!!」


 黒かった目は黄金色に輝いて、髪も金色に輝く。


 まるでその姿はレイナと同じ。


 ロキは直観した、少年は成ったのだと。


「レイナが残してくれたんだ」


 魂錬金。


 勇者レイナの魂は、剣也の中へと同化した。


 そして誕生した。


「僕は、御剣剣也。職業は」


 剣を構えて顔を上げる。

その目には金色に光る熱い炎が宿っている。

涙を流し、それでも彼女の思いを受け取った剣也は剣を向ける。


「勇者だ」


「あ、ありえない! なんだ! なんなんだその力は!」


 ロキが初めて動揺する。


 剣也が雷神と化した。


 一閃。


「ぐわぁぁあ!!」

 

 世界から10万をこえる魔物が死んだ。


「い、一撃で10万もの魔物が死んだ!?」


 世界中で猛威を振るっていた魔物が次々と死んでいく。


「レイナ、安心して眠って。僕がこいつを殺すから」


 ここでこいつを逃したら世界はまた暗くなってしまう。


 だからここで殺す。


「や、やめろ! ぐわぁあ!! ユグドが死んでもいいのか!!」


 ロキの腕が魔剣ごと吹き飛ぶ。


「彼なら喜んで死ぬよ。レイナ、ありがとう。この力を残してくれて」


 一撃ごとに世界から魔物が消えていく。


「私は神だぞ! なぜ人間ごときが!」


 ロキも必死だ。

異空間から次々と神器を出す。


 どれも破格の性能なのだろう。


 SSランクの物も多いはず。


 それでも届かない。


 なぜなら


「なぜだと? 強いからだよ。彼女の魂はなによりも!」


「うわわぁぁあ!!」


 そしてついに、世界から魔物が消えた。


 残すは、一人。


「し、仕方ありませんね。100年の平和をあげましょう!」


 ロキは逃げようとする。

剣也がいなくなった世界を狙う。

そのかわり100年は指をくわえて待つことにする。


 しかしロキの身体が動かない。

煙になって消えてしまおうと思ったのに。


「させねぇーよ」


 ロキの口から声が聞こえる。

この声は。


「ユグドぉぉぉ!!!」


「剣也! 最後まで迷惑をかける。このままいけ! 俺の罪はここで償わせてもらえるみたいだ。この糞野郎の棺桶になることでな!」


「くっ! くたばりぞこないが! 早く体の主導権を返せ!」


 ロキは必死に抵抗する。

心身共に弱ったロキの一瞬の隙をついたユグドが主導権を奪い返す。

しかし時間の問題。


「ユグドさん…」


「剣也! ありがとよ、友達になるって言葉嬉しかった。お前とは仲良くやれそうだが…ここでこいつを殺す!」


 震える体で剣也へと目配せをする。


「そうだな……わかったよ」


 突如雷鳴がなる。


 剣也はユグドの真上に。


「く、くそぉぉ!!」


 するとロキがユグドの身体から離れる。

このままでは死ぬと理解したから。


「それを待ってた!!」


 しかし剣也はそれを待っていた。

最後に気にかかるのはユグドのみ、だから死ぬまで追い詰めればあるいは。

そして結果ロキはユグドの身体を捨てて逃げようとする。


「ステータス錬金!」


 勇者の力ですべての能力が魔王を上回る。

その力をすべて攻撃力へ。


「龍神撃」

 

 そして3倍へ。


 不可視の一閃、防御不可の雷光。


 誰よりも早く、誰よりも強く。


 ロキは見た、眩いばかりの閃光が自分を見ているのを。


「くそ! くそ! くそぉぉぉぉ!!!」


 逃げられないと悟ったロキは剣を構える。


「じゃあな、悪神ロキ。二度とお前が生まれないように、世界が平和であるように! お前を倒す!」


「くそぉぉぉ!!!」


 眩いばかりの閃光が、世界を白一色に塗り替える。

空気が爆ぜて、轟音が世界を包む。


「わたし…は…か…みだぞ……」


 その光に焼かれてロキは全てを失った。


 断罪の光が悪を焼き切る。


 跡形もなく消し飛んで、世界から神は消滅した。


 この一撃が、神々の最終戦争。

ラグナロクに終止符を打った。


 悠久の時を経て、神話の物語は完結した。


 剣也はゆっくりと立ち上がる。


(レイナ、やったよ。君の力で。世界を救ったのは君だ)


 その手を胸に抱き、空を見上げる。


 暗雲は晴れて、太陽が顔を出していた。



「や、やりました! 少年が悪の元凶らしき存在を倒しました!」


 アナウンサーは興奮冷めきらぬ様子でその光景を全国へ伝える。


 世界中の人々は理解した、魔物が次々と焼き切れるように消滅したのは、少年が関係していると。


 世界は歓喜に包まれた、映像の向こうでは人々が喚起する。


 しかし彼らは知る人々だけはその事実を喜べない。


「レイナ…さん…うそ、嘘!」


 美鈴はテレビの前で泣いている。

その周りでは多くの避難民が声を上げて喜んだ。


 この日、世界を包んだ大災厄は正しく終わり、魔物が消えた世界はゆっくりと復興していくことになる。


「やりきったか、剣也君……」


 田中もまたやり切った少年に感謝する。

しかし喜ぶ気にはなれない。


 この勝利を喜ぶには、失ったものが多すぎる。



「生き延びちまったな」


「あぁ」


 ユグドと剣也が座り込む。


「レイナさん…は?」


「ここに」


 剣也が自分の胸をなでる。

ここに確かにレイナはいる。

魂錬金として、剣也とレイナは繋がった。


 しかし話しかけても答えることはできない。


 涙を流す剣也。


 ユグドにはその気持ちがわかる。


 二人は少しの間空を眺めながら、心を落ち着かせる。


 この日ラグナロクは正しく終結した。


 すべての元凶、悪神を滅ぼして。


 たった一人の少女を犠牲にして。


 これが正しい終わり方なんだろう。

剣也はそう思い込む、彼女が命を賭して世界を救ってくれたんだ。


 剣也はレイナとの思い出を振り返る。


 たくさんのことがあった。


 ゴブリンキング、同棲、共同生活。

そして文化祭、思い出すたびに胸が締め付けられる。


 その時ふと剣也が思いだす。


 あの時の俗物的な占いを。


「そうですね、うーん。あ! この項目なんていいですよ。二人の未来! えー二人は一度引き裂かれますが、思い続ければいつかまた出会えるでしょう…だそうです!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る