第102話 勇者と魔王と錬金術師

まえがき

本日の連投おわり!

明日4話連続投稿で完結です! 最後までお願いします!



「勇者です! 勇者蒼井レイナさんが現れました!」


 ヘリコプターから中継をするテレビ局のアナウンサー。


「やばいですって、そろそろ逃げましょうよ!!」


「ここでとらなきゃいつ撮るのよ! あんたそれでもテレビ屋?」


 彼らの眼下では、今にもこのヘリに食いつきそうなほどの巨大な蛇。

人が戦えるような相手ではないと一目でわかる。


 そしてもう一人。

自分達と同じサイズの人間。

しかし黄金色に輝く鎧を身に纏った一人の少女。


 今は活動を休止しているが、世界的に有名なモデル。

蒼井レイナその人だった。


「ってかあんな小さい女の子が大丈夫なんすか?」


「知らないわよ、職業が勇者なんだから相当強いんでしょ」


 ヘリからカメラを回すアナウンサー。

こんな場所にわざわざ志願してくるほど逞しい性格。


「さぁ、良い絵頂戴よ! 負けたりしたらただじゃおかない、ってかこの国が亡びる」


 固唾をのんでカメラを回す。


 つまり、この戦いは日本中の避難民たちが避難場所で見ている。


 日本中の国民が勇者の戦いを固唾をのんで見守っている。

この戦いが未来を決めるかもしれないと。



「さて、どうしましょうか」


 レイナは迷っていた。

この巨体、どうやって戦えばいいんだろうか。


 するとヨルムンガンドがレイナへと噛みつこうと大きく口を開け迫ってくる。


(とりあえず…どれだけ強くなったか確認します)


「はっ!」


 レイナは蹴った。

ヨルムンガンドの頬を蹴った。


「は?」


 それを見ていたアナウンサーは言葉が出ない。

勇者が蛇を蹴った。

ただそれだけのこと、なのにこの光景はなんなんだ。


 巨大な蛇が吹き飛んだ。

眼下の町がすべてすりつぶされる。


 あの巨体が吹き飛んだ。

どんな力だ、どんな力でければあの蛇が飛ぶんだ?


「やってしまいました…」


 新たに得た装備。

剣也によって作られた勇者の装備。

ランクSSという前人未到の最強装備の力を試すつもりが町を破壊してしまった。


◇対策本部


「うぉぉぉ!!!」


 その映像を見る職員たちが湧き上がる。

もちろん全国の避難所でも同様だ。


 誰も勝てないと思っていたあの蛇が吹き飛んだ。


 勇者の蹴りによって盛大に。


「レイナ君。なんて強さだ」


 映像ではヨルムンガンドが立ち上がりレイナによって切り刻まれる。


 抵抗むなしくどんどん弱まっていくようにすら見えた。


「すごい…すごいっすよ! 田中さん! あれが塔を目指して二人のうち一人ですよね?」


「あぁ、勇者の職業を得た少女。レイナ君だ。しかし…これほどとはな」


 職員たちがその戦いぶりに希望を見出す。

その中で一本の電話がかかる。


「はい、はい。え!? そんな……わかりました! お伝えします!」


 電話を取った職員が信じられないという顔で受話器を置く。


「どうした! 今度は何があった」


 電話があった時は大抵悪いこと。

何度もあったその繰り返しに田中は警戒する。


「いえ…悪いことではなく、むしろ良いことなんですが…」


「じゃあなんだ?」


「東京に現れていた王種、皇種と確認されていた魔物が」


「魔物が?」


「雷が鳴ったと思ったらすべて焼き切られたように討伐されたと……」


「な、なんだってぇぇ!?」


 田中は困惑する。

何が起きている、何が…。


ピカッ!


 雷鳴が鳴った。


 天気は悪いが雷が鳴るほどではないはず。

なのに近くに雷が落ちた、そんな音がこの部屋まで聞こえてきた。


 そしてドアが開く。


「田中さん!」


「剣也君!?」


「時間がないので、単刀直入に言います!」


 息を切らせながら走ってきた剣也が大きな声でフロアに響く声で話す。


「この周辺の強力な魔物は全部僕が倒しました」


「倒した!? 今の雷鳴は君か……」


「はい! 塔をすべて踏破しました。その報酬の装備の力です」


「なるほど…わかった。信じよう。それで緊急とは?」


「はい、今すぐダンジョン周辺から全国民を避難してほしいんです」


「わかった。八雲さん。お願いできますか?」


「あぁ、すぐに手配しよう」

 

 そういって八雲大臣はすぐに関係各所へと連絡した。


「理由を聞いても?」


「はい、魔王が復活します」


「なぁ!? 魔王だと?」


「詳細は、すべて終わった後話します。僕はレイナの加勢に行き、そして魔王を倒します!」


「わかった。今は君を信じよう」


 そして剣也は外に出る。

再度雷鳴が鳴る。

やはりあの雷鳴は剣也の音だった。


「まったく……」


 田中は大画面を見る。

さきほどまでそこにいたはずの少年が、いつの間にか画面に映る。

それを見て田中はつぶやいた。


「子供だと思っていたのに、いつの間にか大人になっているんだな……これが親の気持ちかな」


 まだまだ導かなくてはと思っていた少年は試練の塔を超えて大きく成長していた。


 いつも指示を出すのは私だったのに、今日は立場が逆転している。

いつの間にか導いてもらう立場になってしまい寂しさもあるが。


「頑張れ、剣也君。レイナ君。君達が最後の希望だ」


 これほどうれしいこともない。

今世界を救えるのは、彼らだけ。

ならばここは素直にゆだねさせてもらおう、私も少し疲れたからね。

だから。


「後は頼むよ、剣也君。世界を救ってみせてくれ」



「何今の?」


 カメラを向けるアナウンサーが雷鳴の音に危うくヘリから落ちかける。


 そのあと現れたのは、一人の少年。


 勇者レイナの横に立つその少年は、どこかで見たことがある。


「あれって……」


 記憶をたどるアナウンサー。

どこかで会った気がするが…。


「あ! あの車椅子の! レイナさんと付き合ってるって噂になって子だ!」


 かつてレイナと同棲していると噂になった少年。

その後モデル活動を休止した結果、騒動は収まったが取材にいったときの光景を覚えている。


 あの時はなんか頼りない少年だと思った。

なのに今はどうだろう、黄金色に輝く勇者の横に立ってなお、存在感を放ち続ける少年。


「さぁ、お手並み拝見といきますか」


 アナウンサーが再度カメラを回す。


 その時だった。


 少年の手に光が集まる。


 雷鳴が鳴った。


 まるで雷のごとき速度で少年がヨルムンガンドのはるか頭上へ。 


 そして世界が白で埋め尽くされた。


「な、なに!? すごい音……嘘」


 ヨルムンガンドの頭上から真っすぐ天から地へと一本の雷が貫通した。


 アナウンサーが見たのは、巨大な穴。


 世界蛇の頭に空いた巨大な穴。

天から地上へと真っすぐに、焼き切れたように貫通した。



「ふぅ、よかった。倒せた」


「さすがです。剣也君、もう力を使いこなせているんですね」


 背後で大きな音を立てて蛇は倒れる。

大量な灰となって崩れ落ちた蛇を横目に剣也とレイナが合流する。


 レイナはやっとSSランク装備の力を使いこなせてきたところだった。


「その剣やはりすごい性能ですね」


 レイナが剣也が握る剣を見る。


「うん、天叢雲剣。日本神話の剣だからね」


 剣也の装備もすべてSSランクへと至っている。

その強さは文字通り規格外。

この世界で戦えるものはレイナを除けば今はいないだろう。


 そう今は。


 剣也とレイナは吸い寄せられるように塔を見る。

光り輝くダンジョンから光が失われた。

つまり封印の力がすべて解けたことを意味する。


 空を暗雲が包む。


 まだ明るかった空はとたんに暗く太陽は姿を隠した。



 ダンジョンの一階層。


 ゆっくりと一人の少年が歩き出す。

ゲートを通ってこの階層に来たのだろう。


 あたりを見渡しながらゆっくりと歩く。

落ち着きすら見えたその少年。


 服はまるで昔の農民、質素な服でみすぼらしくすらあった。


 しかしその目には何も映らない。


 彼の心はあの日から止まっている。


 あの時愛する人の残した灰を抱きしめたあの日から。


 彼の心は何も感じず、ただ寂しさだけが埋め尽くす。


 そして空をゆっくりと歩く少年は町を見た。


 禍々しい剣を顕現させる。


 ゆっくりと振りかぶり、剣を振るおうとする。


 まるでそこからでもそこにいる人達を殺せるとでも言わんばかりに剣を振るった。


 しかしその剣は途中で止まることになる。


「初めまして、ユグドさん」

「初めまして、君の彼女に託された、だから」


 金色に輝く剣士の剣に止められた。

漆黒の服を纏った黒い剣に止められた。


 少年は首をかしげる。

魔王の剣は弾かれ後ろにのけ反った。


 二人は剣を構えて前を向く。


「ここで君を倒す!」

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