第103話 最後の戦い

まえがき

では、最終話まで4話連続です!



「ちょ、ちょっとな、なんなの? 今のなに?」

「わかんないっすけど雷っすか?」


 ヘリからカメラを回すアナウンサー。

全国に放送されているその映像は、ヨルムンガンドを一撃で倒した少年が映っていた。


 直後一瞬で二人が移動したかと雷鳴が鳴ったので向かってみると先ほどの少年と少女。


 そしてもう一人。


 アナウンサーは思わず尻餅をついた。


 そのみすぼらしい少年の持つオーラともいえるなにか。


 それを見たとたん寒気が止まらない。



◇対策本部


「あれが、魔王……映像越しでも分かる。あれは異常だ」


 田中がつぶやくその視線の先。

自分よりも大きな剣を携えて生気のない顔をしている少年。

しかし映像越しでのプレッシャーで押しつぶされそうだ。


◇避難所


「先輩…がんばって!」

「御剣氏! 主人公なのですから負けるわけないですよね!!」


 大和田と美鈴をはじめとする多くの避難民がテレビにくぎ付けになる。


 東京、いや日本中の人間がその放送を固唾をのんで見守る。


 魔王のことを知らなくてもあの少年が敵であることを本能的に理解する。

精神の弱いものは見ているだけで吐き気を催すものもいる。


 心の奥から感じる恐怖を体現したようなその少年。

いや、剣。

禍々しく揺れる黒い何かを発しながらゆらゆらと。


 それでも剣を構える少年がいる。


 それでも剣を構える少女がいる。


◇剣也視点


「止めさせてもらうよ、ユグドさん」


(その前に確認させてもらう)


 剣也は、丸い鉄製の鏡を取り出す。

ユミルからもらった宝箱の中に入っていた装備品。

名を八咫鏡という。


 能力上昇は皆無。

ただしこの鏡に映した相手のステータスの数値を見ることができる装備品だった。


 そして剣也は確認する。


◆ステータス

職業 魔王

・世界を滅ぼす者による能力上昇中

攻撃力:999999(+0)

防御力:999999(+0)

素早さ:999999(+0)

知 力:999999(+0)


 すべてのステータスがオール999999。

魔王という職業の標準能力のようで、それだけでSランク装備を軽く超えていく。

徐々に強くなっていく勇者に対して、最初からカンストしている能力は異常だった。


 今までの剣也達では相手にならなかった。


 でも今は違う。


ピカッ!


 雷鳴と共に剣也は消えた。


(ごめん、手加減できそうにない。全力で倒すから)


 剣也の装備の一つ、靴。

その力で雷光のごとき速度で移動する。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

装備説明 

・武御雷足LvMAX

 SSランク レア度★★★★

能力

・素早さ+500000

・視認している所へと雷と同じ速度で移動する

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 その能力は、一瞬にして雷のごとき速度で移動する。

それはまるで空から降る雷。


 あまりの速度と熱で、空気が熱して膨脹し、爆ぜる。


 雷を纏って移動するその姿はまるで雷神。


「ぐっ!」


 ユグドから苦痛の声が漏れる。

感情は失っても本能的に声は出る。

その勢いのまま地面にたたきつけられ巨大なクレーターを作る。


 それでもゆっくりとユグドが立ち上がる。


 しかし目の前には輝く鎧。


 それを見たユグドが誰にも聞こえない声でつぶやいた。


「ユミル…?」


 無意識化でつぶやいた声は誰にも聞こえない。


「今のあなたには声は届かないですよね。だから一度倒させてもらいます!」


 レイナが剣を抜く。

大剣というほどではないが、それでも今までの剣より圧倒的プレッシャーを放つ。

その剣は、もう名前のない剣ではない。


 正しく聖剣として名付けられた剣は、破格の性能を有する。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

装備説明 

・聖剣 レヴァンティンLvMAX

 SSランク レア度★★★★

能力

・攻撃力+500000

(勇者が装備した場合のみ攻撃力+1000000)

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 

 そのまま力のまま切りつける。


 ユグドも魔剣を使って受けようとするが流しきれずに吹き飛ばされる。


 しかしすぐに立ち上がり、レイナへと切りかかる。


 しかしレイナは受けきった。

衝撃で周りの家が吹き飛ぶが、レイナは微動だにしない。

なぜなら彼女の防具もまたSSランク。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

装備説明 

・聖鎧アイギス(胸)LvMAX

 SSランク レア度★★★★

能力

・防御力+500000

(勇者が装備した場合のみ防御力+1000000)

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 すべてのステータスでレイナはユグドを上回る。


 剣也はステータスでこそ上回っていないが、ステータス錬金によるドーピングともいえる上昇で200万を超えることすら可能。

ヨルムンガンドを倒した一撃こそ、すべてを攻撃力に回した一撃。


 そして日に一度使った龍神の一撃は、進化することによってさらに一段上の段階へと昇り詰める。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

装備説明 

・龍神籠手LvMAX

 SSランク レア度★★★★

能力

・攻撃力+500000

・龍神撃(一定時間チャージ後、次の一撃だけ攻撃力3倍)

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 雷鳴と共にレイナと切り結んでいたユグドに背後から一撃。


 簡単にユグドは飛んでいく。


 瓦礫に埋もれたユグドの頭上へと剣也が飛ぶ。


(大丈夫、命までは取らない。君には伝えないといけないことがあるから)


 剣也の手に光が集まる。


「ステータス錬金!」


 すべてのステータスを攻撃力へと。


「龍神撃!」


 その攻撃力を3倍へ。


 剣也の身体に電気が纏う。

その視線の先には、剣を構えるユグド。


 見ているものは、きっとあの技だと期待する。


 テレビの向こう、映像の向こう側では日本中。

いや、世界中の人間が立ち上がる。


「いけぇぇぇ!!!」


 巨大な声援のもと剣也が消える。


 ユグドは構える。


 それでも剣也の一撃は止められない。


 不可視の一閃、防御不可の雷光。


 眩いばかりの閃光が、世界を白一色に塗り替える。


「神雷!」


 剣也が名付けたその技は、神のいかずちが如き力。


 視認すら叶わないその一撃を受けたものは何も残らない。


 世界に色が戻った時、剣は振り切られた。

そして魔王ユグドの魔剣ごとその腕が吹き飛んだ。


 そしてユグドは力なく倒れた。



「ユグド!」


(声が聞こえる)


「ユグド! 聞こえる?」


(ユミルの声が聞こえる)


「ユグド! 元気? まだ意識失ってる?」


(そんなはずはない、だって彼女はあの時死んだ。俺の力が足りないばっかりに。

ごめんな、ユミル。熱かったよな。辛かったよな。俺が全部終わらせるから)


「バカ言ってないで早くおきなさーい!」


「え?」


 ユグドは目を覚ます。

右腕は止血されているが、激痛だった。

耐えられないほどではないが。


「ここは?」


「はじめまして、ユグドさん。私は蒼井レイナです」

「はじめまして、ユグド。僕は御剣剣也」


 混乱する頭でユグドは目を開く。

一体なにが起きたのかと。

長い夢を見ていた気がする。


「色々困惑しているだろうけど……今は未来だ」


「未来……ユミル! ユミルは?」


 確かにユミルの声が聞こえた。

深い眠りから目を覚まさせてくれた。

あの声は今どこに。


 しかしどこにもユミルはいない。

すると剣也がつらそうに話しだす。


「ユミルさんは死んでいます。最後まであなたを思っていました」


「嘘だ……うそ…だ。だって声が…」


 すると剣也がスマホを取り出す。

そして映像を見せた。


「これは、未来の技術。そしてここに映るのは、ユミルさん本人です」


 そこにはユミルが映っていた。


◇ユグドの封印が解ける前 塔


「剣也君いい方法はありませんか?」


「あるよ、レイナもよく知っている方法が。未来へ言葉を残す方法が」


 そして剣也が取り出したのはスマホ。


「それはなんですか? 剣也さん」


「これは未来の技術で作られた、そうですね。目で見ている光景を切り追って残すことができます」


 そして剣也は実演してみせる。

意味を理解したユミルが両手で顔を抑える。

だってユグドに言葉を届けることができるから。

二度と叶わないと思っていた彼へ言葉が届けられるから。



「バカ言ってないで早くおきなさーい!」


「ユミル!」


 ユグドはその映像にくぎ付けになる。

理解はできないが、ユミルがそこにいるのは理解できた。


「ごめん、ユミル! ごめん!」


 何度も謝るユグド。

しかしその声は届かない。


「えーっと、残念ながら会話はできないみたい。だから私一方的に話すね。ちゃんと聞いてね」


 そして剣也とレイナはそのスマホを渡して距離を取った。

二人の最後の会話を聞くのは無粋だと思ったから。


「目が覚めた?」

「うん……」

「あなた世界滅ぼしかけたのよ? それで封印されちゃって、で遠い未来で目覚めたの」

「そうなのか…君が灰になったときから記憶がない…」

「あ、ちなみに私灰になったけど、半神として復活したからね?」

「え!?」

「それであんた魔王になっちゃって」



 ユミルはユグドに今まで会ったことをまるで楽しい思い出のように話す。

ユグドは申し訳ない気持ちで何度も謝るがその声はもう届かない。


「えーっと、色々言いたいことはあるけど。私はまだユグドのこと好きだから」


 何千年たったのだろう。

万、いや、もっと?

悠久の時を経てもなお、彼女の思いは風化しない。

少し恥ずかしそうに、頬を染めながらそれでも笑って彼女は答えた。


「俺も…俺も好き…だよ」


「許してもらえるかわからないけど、ユグド。生きてね。生きて罪を償うの」


「そんな……君がいない世界なんて。僕は耐えられない」


「生きられないとか言ってるんじゃないでしょうね。何女々しいこといってんの!」


 まるでそう答えるのがわかっているかのようにユミルとユグドが会話する。


「世界中の人があんたのしたことを許さないかもしれない、でもね。

私だけは許すから。私だけは貴方の味方だから。だから生きてね」


 ユグドはうつむく。


「ほら! 笑って!」


 ユミルは笑う。

しかしその目には涙が映る。


「あんたが笑ってくれないと。私安心して寝れないじゃない」


「俺にできることがあるのかな……」


「あんた魔王でしょ? 何でもできるわよ」


「あ、もう時間みたい。ユグド。これが最後の言葉になりそう」


 映像の中でユミルは、一息ついて、はっきりと伝える。


「初めてあなたと手をつないだ日から、ううん、ほんとはもっと前。でもいつからなんてわからない。でもずっと好きだった。

あなたが好きだった。そして、今も変わらず大好きだから、そしてこれからも! 生まれ変わっても!

だから次生まれ変わったら、その時こそ、普通の恋人になろうね。さようなら、ユグド」


 そして映像は終了した。


 満面の笑みで笑いかける彼女を残して。


 ユグドは空を見上げる。


「君が言うなら、少しだけ生きてみるよ。僕にできることがあるのかわからないけど。罪を償ってみるよ」


 しばらく放心して空を見上げていたユグドに、剣也とレイナが歩いてくる。


「ユミルから聞いたよ。迷惑をかけたみたいで、すまなかった」


 剣也が横に座り肩を抱く。


「僕達同い年らしいよ、友達になろう、ユグド」


「改めまして、蒼井レイナです」


 差し伸べられた手を握るユグド。

今なら素直に握ることができた。


「俺はユグド、剣也、レイナさん。本当にありがとう。俺にできることは何でもするから……この世界のことを教えてほしい」


 ユグドは正気を取り戻す。


「語り切れないぐらいあるよ! この時代はいいとこだ。きっと気に入る」


 レイナと剣也に迎えられ、神話の戦いはここに完結した。


 世界に平和は訪れて災厄の日は終わる。


 ラグナロクはここに終結した。


 世界中の人が手を挙げて喜ぶ。


 この災厄が終わったんだと。

やっと、平和が来たんだと。



「つまらないな……」


 そう思っていたのに。


 ユグドの魔剣が突如紫の煙に変わる。


「なんだ!?」


 その声を聞いた剣也とレイナが身構える。


 直後煙がユグドを包み込む。


「ユグドさん!?」


「は、離れろ! こ、こいつは!」


 直後煙が晴れて中から現れたのは、漆黒の服に身を包んだユグド。


 まるで紳士のようにお辞儀をしたかと思うと流暢な言葉で話し出す。


「初めまして、今代の勇者、そして特異点。私はロキ、破壊と混沌を好む神です。そして」


「え?」


 視認できない速度で、剣也の前に現れたロキ。

 

「さようなら」


 剣也の胸が貫かれた。


 鮮血が飛び散り、膝をつく。

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