第86話 国家防衛戦

「!?…今の!?」


「どうしたんだい、剣也君」


 全員が突如立ち上がった剣也を見る。


「聞こえたか、坊主」


「はい、レイナは?」


「聞こえました」


 すると天道が話し出す。


「一世さん、60階層で不思議な声に話しかけられたことは前話しましたよね」


「あぁ、女性の声だったと聞いているが。その声が70階層までで終わると言っていたんだろ?」


「ええ、正確にはあと10先でしたが、今その声がまた話しかけてきました。多分俺、そしてこの二人。御剣剣也と蒼井レイナの二人にも」


「なんと言っていた?」


「『まだ間に合う。早く』と。多分ダンジョンの頂上へこいってことでしょうね」


「答えはこのダンジョンの先にある…か」


 すると思案していた田中が手を挙げて発言する。


「八雲大臣一つ提案してもよろしいでしょうか」


「あぁ、構わない。現状対策は何も考えれていないからね」


「まず国民の安全、世界の安全が最優先です。どんな敵が現れるかわからない。だから宵の明星含め天道には防衛にあたってもらいます。

この国に溢れた魔物を。必要であれば装備品などを全て排出してもいい。佐藤さんお手伝い願えますか?」


「国の一大事だ。あとで補填してもらうと確約してもらうが備蓄してある装備品はすべて出そう」


「ありがとうございます。これによって自衛隊含む警察、消防などに装備品を貸与します。幸いにも魔物の強さはそれほどではない。

彼らでも対応できるでしょう。特に下位の魔物ならそもそも近代兵器で十分対応できる」


 近代兵器でも十分効果が得られるが、問題は市街地に現れたということ。

市街地に迫撃砲を放つことはできないし白兵戦となる可能性が高い。

ステータスが1000を超えるような魔物が現れるとそもそも効果が無くなってしまうのでやはり探索者の協力は不可欠。


「なので国の防衛は龍之介。頼むぞ」


「ええ、任せてください」


「わかった。その案で行こう。直ちに避難場所を作り国民を集める。特に都市部から離れた場所にも魔物が現れているがそちらは探索者も軍もいないからな」


 その案はあっさりと決まる。

田中さんの信頼がなせる業なのか、防衛大臣とは個人的にも知り合いのようで話がスムーズに進んでいく。

国の魔物の掃討、そして国民の防衛は宵の明星含むトップギルド達が引き受けた。


「そして、剣也君、レイナ君。君達でダンジョンを攻略するんだ」


「おい待て。まだ子供じゃないか」


 トップギルドの一人が声を上げる。

彼の名前は、望月 宗近。

宵の明星がいなければ世界トップギルド、そして世界最強を名乗っていた男。


 ギルド【日輪】の団長。


 その団長が子供の二人にダンジョンを攻略させるのかと。


「いえ、この二人はダイヤ級、宵の明星に次ぐ60階層到達者です」


「なんだって!? 新たに現れたと聞いていたがまさかこんな子供が?」


 剣也とレイナ。

年はまだ高校2年生。

しかしその破竹の勢いで攻略する二人のことを名前だけは知っているものは多い。

 

 つい先日60階層へと至りダイヤ級となった探索者のことは聞いていたが、まさかこんな子供だとは思っていなかったようだ。


「そしてレイナ君は、皆さんご存じの通り勇者。ならば彼女に与えられた役割はこの世界を救うことなのでしょう」


 全員が押し黙る。

勇者という存在、そしてダイヤ級という自分達の格上の存在だという事実に。


「だから私はこの二人に託したい。あの塔の頂に何があるのか、そしてこの未曾有の大災害を止める手立てがあるのかを。やってくれるか? 剣也君、レイナ君」


「僕達にできることがあるのなら!」

「はい! 私と剣也君なら負けません!」


 二人はまっすぐと防衛大臣を見つめる。

その目を見た八雲大臣は静かに頷いた。


(これが高校生の目か……幾度とみてきた命を懸ける戦士の目じゃないか)


「わかった。その作戦で行こう。物資等必要なものはすべて言いなさい。できる限りの援助はしよう」


「はい!」


 そして作戦会議は終了した。

国の迅速な対応でいくつかの避難所が作られて多くの人間が避難する。

防衛するのは探索者はじめとする自衛隊や、警察官。


 被害は多くでたが、それでもこの大災害の前では軽微といっていいだろう。

剣也の母からもメッセージが帰ってきており、他国の避難所で元気そうで安心した。


翌日、避難所。


「美鈴は残ってくれ」


「そんな! 私も行きます!」


「いや、60階層からは正直守ってあげれないと思う。そんな余裕がない…」


 剣也達が準備を整えて出発する。

しかし美鈴はおいていく。この先の戦いにはついてこれない。


「だから美鈴!」


 剣也は美鈴の肩を強く握る。


「みんなを守ってくれないか。あの学校には僕の友達も多くいる。だから…」


「……わかりました。絶対無事に帰ってきてね」


 美鈴は剣也の意図を理解する。

歯に衣着せぬ言い方で美鈴を守れるほど余裕がないと告げる。

多分あの階層では私は本当に荷物持ち。むしろ足でまといだろう。

だから。


 美鈴は剣也に抱き着く。

そして次にレイナにも抱き着く。


「二人とも頑張ってね。私には何が起きてるかなんて想像もできないけど。きっと二人はそういう特別な存在なんだと思う」


 その目には涙が浮かぶ。

あの日二人が結ばれたことは理解している。

それでも認めたくないけど、やっぱりこの二人は特別で、やっぱりこの二人が大好きで。


 レイナになら仕方ないと思う自分もいて、それでも負けたくなかった自分もいて。

いろんな感情が入り混じる美鈴。

それでもこの一言がでた自分を褒めてあげたい。


「剣也先輩も、レイナ先輩も大好き」


「あぁ、俺も美鈴を大事に思ってる」

「私も大好きです、美鈴」


 そしてレイナは美鈴の耳でささやいた。


「いつか初めての時は三人でしましょうね。私は美鈴にも幸せになってほしい」


「ちょ!?」


 いきなりのレイナの爆弾発言に美鈴は驚き声が出る。


「ふふ、レイナさんって意外と大胆ですね」


「最近私も気づきました」


「どうしたの?」


「「なんでもない!」」


 二人が満面の笑みで剣也に応える。

不思議な顔する剣也、レイナと美鈴は笑い合う。

これは剣也には話せない二人だけの密約だから、いつかその日が来たら…。


 そして剣也とレイナはダンジョンへ向かった。

アイテムボックスがないため、いくつかの装備と食料を大きなキャリケースに詰め込んで。


 移動は大変だが、運ぶこと自体は剣也の力をもってすれば簡単なので大量の荷物をもって向かう。


 もちろん行先は今なお光り輝くダンジョンへ。


「じゃあ、行こう! 60階層へ!」

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