第64話 世界初討伐

 「剣也君!」


「レイナ! こいつを倒すぞ!」


「わかりました!」


 ステータス3000を超えるレイナの素早さと攻撃力。

その全力の追い込み。

この階層の魔物が抗うことなどできないはずだ。

もっと上の階層ですら相手にもならない。


 普通なら…。


「なぁ!?」


「ピギッピギッ♥」


 余裕ですがなにか? とでも言わんばかりにその鋼スライムはレイナの股を潜り抜ける。

こちらを向いて楽しそうに跳ねて、まるで捕まえてごらんとでも言いそうだ。


イラッ


 レイナの眉間にしわが寄る。

間違いなくおちょくられたことを理解したレイナに怒りという感情が芽生える。


「ふふ、そうですか。これが怒りですか」


「レイナさん?」


「はぁぁぁ!!!」


 レイナが怒りに身を任せて鋼スライムを追う。

避けられる、追う、避けられる、掴もうとする、避けられる、怒る。


 何度も何度もレイナはスライムを捕まえようとする。

切り伏せようとする。

しかしとらえることはできなかった。

そのレイナの迫力に押されて剣也は、しばらく様子をみていたがレイナでは捕まえれる気がしない。

というかおちょくられ過ぎて可哀そうになってきた。


 10分ほどだろうか。レイナとスライムの攻防が終わった。


「レイナ…」


 そこには、雪の上にうつぶせになり倒れるレイナ。

そのレイナの背中の上で楽しそうに跳ねるスライム。


「ピギッピギッ(笑)」


「うっうっ…剣也く~ん」


 さんざんおちょくられながらも捕まえることができないそのスライムの前にレイナは泣きそうな顔で剣也を見る。


(3000越えのレイナですら捕まえれれないのか…そもそも捕まえることができない? そんなことはないはずだが)


「よし、僕がやろう。ステータス!」


 剣也はステータスを確認し、ステータス錬金を行う。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

名前:御剣剣也

DP:142300pt

職業:錬金術師

・錬金Lv13:次のレベルまで100万pt

(ランクAの武器を日に10回錬金できる:知力10に付き+1回)

(ランクEの武器を無限に錬金できる)

(装備品を錬金の種に変更可能 錬金の種:同ランクの錬金に使用できる種)


・ステータス錬金LvMAX

(現状のステータスを自由に振り分けられる。念じるだけで変更可能)


◆装備品

武器:【斬破刀Lv1】

頭 :【精霊の冠Lv1】

胴 :【深淵龍の鱗鎧Lv1】

手 :【帝の小手Lv1】

足 :【帝の具足Lv1】

アクセサリー:【ゴブリンキングの首飾りLv1】


◆ステータス

攻撃力:0(+1400)▼ー1400

防御力:0(+5000)▼ー4000

素早さ:0(+400)▼+5800

知 力:0(+400)▼ー400

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


(全ステータスを素早さに変換すると7000を超えるけど、空気の壁を考慮して防御力は1000残すか)


 ステータスを素早さと防御力に割り振る。

そして剣也は駆け出した。


 その速度に雪は舞い上がり、音を置き去りにする。

素早さの補正による速度上昇は、力による速度上昇ではない。


 速度とは、本来脚力だ。

なので攻撃力を上げれば自然と筋力が上昇し、移動速度も上がる。


 では素早さとは、何のステータスなのかというと移動という行動への補正。

攻撃力を純粋に上げるよりもより効率的に速度をあげることができる。


 この数字による計算式はわかっておらず一定の法則があるのかもわからない。

しかし例えば同じ100のステータスを攻撃力と素早さに振って競争すると素早さが圧勝する。


 なので剣也は素早さに割り振ってまずはスライムを捕まえることに注力した。


 剣也は6000を超える素早さで鋼スライムを追いかける。

この速度では、空気ですらダメージを受ける存在に変わるが、1000の防御力の前では無傷。


 そして剣也はスライムの目の前へ。


「ピギッ!?(焦)」


 明らかに焦りを見せる鋼スライムもトップスピードで逃げだした。

しかし徐々に、剣也が追い付いているように見える。

あたりを縦横無尽に駆け回る剣也と鋼スライム。


 そしてついに…。


「はぁぁ!!」


「ピギッ!?(怖)」


 剣也の斬破刀がスライムを捕らえる。

そして一閃…のはずだった。


「ピギッ?(軽)」


 まるで効果がない剣也の一撃。

それもそのはず剣也の攻撃力は、いまや0。

素の力しかない剣也の攻撃など毛ほども聞かない。


 そもそも相手は鋼色だ。

生半可な攻撃が効果が見られるとも思えないほどに硬そうだ。


 剣也は立ち尽くしてスライムを見る。

スライムはその場で固まり、多分剣也を見る、目はないが。

そして。


「ピギッ(失笑)」


イラッ


 明らかに鼻で笑われ、失笑されたような声を出される剣也。

鋼スライムは楽しそうにこちらを煽りながら鳴き声をだす。


「ピギッ(貧弱)」


イライラッ


「ピギッ(雑魚)」


イライライラッ


「ピギッ(童貞)」


「てめぇの血は何色だぁぁぁ!!!」


 そして剣也とスライムの追いかけっこが始まった。

追いついて、一閃を入れるその一瞬にステータスをすべて攻撃力に移動させる。

しかしこれがタイミングがとてもシビアだ。

ゴブリンキングの時はうまくいったが、この最速のモンスター相手ではそのタイミングの難しさは比ではない。


 たとえるならば、某ゲームのミニゲームの刹那の見切り。

全力で移動しながらのベストタイミングでのステータスの移動。

ステータスを移動した瞬間速度は落ちるため、とても難しい。


「童貞の何が悪いってんだぁぁ!!!」


「ピギッ(短小)」


「お、お前だけは許さねぇぇ!!!」


 一時間近くは追いかけまわしているだろうか。

レイナと美鈴は座り込みそれを眺める。


「なんで先輩会話してんの?」

「わかりませんが、あのスライムの鳴き声に意思を感じてるのでしょう」

「なにそれw」


 剣也の叫び声がフロアにこだまする。

すでに飽きてきた二人は、美鈴のアイテムボックスからお菓子とお茶を取り出してのんびり観戦している。


「先輩早くー」

「頑張ってください、剣也君!」


 そしてついにその時はやってきた。


「しねぇぇえぇぇ!!!」


「ピ! ピギッ!!!!(死)」


「よっしゃぁぁ!!」


 ステータスの移動のタイミングをばっちり合わせ、鋼スライムを討伐した。

多分推測だが、5000以上の素早さと、5000以上の攻撃力なら倒せるのかもしれない。


 しかしこの階層はCランク推奨だ。

高くても200程度の探索者しか来ないのでそりゃ倒せるわけがない。


『メタルスライムの初討伐を確認しました。初討伐報酬が御剣剣也に授けられます』


 そしてメタルスライムが灰になり、宝箱へと変わっていく。

その色は金色の宝箱、アナウンスが世界初討伐を告げる。


(宵の明星なら討伐できただろうけど、多分彼らのいる階層ではもっと速いスライムがでるんだろうな)


 そして剣也は黄金色に輝くその宝箱を開く。


「メタルスライムを倒したら金色の宝箱か…何が入ってるんだろう」

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