第63話 僕が魔王
「僕が魔王!?」
なぜか満場一致で決定した剣也の配役。
男達は、血の涙を流しているようだったがなんでそんなにうらやましそうなんだ?
僕は討伐される側なんですけど。
「実はな、御剣氏…」
すると大和田が小声で僕に話しかける。
「キスシーンがあるのだ…」
「キスシーン!?」
僕も驚きつつも合わせて小声で大和田に応える。
「ネタバレになってしまうので、これ以上は言えませんが、まぁそういうことなので一度見てみるといいですぞ! もうレンタルできるはずなのでな」
「わかったよ…見てみることにする」
剣也は、近くのレンタル屋さんで今日レンタルすることにした。
そしてその日は簡単に配役だけ決めて台本等ができたら練習することになった。
メイド喫茶のメイド服は、ドンキで購入することになったがドンキのメイド服ってエッチなやつなんじゃ…。
裁縫の得意な子がそこから手直しするらしい。
でもエッチなメイド服をレイナに着せたい。
頼んだらきてくれそうだし、なんならエッチなことも…。
ご主人様、ご奉仕しますとか言ってくれるのかな……興奮してきたな。
最近想像がゲスくなってきたが、仕方ないすべて思春期が悪い。
そんな妄想をしているといつの間に終わりの鐘が鳴り、今日も一日が終了した。
今日はこのまま美鈴と合流して、ダンジョンに行こうと思っている。
とはいっても今日一日で30階層は難しいので、今日は2,3階層攻略して感覚だけ掴もうと思っている。
それにレイナの古びた装備を錬金して強化することも必要だし、昨日のダンジョンの稼ぎを分配してあげないといけない。
やることはいっぱいだ。
「じゃあ、レイナいこうか」
「はい、買い物ですね!」
ダンジョンに向かう前に、温かい服を購入しに行く。
20階層からは白銀の雪エリア。
氷点下を下回るこのエリアを攻略するには、魔物もそうだが、何より気温に勝たなければならない。
今は初夏だし、剣也達はスキーウェアなど持っていない。
季節外れだが、ここは大都会東京。
欲しいものは何でも揃う。
…
「どうですか、先輩! ゲレンデで恋しちゃいそうですか?」
「温かいですね、この服」
剣也達は、ダンジョン一階層中央広場にいる。
ただし全員服はスキーウェア仕様だ。
外で歩いていると変な奴に見られるが、ここダンジョン中央広場なら30階層へ挑戦するんだと思われるだけだ。
一階層にある探索者用更衣室で三人は着替える。
「に、似合うと思うよ」
スキーウェアの破壊力にしどろもどろになりながらも剣也は冷静に落ち着き二人を褒める。
二人とも似合っているが、いかんせんここはダンジョン一階層。
違和感のほうが仕事をしてしまうので、破壊力は半減だ。
「じゃあ、行こうか」
そして3人は白銀の世界へと再度足を踏み入れる。
20階層の安全地帯へのゲートをくぐって。
「あーいい感じですね! いい感じの寒さ!」
「うん、これぐらいなら全然探索できそうだね!」
「でも雪で歩き辛いですね」
雪の深さは30cmほどだろうか、雪が優しくふっており視界の妨げにならない明るい世界が広がる。
「わわわー」
ボスッ。
美鈴が、勢いよく歩こうとして雪に足を取られて真正面からこけて顔面から埋まる。
「はは! なにしてるんだよ、美鈴」
「歩きづらーい、先輩ひっぱってー」
ひっくり返り、こちらへと手を伸ばす美鈴を僕は引っ張る。
美鈴はその勢いのまま僕の胸へと飛び込んで、上目遣いで僕に笑顔を向ける。
「えへへ、ありがと!」
(かわいい…)
これがゲレンデマジックか、と剣也は思った。
美鈴はもともと美人だが、雪で頬がいつもの病弱メイクでは見れないピンクのホッペを作り出した。
素直にかわいいと見惚れてしまう。
それをまっすぐ見るレイナ。
ボスッ。
直後背後で何かが雪に埋まる音が聞こえる。
振り向く剣也が見たのは。
「ん-!」
尻餅をつきながら、こちらへと手を伸ばすレイナだった。
「レイナ?」
「コケてしまいました。引っ張ってください」
(ステータス3000を超えてるだろ、レイナは…)
ステータスが3000を超えるレイナが雪程度に足を取られるとも思えない。
なんなら片手で立てるのに、引っ張れと腕を伸ばす。
しぶしぶ剣也は引っ張ると、レイナも負けじと剣也の胸に飛び込んだ。
上目遣いで美鈴と同じようにこちらを見る。
「どうですか?」
「なにが!?」
「いえ、何でもありません」
思っていた反応をもらえなかったようで、少ししゅんとなったレイナが剣也から離れる。
「二人ともふざけるのはやめて、探索はじめるよ。今日は21階層を攻略したら終わるからね」
今日はお試しなので、安全地帯の20階層を超えて、21階層を攻略する。
問題なさそうなら、明日は食料をもって30階層を目指すことにする。
「はーい」「了解です」
そして3人は中央の21階層へのゲートを通る。
「ほとんど変わらないね…」
剣也達を待っていたのは、晴天の雪山のようなエリア。
この階層から魔物が現れるのだが。
「お、さっそくお出ましだね」
現れたのはまるでホッキョクグマのような魔物。
しかしその体格は一回り大きく、あんなにかわいくない。
涎を垂らし、牙をむく。
装備品がない状態でこの魔物にあったら命をすぐに諦める。
それぐらいの迫力はある。
しかし彼女を恐れさせるには、力不足。
なぜなら彼女は勇者だから。
「この階層は、私が戦います。20階層ではなにもできませんでしたので」
レイナが一歩前にでる。
降りぬくは鋼の剣、鈍く輝くDランク武器。
本来はただ攻撃力+20程度の装備、Cランク装備が推奨される20階層以降の装備ではない。
しかし彼女のステータスは、その特異な職業ゆえにこの階層では相手にならない。
今のレイナの攻撃力は、実に3030。
このステータスの適正階層は、Aランク武器が出土するとされている40階層以降が適正だ。
「ギャァァ!!」
シロクマの魔物が走り出す。
レイナは構え、そして一閃、鮮やかに。
一撃で首が飛ぶ。
赤い血が、白い雪を溶かして解ける。
灰になって熊は消滅した。
「さっすがレイナ先輩!」
「この階層じゃ、敵はいなさそうだな」
次々と現れるシロクマや、白い猪。
現実に存在するような動物の一回りも大きな存在をレイナはすべて一太刀のもと討伐していく。
「この調子だと、半日あればいけそうだね。今日はもう遅いから無理だとして明日なら攻略できるかな」
「そうですね、ってかレイナ先輩めっちゃ強いですね…」
そして21階層へのゲートを発見する剣也達。
「あ! ゲートだ! ここまで一時間ほどかな?」
「そうですねーそれぐらいです」
美鈴が時計を見ながら答える。
一同がゲートへと向かおうとしたときだった。
「ピギピギッ!」
ゲートの奥、雪の上、うごめく小さな存在。
その小さな存在は、鋼色に輝いて、プルプルと揺れている。
「なんですか? あれ」
「あれは…もしかしてスライム?」
スライム。
愛さんからダンジョンのことを教育されている剣也は知っている。
ゲームや、アニメの世界ではおなじみのその存在。
しかしこの塔では、少し違う。
発見することすら稀有なその存在の討伐報告はない。
鋼色や、金色、虹色すら報告されるそのスライム。
しかし倒せばどうなるのかは、誰も知らない。
なぜならその存在は、どの階層で出会っても。
「うわぉぉぉ!!」
「ピギッ?」
「ちっ!」
「ピギッ♥ ピギッ♥」
触れられないほどに速すぎるから。
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