第34話 涙の理由は?

 美鈴が、泣きそうな顔でこちらを見ている。


仲間にしますか?


▶はい


「捨てるわけないじゃないか。美鈴も一応探索者なんだ。僕のギルドに入るだろう? 一応今後どうするかだけ聞いておこうと思って」


「せ、せんぱ~い!」


 泣きそうになった美鈴が、僕に抱き着いてくる。

最近ことあるごとに抱き着いてくるな。


 親に捨てられた美鈴は、愛情に飢えている。

だからせめて兄のように、この子を守ってあげようと短い期間だがこの共同生活で剣也は思っていた。


「とりあえず、今日はもう寝ようか。今後のことはこれから考えよう。とりあえず今週の土曜不動産屋さんが物件を紹介してくれるらしいからついてくるか?」


「いく!」「私も!」


「剣也君、私は行った方がいいですか?」


「レイナも使うギルドの本部になるからね、来た方がいいんじゃないか?」


「わかりました」


 そして明日学校のあと4人は、待ち合わせをしてギルド本部兼新しい住処を見に行くことになった。


「じゃあ、今日僕はここで寝るから女性三人で部屋を使ってくれ」


 そして剣也は、部屋を出て玄関とリビングの間の廊下へと布団を引いた。


「せんぱ~い、私と一緒に寝ればこっちで寝れますよー?」

「別に私も久しぶりにお兄ちゃんと同じ布団でもいいよ?」

「私も別に同じ布団でも気にしません」


「僕が気にするから! おやすみ!」


 そして剣也は、急いで部屋をでた。

一家の主が廊下で寝ることになるなんて。

かといってあっちの部屋では、心が休まらないし、寝れないだろう。

だって、憧れの人が横に寝ているんだから。


「先輩、おやすみ~」

「お兄ちゃん、おやすみ~」

「おやすみなさい、剣也君」


 僕が布団にもぐると同時に、3人も布団を引いて寝る準備を始める。

そして布団を囲んで、始まるガールズトークが細い扉を超えて聞こえる。


「ねぇねぇ、レイナさん彼氏とかいないの~?」

「いません、よくわからないんです。そういう感情が」


(よっし!)

 僕は布団の中でガッツポーズをする。

レイナは彼氏がいないらしい。想像はできたことだが。 


「えーもったいない、こんな美人なのに! でも先輩はだめだからね?」

「何がダメなんですか?」

「「とにかくだめ!」」

「よくわかりませんが、わかりました」


(わかっちゃったよ!)

 僕のガッツポーズは力なく折れる。

どうして我が妹まで兄を否定するんだ。


「お二人はいるんですか?」

「いないよ!」「私も~」

「でも好きな人はいるかも~。 いるかも~!!」


 美鈴がいるかもを強調する。

まるで誰かに聞かせるように。


 そんな他愛もないガールズトークを繰り返して夜は更ける。

二人の笑い声と、一人の声が静かな夜を賑やかす。

今日は僕はわき役だ、だから今日は廊下で眠る。


 床が冷たくて硬くて眠りずらい、早く新しい家を探さなきゃ。



 いつの間にか僕も寝てしまっていたようだ。


 窓から差し込む日の光が僕の顔面を焼きだして、朝が来たから起きろと主張する。

カーテンもない玄関の窓のせいで、身を護ることもできず抵抗むなしく僕は起きてしまった。

目もばっちり覚めてしまったので、顔を洗ってみんなが寝ている部屋の様子を見る。


 すると三人が川の字になって寝ていた。

 今でも信じられない。

僕のこの部屋で、トップモデルで、勇者のレイナが寝ているなんて。


 いけないと分かっていても僕は寝顔を見てみたいという衝動に駆られる。

綺麗な寝顔なんだろうなと、覗くようにレイナの寝顔を見ようとすると。


 その欲求に抗えず、僕はレイナの顔を除く。

そして思わず声を出しそうになるのを必死に抑える。

だって彼女の寝顔は…。


(泣いている!?)


 レイナは涙を流していた。

夢を見ているんだろうか、なにか助けを求めるような。

そんな表情で、彼女は涙を流していた。

長い髪が彼女の顔を隠しているが、それでもはっきりとわかるほどに。


 僕はその表情が忘れらなかった。

そして彼女が眠りながら口にした言葉も。


「ごめんなさい、ごめんなさい…」



「なんだったんだろうな、あの涙、それにごめんなさいって…」


 教室の席に座りながら僕は、今日もみんなに囲まれるレイナをみて僕はつぶやく。

何か理由があるのか、ただのあくびとかの生理現象なんだろうか。


 キーンコーンカーンコーン


 終業の鐘が鳴る。

レイナは相変わらず多くのギャラリーに囲まれている。


 対照的に僕の周りは誰もいない。

まぁ主に佐藤のせいで僕は友達ができなかったのだが…。


「よし、今日もダンジョンにでもいくか、進化も次が何か見たいし」


 今日も特に何もない高校生活だった。

そう思いながら席を立ち、帰ろうとする。


 しかし、僕の平穏で、平凡な生活は終わりを告げた。

群がるギャラリーをモーゼが海を割るかのごとく、まっすぐ歩いてきた彼女が僕に告げた言葉で。


「剣也君帰るんですか? 一緒に帰ってください。まだあなたの家を覚えきれていないので」


「へぇ?」


 僕は素っ頓狂な声が出る。


「「「「「へぇ?」」」」」


 ギャラリー達も素っ頓狂な声が出る。

固まる空気に、レイナは疑問をもって首をかしげてさらに爆弾発言をする。


「一緒に寝る許可を昨日もらったと思ったのですが…」


「「「「「はぁぁぁぁぁ!!!!???」」」」」

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