第33話 さすがに狭すぎるので、引っ越ししよう

「蒼井さん、つかぬ事をお聞きしますが今日泊まるところは?」


「田中さんからは、剣也君の家に泊まるといいと言われています。よろしくお願いします」


 悪ふざけが過ぎるぞ、田中さん!

じゃあ今日はここに泊まる? 憧れのこの人が?


 こ、こんな、こんなことって、最高…いやいやいや、彼女が嫌だろ。


「私は一向にかまいません」


 私は一向にかまわん! じゃないよ。

一応男の家だよ? 警戒されてない? それはそれでちょっと悲しいけど。


「先輩、もしかして同居人増える感じ?」


「そのようだ…」


 美鈴が、まさかという声で聴いてくる。


「さすがに…この家で4人は…」

 

 この狭い部屋を見ながら剣也と美鈴はため息をつく。


 10畳一間の我が城は、すでに3人ですら寝るときに足が当たる。

美鈴なんかいっつも僕にその足をのせてくる、我々の業界ではご褒美です。

ってのは冗談で、正直満足に生活できるレベルじゃない。


ピロン♪


 ん? 田中さんからメッセージ?


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前言っていた不動産屋だが、今週の土曜空いてるみたいだ。

予定は問題ないかい?

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(怖いこの人、タイミング良すぎる、でもそろそろいいタイミングか…)


「と、とりあえず今日は僕がどこか別のところで寝ますんで!」


 僕がそういうと、首をかしげてこちらを見る。


「ここはあなたの家ではないのですか?」


「い、いやそうですけど嫌でしょ?」


「何がですか?」


(だめだ、全然話が通じない…)


 すると、またドアが開く。


「ただいまー! どうしたのお兄ちゃんそんなとこで突っ立って? お客さ…えぇぇl!!??」 


 奈々が買い物帰りの荷物をもって帰宅し、蒼井さんを見る。

そりゃ、スーパーモデルが家にいたらそんな反応になるだろう。


「初めまして、蒼井レイナです。今日からよろしくお願いします」


 蒼井さんが、奈々に丁寧にあいさつをする。


「え、え? お兄ちゃんどういうこと? これどういうこと?」

「先輩レイナさん泊るって、二人の関係ってなんなんですか!? ねぇちょっと!!」

「私はどこで寝ればいいでしょう? 荷物もあるのですが」


 三人がそれぞれ思うようにしゃべりだす。

美鈴にいたっては、僕の服を掴んでどういうことよ! と必死に揺らす。

めまいがしてきた、逃げていいか?


「と、とにかく! 今日蒼井さんはここで寝る! 俺は廊下で寝るから!」


「先ほどから剣也君。私の名前はレイナなんですが…」


 そうだった、この人レイナって呼ばないと何回もこう言ってくるんだった。

海外の風習なのか、苗字ではなく名前で呼ぶのがこの人の普通、私の名前はレイナですと壊れたラジオのように言ってくる。


「わ、わかりました。レイナさん!」


「あなたは私のマスターなので、敬語は不要です」


 マスターつまりギルドの長。

レイナは僕が所属するギルドに入るのだからいうなれば上司と部下の関係になる。


「わ、わかったよ! レイナ! これで勘弁してくれ!」


 それからレイナのことを、二人に説明するのに1時間近くかかった。

美鈴はいまだに納得できていないようだが。



「ということで、引っ越しをします!」


 4人で机を囲み、僕は引っ越しの話をする。

僕の収入が安定することを奈々と美鈴に説明し、ある程度の大きさの部屋は借りれることを伝える。

5000万のことはつたえてはいないが、来月には引っ越しができるだろう。


「ついに、この家からサヨナラなんだね…」


 奈々は、座りながら部屋を見渡す。

相変わらずぼろいけど、いざ離れるとなるとどこか寂しいものがある。


「とはいえ、2,3週間はかかるだろうからまだ先だよ、その間はここを堪能しよう!」


「堪能するところなんかもうないけどね…」


 少し見渡せばすべてを見渡せるこの家。


「私も結構ここが好きだったんだけどな…」


 美鈴も短い期間だったが、この狭い部屋を気に入っていたようだ。

僕も最初こそこんなとこに住むのかと気持ちを落としていたが、今となっては愛着がわいている。


「美鈴お前はどうするんだ?」


「え? どうって?」


「いや、いくとこはあるのかって」


「…」


 静寂が部屋を包む、美鈴は何を言っているんだ? という顔で僕をみる。


「え? もしかして私捨てられる?」


 美鈴が、泣きそうな顔でこちらを見ている。


仲間にしますか?


はい

▶いいえ


 

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