第12話 大ボス戦

「このステータスなら、9階層の大ボスにも勝てそうだ」


 この王の力なら大ボスにも勝てるはず。

剣也は気が大きくなってしまっていたが、実際のところ9階層の大ボスにCランク装備は過ぎたもの。


 この装備は本来20階層以降。

第1級の冒険者達が攻略するエリアに現れる。


 ソロ討伐するような相手ではないのだが、それでも今の剣也なら可能だろう。

だから剣也は、大ボスに挑戦することにした。


(愛さん怒るかな? でもここで行かなきゃ冒険者じゃないよね)


 予定にはない行動をとろうとする剣也。

でもワクワクする気持ちを抑えきれない。

だってここはダンジョン、夢を追い求める場所なのだから。


 7,8,9階層には、ホブゴブリンや、ゴブリンナイトといったゴブリンの上位種が入り混じる。

しかし…。


「フンッ!」


「ギャアァァ!」


 一刀のもと切り伏せる。


「この武器すごい使いやすい、さすがは日本人のための武器」


 日本刀を見ながら剣也はつぶやく。

別に日本人のための武器ではないのだが、それでも日本という名がついた武器は、驚くほど使いやすかった。


 まるで何度も使ってきたようなフィット感。

王の力と相まって、上位種のゴブリン達を一閃する。


 さすがは20階層の装備。

この階層ではチート級だ。


 次々とダンジョンを攻略していった剣也はついに到着する。

一階層一時間ぐらいのペースで進んだ剣也は、9階層に到着する。

 

 赤いゲートを通るとここは9階層。

大ボスの部屋だ。

巨大な扉と禍々しい文様、中ボスの部屋よりも大きく荘厳なその扉は、ここが大ボスの部屋であることを示している。


 そしてその扉の隣には。

一人の少女がうずくまるように座っていた。


「あ、やっと人きた…」


 その少女は僕をみて、顔を上げてそういった。

まるで助けを求めるように…。


 その少女は、少し茶色が掛かったセミロングとカラーコンタクト?

少女漫画のような大きな瞳に白い肌と赤い唇。

そしていわゆる病みメイクと呼ばれるヤンデレ風の涙袋だった。

耳には何個空いてるのかわからないほどのピアスをしている。


 一言でいえば、彼女はこれぞメンヘラのような見た目をしていた。

このダンジョンで、なぜそこまで軽装なのかというような黒のTシャツと短パン? シャツが長くて見えない。

見えるのは細くて病的にまで白い肌の足。


 可愛い。

確かにかわいいのだが…多分彼女にはかかわらない方がいいだろう。


 多分これが噂に聞く地雷系女子だ。

剣也の直感が警報をならす、破滅を誘うその色気に騙されないように頭をぶんぶんと振るう。


 そして、軽く会釈してさっさと扉を開こうとする。


「あの、助けてほしいんですけど…」


 すると少女が立ち上がり僕の傍まで来る。


「た、助ける?」


 少し後ずさりしながら剣也は、反復する。


「ここまで一緒に来た人に置いて行かれたんです…」


「そ、それはひどい話だね」


 下手すると殺人になりかねない所業だぞと剣也は、驚きながらもこの少女を気の毒に思ったし、可哀そうに思った。

だからあんなところで一人座って待っていたのか。


(なんだろう、なんかほっとけないな…)


 その庇護欲を駆り立てられる少女、捨てられてしまった少女をかつて追放され捨てられた自分に少しだけ重ねてみてしまう。


「じゃあ、僕が一緒に10階層まで連れてくよ」


「ほ、ほんとですか? でもお兄さんソロ? 大丈夫ですか? 私戦えませんけど…」


「多分大丈夫だと思う、とりあえず端っこで待っててね」


「は、はい…」


 その少女は心配そうにこちらを見る。

僕がその顔をみて困った顔をしたので、彼女は作り笑いをした。

その笑顔は、とても儚げで悲しそうで、何度も作ってきたような顔で。


 僕の心が、ぎゅっとなる。

この顔を僕は知っている。

これは、弱い自分を我慢して、それでも相手に笑顔を向けるための顔だ。


(事情は、後で聞くとしてとりあえず10階層に向かおう)


 そして剣也は、扉を開く。

そしてその中心には、ゴブリン達の司令官。

ゴブリンジェネラルが座っている。


 丸いエリアの中央で座るゴブリンの将軍。

僕がそのエリアに足を踏み入れると同時に、部屋を囲むように置かれた松明に灯がともる。

青白い光が部屋を照らしたかと思うと扉が閉まる。


 その音と同時にゴブリンが立ち上がり咆哮を上げる。


 そして始まる将軍と王の戦い。

結論から言おう。


 全く相手になりませんでした。

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