第13話 大ボス戦2

 初めの一刀で勝負は決まった。

ゴブリンジェネラルの武骨な剣の一太刀を受けた僕が感じたものは、ホブゴブリンの時と一緒。


(かっる! なんだこれ)


 そのまま力任せに僕は鍔迫り合いしながら押し切ろうとする。


「ギギギィィ!」


 苦しそうな声を漏らすゴブリン。

そしてそのまま思いっきり力を込める。


 その一刀は、武骨な剣ごと将軍を両断した。

ゴブリンはそのまま灰になって消えていく。


 その様子を端っこで見ていたメンヘラさんが黄色い声を上げた。

そういえばまだ名前も聞いてなかったな。


「お、お兄さんすっごーい! 強いんですね」


 そしてメンヘラさんが、駆け寄ってきて僕の腕に体を絡める。

やわらかい感触が僕の腕を包むかと思ったら、ほとんど胸はなかった。

残念だ。


 しかしそれでもかすかに感じる感触に動揺しながら、剣也はしどろもどろになりながらも答える。

童貞にこの刺激は厳しい。


「い、いや! 装備がね、装備が強かっただけだから!」


「ってことは、お金持ち?」


「いや、貧乏かな…」


「ふーん、よくわかんないですね」


「と、とりあえず次の階層にいこうか、地上へのゲートがあるはずだから」


 すると、ゴブリンジェネラルから宝箱が現れる。

銅の色の宝箱だ。

剣也は、思い出したかのようにその箱を開ける。


 中には、アクセサリーが入っていた。


「これは、アクセサリーか…。えっとゴブリンの首飾りかな?」


 そこにはゴブリンの耳で作った首飾りが落ちていた。

悪趣味なので装備したくはないが、アクセサリーはまだ何も持っていないので仕方なしに装備する。


(うへぇ、気持ちわる、非具現化設定しとこ)


 能力はDPポイントに補正?

とりあえず装備してみる。

すると、アクセサリーの効果は、DPが1.1倍多く取得できるとのこと。


「これは結構いいものだな。進化すると何になるんだろう」


 アイテムとしては知っていた。

そしてこのアイテムは、あまり高く売れない。

なぜなら探索者にしか効果がなく、しかも1.1倍なのでそれほど強いアクセサリーでもないからだ。


 そんな思考にふけっていると『ヘラ子』が話しかけてくる。メンヘラのヘラだ。

名前を知らないので勝手にあだ名をつけたが、失礼なので当然声には出さない。


「あの、お兄さん? そういえば名前まだでしたよね? 私は鈴木美鈴です、JK一年目ですよ!」


 なぜかJKの部分を強調して上目遣いで行ってくるヘラ子、失礼鈴木さん。


「僕は御剣剣也、高校二年生だ」


「あ、じゃあ先輩ですね! 先輩と剣也さんどっちで呼んでほしいですか?」


「名前でいいよ」


「わかりました、剣也さん。なら私も美鈴って呼んでほしいです。鈴木ってどこにでもいるし」


 ぐっと体を近づけるヘラ子。

全国の鈴木さんに失礼だろと思いながらも確かに剣也の知り合いに鈴木はいるので納得し美鈴と呼ぶ。


「あぁ、わかった美鈴。とりあえずゲートに進もうか」


 そして二人はゲートに入る。

そして転移した先は、10階層。


 そこには見渡すばかりの草原が広がる。

なんのためなのか、家のような建物も多い。


 ここに住む人がいるとは思えないが、なんで家なんか…。

一応この家たちは、ダンジョン協会と呼ばれるダンジョンを管轄している組織が管理している。

愛さんのナビゲーターという職業もダンジョン協会の一員だ。


 そして、光と共に中央のゲートから転移する人達もいる。

第一階層から転移してきたところだろう。


 この10階層には大きなゲートが中央にいくつかある。

第一階層へとつながる青いゲート、そして11階層へと向かうための赤いゲート、そして第20~60階層へのゲートだ。

第60階層へはあの【宵の明星】ギルドが先日解放した。


 といっても、向こうから一度は転移しなければ使えないので、僕達はまだ使えない。


「じゃあ、一階層にもどろっか」


 すると、美鈴が誰かを見ている、いや睨んでいるのか?

その視線の先を見てみると二人の男が笑いながら大声で話していた。



「やーっとあのめんどくさい女を捨てられたぜ」


「サポーターの職業だからPTに入れてみたけどほんとに後ろにいるだけで使えなかったしな」


「あぁ、あれで一週間分の稼ぎを三分割はさすがにありえねぇ、おいてきて正解だったな」


 その二人の不愉快な会話は、多分美鈴のことを言っているのだろう。

美鈴とは一週間ほどPTを組んでいたようだ。

稼ぎを三分割する約束が嫌だったのか、美鈴をダンジョンではぐれたことにして、置き去りにしてしまったようだ。


「でもちょっともったいないことしたかな…」


「やめとけ、確かにかわいいけど絶対あれはメンヘラだぞ、地雷だ。刺されるぞ」


「ちげぇねぇ! それにビッチそうだしな!」


「「ははは!」」


 なんて不快な会話なんだ。

だからって、ダンジョンに置き去りにしていいわけないだろう。


 僕がたまたま来たからいいものの、もし誰も来なかったらあそこで飢えて死んでいたかもしれないんだぞ。

美鈴の力では8階層から下ることも、9階層のボスを倒すこともできないだろう。

そう思うと無性に腹が立った。

まるで佐藤だ、佐藤二号と三号だ。


 僕の怒りを感じたのか、美鈴は、僕を止める。


「いいんです! 私なんか別に捨てられて当然ですから…」


 その美鈴の悲しそうな声を聞いて、作った笑顔を見て僕は怒りが最高潮に達した。

捨てられていい人間なんているわけがない。

少なくとも僕は、不要だ、無能だ、そんな理由で人を捨てたりは絶対にしない。


 自分と美鈴を重ねてしまった原因を理解した剣也は、その男達へ歩いていく。

怒りで拳を強く握る。


「おい!」


 そして肩を叩き、振り向き際に死なない程度に顔面を殴った。

軽く殴ったつもりだったのだが、力加減を間違えたようだ。

さすがは王の力。

面白いように男の一人は飛んでいく。

まるで、漫画見たいに。

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