第7話 追放された勇者パーティ

「無能な、貧乏人が俺たちと同じところで飯を食うんじゃねーよ」


 勇者パーティの一人が剣也にそういった。

彼は、佐藤 としお。


 親にギャグで名前を付けられた可哀そうな男だ。

彼の性格がひん曲がってしまったのは、砂糖と塩なんて名前のせいだろう。


「別にいいだろ、楽しんでるんだ。ほっといてくれ」


 その一言が、彼のスイッチを入れてしまった。


「なんだと? てめぇ、誰に向かって…」


「もういきますよ」


 その間に入るのは、勇者の職業を得た少女。

テレビで見ない日はないほどの有名人。

そして僕の憧れの人…。


 その美しい髪をなびかせ、無表情で感情が乏しい少女。

どこかミステリアスなクールビューティーが、こちらを一瞥し佐藤を連れて行く。


 一応は、知り合いのはずなのだけれど会釈してくれたということは覚えてくれているのだろうか。とはいえパーティにいた時から話しかけなければ何も話してくれない人だったな。


「ちっ!」


 そして舌打ちをしながら佐藤は行ってしまった。

なぜか奈々を見つめていたように思える。


「お兄ちゃん大丈夫?」


「ん? あぁ、大丈夫だ」


 しかし佐藤とは、同じ学校なので少し心配だ。

そもそも佐藤経由で、僕は勇者パーティに入ったのだから。



 あれは、一年前のことだった。


「よぉ! 俺は佐藤ってんだ。お前は?」


「僕は御剣剣也! よろしく!」


 高校の入学式で、僕と佐藤は出会った。

同じクラスでたまたま席が隣同士だった。


 そして佐藤は、僕の首にかかっている銅の色の冒険者タグを見る。


「お前、冒険者登録してんだな。職業は? なんかもらえたか?」


「うん、『錬金術師』ってのをもらったんだ。あまりよくわかってないけど…」


(錬金術師…、聞いたことねぇなレアジョブか。とりあえず確保しとくか)


「俺のギルドにこいよ! 勇者もいるんだぜ!」


 佐藤の父は、装備武器を卸す会社をいち早く立ち上げた。

その会社は急成長をとげ、巨大企業へと成り上がる。

今では、装備品関連の会社としては日本一だろう。


 そして佐藤は、お金にものを言わせて、ギルドを作った。

新進気鋭の勢いのあるギルド。

その名もシュガー&ソルト、自虐ネタか?


 そのため佐藤は、高額なCランク装備で固めていた。

総額2000万はするだろう。

その装備に伴う力も持たないはずなのに。


 彼の職業は聖騎士、スキルレベルを上げて今では全能力が1.5倍の補正がかかるというとても使いやすいジョブだ。

その職業と金とステータスの暴力で20階層まで到達している。


「い、いいの!?」


「あぁ、今日とりあえずこいよ」


 そんな佐藤からの誘いを僕は素直に喜んだ。

まだこのジョブのことをよく知らなかったので、一緒に戦ってくれる仲間はとてもありがたいと思ったからだ。

しかし…。


半年後。


「お前クビ!」


「え?」


 シュガー&ソルトのギルド本部の広場で、全員の前で僕はクビを宣告される。


「え? じゃねーんだよ、無能がよ! なんだよそのジョブ。Eランク武器しか強化できないなんてカスでしかないだろう」


 ぐうの根もでなかった。

スキルレベルを上げても錬金回数が増えるだけ…。

これでは、無能と言われても仕方ない。

それでも、僕にはお金が必要だった。


「で、でも僕にはお金が必要なんだ! なんとかおいてくれないか?」


 僕は膝をついて嘆願する。

ここで捨てられるわけにはいかない。


「はぁ? しらねぇよ! 無能がいていいギルドじゃねーんだよ。それと装備は全部置いてけよ?」


「そ、そんなこれは僕が半年かけて集めたも…うっ!」


 殴られた?

頬に感じる痛みと、揺れる脳。

地面に突っ伏した状態から僕は殴られたと理解した。


「それも全部俺が貸してやった装備のおかげだろうがよ! 図々しいんだよ、貧乏人が! 片親だと、心まで貧乏になんのか?」


 悪態をつきながら佐藤は、僕の荷物をすべて奪う。

親は関係ないだろっと反論したいがうまく声がでなかった。

それでも振り絞るように声を上げる。


「か、かえせ…うっ!」


 そして僕は腹を殴られる。

聖騎士のジョブで、装備もCランク。

剣也が、彼に勝てる道理はない。


 うめき声を上げながら、雨が降る中僕は身一つで外に放り出された。

なんどもドアを叩きながら僕は返してくれと涙を流す。


 確かに彼に借りた装備もあるが、半年かけて集めた装備品達も含まれる。


「いい機会だろ! 探索者なんかやめちまえ! 無能職業がよ!」


 ドア越しで怒鳴られたその声に僕は、膝をつく。

本当は気づいていた、僕には探索者は向いていないって。


 ジョブによる恩恵が得られない僕のステータスではダンジョンを踏破することは正直難しい。

いつもおんぶに抱っこで仲間の足を引っ張ってきた僕にはいい薬なのかもしれない。


 それでも、悔しくて涙が止まらない。

母は倒れ、毎日バイト尽くし、疲れた体に鞭打って探索者としても頑張ってきた。

いつか稼げるようにと、探索者を必死で頑張ってきた。

しかし結果はこれだ。

 

 寝る間も惜しんで勉強も、家事も、冒険もなんとか食らいついてきたが、もう限界だった。

心が限界だった、だから諦めよう。


 探索者としての道を諦めよう。

命を懸けてなんとかアルバイトより少し稼げる程度だった夢を、冒険の夢を諦めよう。


 冒険には胸を躍らせた。

ボス戦はいつもわくわくした。


 次はどんな敵が現れるんだろう。

次はどんなダンジョンが待っているんだろう。


 そんなワクワクする冒険の夢をここで捨てよう。

そして憧れたあの少女も…。


 剣也は諦めた。

諦め理解した。

そのはずなのに、なぜか足に力が入らない。

なんで立ち上がれないんだ。

なんで涙が止まらないんだ。


 心が張り裂けそうな想いだ。


 悔しくて、情けなくて、でもどうすることもできなくて。

雨が止むまで、僕はその場で泣いていた。



 それが僕が追放されて、冒険者を一度は諦めた経緯だった。

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