第6話 半年ぶりの焼肉食べ放題

「ええええ!!??」


 愛さんは、素っ頓狂な声を上げて回りの注目を集める。

すみません、と立ち上がり謝りながら席に座る。

そして何故か小声で話しだす。


「ちょ、ちょっと、剣也君なにこれ? もしかして盗んだり…」


「し、してませんよ!」


「でもこれ騎士シリーズでしょ? 第11階層以降でしかとれないはずなのに…。もしかして…いった?」


 愛さんが、凍えるような声で睨む。


「いやいや! 違いますよ! それに僕じゃボスを倒せませんし…」


 僕は、大げさな仕草で手を前にして勘違いを解こうとした。

そして愛さんに真実を伝える。


「実は、僕のジョブ『錬金術師』の力なんです…」

 

 僕は愛さんに錬金術師の能力をステータスを見せながら伝えた。



「すごい…。そんなことができるジョブ聞いたことがない」


(これは、とんでもない優良物件かもしれない…本格的に唾つけとこうかしら。 よし!)


「剣也君! このことは秘密にね? 私とあなたの二人だけの♥」


 愛は、剣也にウィンクした。

ライバルは少ないほうがいい、なのでこのジョブが本格的に本領を発揮して有名になるまではできるだけ隠しておくように伝える。


 ダンジョン探索者と、ナビゲーターの結婚率は、パイロットとCAの結婚率を超えている。

アナウンサーと野球選手並みだ。ちなみに数字は知らないただの偏見だ。


 なので、ナビゲーターはいい探索者を見つけて玉の輿に乗ることを目標としているともいえる。

これもまた偏見だが。


「秘密…ですか?」


「えぇ、あまり目立つと嫉妬した冒険者達の逆恨みを買うかもしれない…。だからそれを振り払えるぐらいの強さを得てからね」


 これは、事実だった。

強力なジョブを持った新人などが、妬まれて叩かれるなんてよくある話だ。

その事例をよく知っている愛は、本心から隠したほうがいいとも思っている。

せめて、それを振り払えるほど強くなるまでは…。


「わかりました! で? 査定額っていくらなんですか?」


「えーっと」


 そういうと愛さんは、タブレットを開いて現在の換金レートを調べる。

この換金レートは、需要と供給でなりたっているため日々変化する。

まるで株価のように。


「4万5千円ね! 大儲けよ!」


 末端価格では、十万円近いが買い取り価格はやはりその半分ぐらいになる。

それでも…。


「や、やった!!」


 うれしかった。

いつもギリギリの生活をしていた我が家に少し余裕ができたかもしれない。


「ふふ、おめでとう。じゃあはい、五万円!」


「え?」


「私からのちょっとしたお祝い! これからも頑張ってね♥」


「い、いいんですか!? ありがとうございます! いつか何かで返させてください!」


「気にしないで、出世払いね」


(いつかちゃんと返してもらうから…ジュルッ あ、やば涎が)


 猟奇的な表情をしながら舌舐めずりし手を振る愛さんを不思議に思いながら剣也はダンジョンを後にする。

そして妹に連絡する。


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今日は臨時収入があったから久しぶりに

焼き肉に行こう!

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ピロン♪ 

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まじ!? やった!! 

半年ぶり? お兄ちゃん最高!

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 そしてぼろアパートに帰り奈々と僕は合流する。


「ほらほら、諭吉様だぞ? ほれほれ!」


 僕は五枚の諭吉で、奈々のほっぺを往復ビンタする。

久しぶりに見た大金に、変なテンションになっていた。


「あぁ、気持ちいい!! もっと! もっと叩いて!!」


 奈々も焼肉にいけるということで、変なテンションになる。

女の子がそんなこと言っちゃいけません。


 そんなバカなやり取りをしながら、テンション高くスキップしながらお店に向かう。


 ちょっといい焼肉食べ放題で二人で一万円。

実に二十日分の食費だった。


ジューッ

 肉が焼ける音と香ばしい匂いが食欲をそそる。

そして、真っ白な日本人の心達。

その久しぶりの白米が、焼肉のたれを絡めながら、艶やかに輝く。

さぁ、食べろと主張する。


「お、おいしい! こんなに分厚い肉久しぶりだよ!! こ、米! 米ってこんなにおいしかった?」


「食え! 二十日分食え! 胃袋の限界を超えろ!」


 まるで、フードファイターのように二人は焼肉をむさぼる。

美しい兄妹の食事の光景などそこにはなかった。

ただひたすらと隙間なく肉を焼いていく、しかし二人の表情は幸せそのものだった。



 そしてしばらく楽しんでいると五人ほどのグループに話しかけられる。


「おいおい、貧乏人が焼肉なんか食べれるのか?」


 彼らは勇者パーティだった。

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