第13話 ヤングケアラーは、悩みを聞いてあげて!女性研究者は、使い捨て?真面目な人ほど、耐えて、耐えて、嫌な思いをさせられやすいんだ。

 この教授は、研究者の悩みを、給料が安いこととしか思っていなかったんじゃないのだろうか…。

 「きてくれるよね?」

 「…」

 「良いよね?」

 「…」

 「僕は、名誉教授。君は、研究者」

 「…」

 「きてくれるよね?」

 「はい…」

 彼女の身分は、不安定なまま。

 その教授は、彼女の論文を見てアクションを起こせる権利を、握っていた。この身分差では、逆らえるわけがなかった。

 「私…。あの教授に、将来を握られている。いやですなんて言えるわけが、ない」

 彼女のような研究者は、どうしたら、評価される?

 論文。

 論文。

 論文の善し悪しで、評価される。

 名誉教授の言葉すべてが、怖かった。

 「私の論文は、出版してもらえるの?」

 研究者なら、不安な毎日。

 論文が出版されて売れれば、印税が入る。

 「どこかの大学で、教材に使ってもらえるかもしれない…。って、そこまでは、期待していないけど」

 期待が持てたのは、出版されることで、論文の内容が、多くの人に認めてもらえるようになること。そこから、講師や助教授に登用してもらいたかった。

 それが叶えば、まさに、御の字!

 「最高よ!研究室だって、持てる。私の部屋ができるなんて、こんなにも素晴らしいことは、ないわ!最高!御の字よね!」

 教授になるのは、その、ずっと先。

 もっと、努力すれば良い。

 就職氷河期世代の彼女は、努力をしなければ目的地にはたどり着けないことを、知っていた。

 だから、努力で良い。

 「今は、その、努力のきっかけさえつかめれば良いのよ」

 それで、構わなかった。

 例の名誉教授からは、それからも、何度となく、食事に誘われた。

 もちろん、いやだとは、言えなかった。

 将来が、かかっていたのだから。

 フツーの努力程度では抜け出せない身分差を悪用して、将来をいじるなんて、サイテーだよ…。

 身分差って、恐ろしい。

 「もうすぐ、マンションだねえ」

 「そうですね、教授…」

 「私は、君の保護者だ」

 「…」

 「保護者は、偉い」

 「…」

 「君は、かわいいね」

 「…」

 「僕の、かわいい子ども」

 「…」

 「子どもは、保護者である親の言うことを、聞くべきだよね?」

 狂っていた。



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