第9話 ヤングケアラーには、理系女子の悩みが、聞こえてきちゃったんだよね。弱い立場の、涙。こういうのって、パワハラ?セクハラ?

 「理系、かあ。女性が、少ない気がする。ここに、女性の泣かされる理由が、眠っているんだろうなあ…」

 SNSの訴えた声は、こんな感じ。

 「研究機関で、セクハラを受けました」

 「女性が、軽く、扱われすぎます」

 「学問の場で、女性は、泣かされる」

 「でも、まわりとは、戦えない」

 「誰にも、言えない」

 「言えない」

 「この、悪循環」

 学問の場の、やるせなさ。

 研究者で、こんな女性がいるという話を、聞いた。

 「君、君?」

 「はい」

 「今日の、君の論文発表は、良かったよ」

 「ありがとう、ございます」

 「データが、良い」

 「ありがとうございます。いや、礼は、データに言わなければなりませんけれど。信頼できる機関から提供してもらえた、データですから…」

 「そうかね」

 「ええ」

 「ちょっと、一杯、どうかね?」

 男性の名誉教授に、酒を飲む仕草をされてしまった。

 「…」

 「美味しい食事を、ご馳走しよう」

 「でも…」

 「今日の、ご褒美だよ」

 「…ご褒美」

 「良いじゃ、ないかね」

 「…でも、教授」

「学問には、柔軟性が、必要だよ?」

 「そうですね…」

 論文の発表を、ほめてもらえたのだ。夕食に誘われるというのも、不自然な流れではなかった。

 誘われた女性には、選択肢が、これしかなかった。

 「お供いたします」

 立場の、違い。

 女性は、研究者。

 男性は、名誉教授。

 雇用形態も、違っていた。

 彼女は、有期雇用の、非常勤。

 男性は、無期雇用の、常勤。

 これは、民間の会社でいえば、新卒一括採用を受けられた正社員と、就職氷河期で泣かされ続きとなった、契約社員などの、有期雇用者の関係のようなものかも。

 断ったり、逆らうことなんて、できるはずがなかった。

 「…いやあ、ワインが、美味しいねえ」

 「ええ、そうですね」

 「君?もっと、笑いなさい」

 「…」

 レストランでの女性は、なかなか、笑うことができなかった。

 「私が働ける契約は、延長してもらえるんだろうか?」

 正直、女性にとって、こういうワインは、どうでも良いかった。

 「私って、何なの?」



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