第10話 ヤングケアラー、助けてやって!「僕のこと、好き?」「…好きです」契約を、更新してもらいたいだけだったのに! 最後のセリフは、軽率?

 名誉教授には、彼女の悩みは、届かず。

 「…いやあ、美味いねえ。そして、君の発表は、上手かった。あの論文は、データの使い方が良い」

 そんなことを言われても、響いてはこなかった。

 彼女は、明日も働いていられるのかの確証のほうをこそ、欲しかったのだから。

 「それでも私は、断れない」

 笑えない、時間。

 でも、笑わなくっちゃ。

 この男性に気に入られなければ、使ってもらえなくなっちゃうから。仕事が、なくなっちゃうから。

 生活が、できなくなっちゃうかもしれないんだから!

 ウソでも…。

 ウソなんだけれど、飛びきりの笑顔で、飲んでいかなければならなかった。

 弱い立場の女性が、生きるために!

 「君は、僕のことを、どう思うんだね?」

 「え、あの…?」

 「僕って、素敵な男性だと思うだろう?」

 「ええ、まあ…」

 「ははは。僕は、名誉教授だものね」

 「ええ。そうですね」

 何、笑っちゃってるのよ、このオヤジ!

 …って、感じ?

 「今日は、すべて、僕のおごりだ」

 「ありがとう、ございます」

 「どう?僕のこと、好きになっちゃったかな?」

 「ははは…、大好きですよ」

 最後のセリフは、軽率だった?

 大好きだなんて言っちゃって、良かったのだろうか?

 レストランで、会計が済んだ後…。

 教授の手が、彼女の手を捉えた。

 「ちょっ…」

 「何かね?」

 「私…1人で、歩けますから」

 「どうしたの?」

 「いや、その…」

 「僕は、君の生活を握る、名誉教授なんだよ?」

 「…」

 「心配なんか、いらないよ」

 「…」

 「僕は、君の保護者のようなもの、なんだよ?」

 「…保護者」

 「君?保護者の言うことに逆らっちゃ、まずいよ」

 「ちょっ…先生」

 「僕のことを、先生だなんて、言わないでおくれよ。まるで、小学校とかの先生のようじゃ、ないかね」

 「…」

 「僕は、進路の情報を握って、おどして、児童生徒の服を脱がして、スマホで裸をとって、SNSで流すような、あんな変態グループとは違うんだよ?」

 「は、はい…」

 「僕は、先生じゃない。教授だよ?」

 「すみません…」

 「あ~。飲んだなあ」

 「教授?しっかり、してください」

 「飲んだなあ」

 「マンションまで、送りますから」

 マンションまでの、帰り道…。





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