第37話 リベルレイド×エンチャント
武術大会最終日。
王都はユウヤとレンの勝敗の話題で持ちきりだった。
闘技場ではアナウンスによる、これまでの戦績発表により最高潮の盛り上がりを見せる。
「「……」」
俺とレンは2人だけの控え室で静かに始まるのを待っていた。
「なぁユウヤ。俺は日本に帰りたい。……いや、帰らないといけないんだ」
レンは重い口を開くと苦しそうな表情で話し始めた。
「ユウヤと同じでさ、俺も妹がいるんだよ。うちのはまだ小6でさ……んで、一緒に住んでる父さんが酒癖悪くてさ」
「そうか……」
「俺があいつの側に居てやらねぇと、帰ってやらねぇといけないんだよ……俺は日本に帰るために迷宮に挑む。王様が言ってたんだ……迷宮なら帰る方法が見つかるかもしれないって」
「……」
「ユウヤは帰りたいと思わないのか!? ユウヤも日本で待ってる家族がいるんだろ? 一緒に迷宮を攻略しよう! 2人でなら絶対に攻略できるはずだ!」
レンは立ち上がると、手を差し伸べてきた。
「……ごめん。今は一緒には行けない。最近思うんだ。俺がこの世界に来た意味が……何か理由があるんじゃないかってさ」
俺は手を取らず俯いて答えた。
──まだ、黒いフードの男のことをレンには言っていない。あいつが俺の事を転移させたのかもしれない。だとすれば見つけ出す必要がある……
「んだよそれ……」
「けど、俺も帰る方法は探すつもりだ。帰る方法が見つかったら、その時にどうするか考える」
「そか……まぁ急いでもしゃーねぇもんなぁ。わりぃ、今のは忘れてくれ」
レンは伸びをすると、笑い飛ばすように言った。
フードの男のこともあるが、もう1つ俺には解決しないといけないことがある。
それは体内の魔石だ。このまま日本に帰ることは出来るのか、もし帰れても魔石はどうなるのかもわからない。
「あー因みになんだけどさぁ」
レンが言いずらそうに口を開いた。
「この戦い、ゴールドに興味なかったら負けてくんね?」
「……は?」
「いやー王様が煩いんよ。『王家専属冒険者たるもの敗北は許さんッ!』とか言っててさぁ」
「嫌だ」
俺は端的に答えた。
「なぁ頼むって! 勝てなかったらルピートの爺さんに
「ルピートって誰だよ。俺は負けるつもりはないぞ。勝ちたきゃ全力で勝ちに来い」
「はぁ……ユウヤは負けず嫌いだなぁ」
レンは力なく席に座ると、残念そうに言った。
「ユウヤ様、レン様。そろそろ舞台にお上がりください」
俺たちが談笑していると、闘技場スタッフに声をかけられた。
舞台に上ると、観客が俺たちに気づき歓声がより一層沸き立つ。
俺は所定位置に立ち、
煌びやかな装飾が施された鞘から抜かれた刀身は、眩く光り輝き中央には金色の筋が走っている。
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【リベルレイド】<魔剣>
傲慢の魔剣。
魔石を喰らい能力を取り込み力とする。
複数取り込むことで能力を強化することも可能。
ただし、相反する能力を取り込むとその能力は互いに消滅する。
能力は魔石内の魔素が無くなることで消滅する。
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「はじめッ!」
審判の掛け声と同時に2人は『闘気』を発動させ、地面を蹴った。
2人は目にも止まらない速さで剣戟を繰り広げる。
剣がぶつかり火花が散り、観客席にまで衝撃が伝わる。
「やっぱりこのままじゃ埒が明かねぇな」
レンはインベントリから魔石を取り出すと、リベルレイドに喰わせた。
──何の魔石を喰わせたんだ?
リベルレイドから炎が吹き荒れ、刀身にまとわりついた。
「……笑えねぇ」
「何とかってゆー火竜の魔石だ。結構高い物らしいが、勿体ぶってたらユウヤには勝てねぇだろ?」
俺が1歩後ずさると、レンが得意げに言ってきた。
「……火なら水か」
俺は魔力を放出し水に変換する。
俺の周りに水の大渦が巻き上がり、血刃に吸い込まれるように消えていく。
俺の右手には水流を纏う血刃があった。
「なんだよそりゃ」
「見よう見まねってやつだ」
──けどこれ、燃費悪いな……
俺は水に変換した魔力を血刃に
グレイが魔力を風に変えたように、俺も水に変換したが調整がかなり難しく、無駄に魔力を消費してしまったようだ。
あまり多用は出来そうにない。
「そんじゃ、どっちが強いか力比べだなッ!」
レンは縮地で距離を詰めると、袈裟斬りに剣を振るった。
俺は血刃で受け止めると、炎と水がぶつかり水蒸気が発生させると、血刃の水がリベルレイドの炎を消していく。
「クソッ、まだだッ!」
レンが更に力を込めて押してきた。
その瞬間、俺は血刃の角度を変えてリベルレイドを滑らせる様に軌道を変える。
軌道を変えられたレンは、体勢を崩し隙ができた。
そこに追い打ちをかけ、グランロストですくい上げる様に斬りあげる。
レンは無理な体勢になりながらも、リベルレイドで受け止めてみせた。俺は力任せにそのまま振り上げる。
リベルレイドはレンの手を離れ、宙を舞うと場外に突き刺さった。
俺は
「終わりだ」
「……参った。俺の負けだ」
「勝者、ユウヤッ!」
静まり返っていた場内が歓声で埋め尽くされる。
俺は血刃に纏っていた血をキーチェーンに戻し、レンに手を差し伸べる。
「俺の勝ちだな」
「クソッ……俺の負けだ、今日はなッ!」
「レンも相当な負けず嫌いだな」
俺たちは笑い合い、歓声に応えながら舞台を降りた。
「ユーヤ、おめでと」
「ありがとな。ティナ」
ゲートの近くでティナが待っていた。
俺はティナの頭を軽く撫でた。
「レン様……」
「悪ぃ。負けちまった」
同じくゲートで待っていたグレイが悔しそうにレンに声をかけていた。
「あいつが卑怯なんですッ! あんな水魔法──」
「グレイ、いい加減にしろ。俺たちはユウヤに実力で負けたんだ。それに、俺は負けたが悔いはない。いい勝負だったろ、お前も認めろ」
「はい……」
グレイは悔しそうに俯いて返事をした。
「ユウヤ。次は俺が勝つからなッ!」
「ユウヤ
2人は真剣な目つきで言ってきた。
「ああ、次も俺が勝つけどな」
俺は笑って言い返した。
その後は、授賞式や閉会式が滞りなく行われ、俺はギルドからゴールドのギルドプレートと乗船許可証を受け取った。
そして、王都に一緒に来たロイやマルコさん達と宴会騒ぎで盛り上がり、夜は更けていった。
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