第38話 目的地×目論見


 決勝から一夜明けた早朝──


「よぉ。ゴールド冒険者様は今から出発か?」


 皆に挨拶をして王都の北門に向かうと、門の近くにレンとグレイの姿があった。


「見送りに来てくれたのか?」

「まぁそれもなんだが、王様から伝言もあってな」

「王様から?」

「ユウヤを王家専属冒険者に誘って来いだとよ。俺だけじゃ役不足らしいわ」


 レンは困った顔で笑いながら言った。


「……いや、俺はやめとくよ。迷宮攻略以外にもやらないといけない事もあるしな」

「転移してきた理由ってやつか?」

「んまぁ、そんなとこかな」

 ──もし俺が魔石を取り出す方法を探すと言えば、きっとレンも手伝うと言ってくれる。けど、レンには日本に帰らないといけない理由がある。俺のために使う時間は無いはずだ……


「そか。んじゃ王様には俺から言っとくわ」

「頼んだ。それで、レンはこれからどうするんだ?」

「俺はお前に負けたからな。ひと月は王城で修行だ」


 レンは面倒くさそうに言った。


「こうは言ってるけど、レン様は僕を待ってくれているんだ。僕は来月の大会で決勝まで行かないとノースフルまでの許可証がもらえないからね」


 実力では申し分ないはずだが、グレイは2戦目で俺に負けたため、乗船許可証を持っていない。


「なんだ、そういう事か」

「別にそんなんじゃねぇって。グレイは俺の傍付きらしいからな。ノースフルにもグレイが着いてくるもんだと思ってさ。別に俺一人で行ってもいいんだが、王様もうるさいし……ってか、ユウヤさっさと行けよ!」


 レンは口数が増えたかと思うと、急に声を荒らげた。


「レンが引き止めたんだろ。そんじゃ、行くか」

「ん」

「俺達もすぐに迷宮いくから、苦戦して待っててくれ」


 レンは笑いながら言った。


「すぐに攻略してやるよ。またな」

「おう」


 俺はレンと握手を交わし、北門を出た。


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


「ユーヤ、次はどこに行くの?」

「北東の港町『イエン』だ。港町だから魚料理とか作れそうだな」

「魚ッ!? 早く行こー!」


 ティナは嬉しそうに跳ね回っている。


「っと、その前に俺になにか用か?」


 王都を出てしばらく歩いていたが、ずっと後ろをつけてくる奴がいた。


「私ともう一度戦いなさいッ!」


 リアはナイトメアを抜いて威勢よく言い放った。


「俺には戦う理由がないんだが?」

「私は負けたままが嫌なのッ! 大会ではあなたの挑発にまんまと乗せられたけど次はそうはいかないわッ! 今度こそ私が──」


 その時、リアのお腹が盛大に鳴った。


「あ……うぅ」


 耳まで赤くしたリアは先程までの威勢を無くし恥ずかしそうに俯いた。


「なんだ、腹減ってんのか。ちょっと待ってな」


 俺はインベントリからハンバーガーが入った包みを取り出し、ティナに手渡した。


「……え」

「どうした?」


 ハンバーガーを受け取ったリアは遠い目をして固まっていた。


「な、なんでもないわ。……ありがとう」

「そうか。ん?」


 袖を引っ張られて視線を落とすと、ティナが物欲しそうな目で見ていた。


「ティナも食いたいのか? 仕方ない、ちょっと早いが朝飯にするか」

「んッ!」


 俺は満面の笑みで返事をしたティナにもハンバーガーを手渡し、インベントリから自分の分も取り出した。

 俺たちは適当に腰掛けて、朝食を取る事にした。


「なんだか、戦う感じじゃ無くなっちゃったわ……」


 リアはボソッと呟くと、近くの木にもたれ掛かり包みを開けると、小さくかじりついた。


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


「すみません……ユウヤは王家専属冒険者にはならないそうです」


 謁見の間にレンの声が響いた。

 玉座にはフジワラ王が座り、その隣にルピートの姿があった。


「そうか。やむを得ん、考えは人それぞれだ」

「レン、明日からの修行はさらに厳しくなると思いなさい。今のままでは迷宮に挑んでも攻略なんぞ出来んからのぅ。今日は部屋で休んでいなさい」

「はい……」


 ルピートのげきにレンは小さく返事をし、謁見の間を出ていった。


「王よ。あのまま向かわせてよかったのですか? 万が一先に攻略されれば……」

「構わん。迷宮はノースフルだけでは無いからな。攻略が済んでも宝玉さえ手に入ればそれで良い。それに、私の手駒にならん者は要らん。レンにあいつを仕留めさせろ」


 王はルピートに黒い剣を手渡した。


「はッ! 仰せのままに」


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


「で、いつまで着いてくる気だ?」


 俺たちは朝食を取ったあと、イエンに向って歩いていたが、リアがずっと後ろを着いてきていた。


「私もこっちに向かう用事があの。たまたま方向が同じなのよ」

「へぇ、そうか……あッあれは!」

「え、なにッ!?」


 俺は後ろを指さすと、リアが吊られて後ろを振り返った。


「ちょっと何も無いじゃない。って、そんなのどこから──」

「じゃあな」


 俺たちは魔導二輪に跨りその場から逃げるように去った。


「ちょっと、待ちなさいよ! あなたには聞きたいことが──」


 魔導二輪のサイドミラーには走りながら大声を上げるリアの姿が写っていた。

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