第36話 ナイトメア×グランロスト
「70人近くいた出場者も残り4名となりました。この大会も大詰めとなってまいりました! なお、準決勝に進んだ4名にはノースフルへの乗船許可証が与えられますッ!」
アナウンスが場内に響くと観客席が沸き上がり、声援が飛び交う。
「準決勝からは場外を減らすため、舞台が広くなります。出場者の皆さんには思いっきり戦っていただきましょう!」
舞台は昨晩のうちに改装されたらしく、各ブロックで使われていた4つの舞台が組み合わされていた。
広さは4倍となり、場外狙いは難しくなった。
「準決勝進出4名のうち2名はシルバーVという面白いカードが残りました。それでは順に紹介して参りましょう──」
アナウンスで4人の紹介が始まった。
出場者の名前が呼ばれる度に場内は沸き立つ。1人のときを除いて……
リアが紹介されると、ブーイングが沸き起こり罵詈雑言が飛び交った。
リアの方に目を向けると、下唇を強くかみ締め悔しそうに俯いている。
「これより、準決勝を執り行うッ!」
出場者の紹介が終わると、審判の声が闘技場に響いた。
「準決勝からは1戦ずつ執り行う。まずはAブロック、ユウヤ対Bブロック、リア・エストレアの試合を行うッ! 両者は舞台へッ!」
俺とリアが舞台に上がると、歓声が強まった。
審判に誘導され、所定位置に立つ。
ティナに魔力を補填されたおかげか、刀を抜いたリアは顔色もよく、鋭い眼光でこちらを睨みつける。
「魔剣は厄介だな……」
俺は短剣に血を纏わせ、魔剣グランロストを左手に構えた。
俺の構える武器を見たリアは、ナイトメアに魔力を注ぎ刀身に赤い筋が浮かび上がる。
「はじめッ!」
審判の掛け声と同時に地面を蹴り距離を詰める。
勢いを殺さず、縮地で死角に潜り込む。
死角から双刀で斬りあげる。が、ナイトメアが剣筋に差し込まれ攻撃をいなす様に流された。
両手を上げ隙だらけになった俺の脇腹を目掛け、ナイトメアが振り下ろされる。
俺は、咄嗟に縮地を発動し距離を取る。
「なんだ今の動き……俺の動きが見えていたのか?」
「動きは早いけど、斬撃がずさんね。次は私の番──」
リアは距離を詰め、剣の間合いで振り下ろした。
俺はグランロストで受け止める。
「くッ……重い」
斬撃は予想以上に重く、膝が折れそうになる。
俺は血刃を使いナイトメアを弾き返し、懐に入り込もうとするが、リアは距離を取り剣の間合いを維持してくる。
「くそッ……なら!」
俺は手を突き出し、ファイアボールを放つ。
ファイアボールは真っ直ぐ飛んでいき、リアに直撃する寸前──リアがナイトメアを振るった。
ファイアボールが真っ二つに割れると、青い光に変わりナイトメアに吸い込まれた。
「無駄よ。私に魔法は効かないわ」
「笑えねぇ……」
「この勝負、勝たせてもらうわッ!」
リアの鋭い剣戟が繰り広げられる。
俺が近づくことは許されず、ガードと回避をしながら隙を伺うことしかできない。
──あと2勝。あと2回勝てばゴールドに昇格できるわ……絶対に負けられないッ!
リアのナイトメアを握る手に力が入る。
「私は勝って、貴族にならないといけないのッ!」
ナイトメアの赤い筋が太く色濃く浮かび上がる。
一太刀ごとに速く、重くなっていく。
「私は父を超える。父より凄い功績を残して、父の汚行を払拭するしか道はないのよッ!」
「ごちゃごちゃ、うるせぇ!!」
ユウヤの身体から『闘気』による白い湯気が立ちのぼり、リアの剣戟が跳ね飛ばされる。
「お前の都合なんて知らねぇ! 貴族になりたきゃ勝手になれ! でもなッ! そんなことで父親の罪は消えないぞ!」
「なッ……あなたに何がわかるのよッ!」
「あの事件の原因はその剣なんだろ?」
「……え、どうして」
「だったらその剣を使いこなせ。使いこなして原因が魔剣だったことを証明してみろよ!」
「あなたに言われなくても分かってるわよッ!」
ナイトメアが脈打つと、リアの腕に赤い筋が伝い始めた。
「ぐッ……あぁあああああぁあぁああ!」
ナイトメアから流れ込む力に耐えきれず、リアが叫び声を上げる。
両腕が力なくだらりと落ちる。
観客は何が起こっているのか分からず、静まり返り固唾を飲んで見守る。
空気が張り詰める中、リアからは禍々しい気配が放たれ始めた。
俺は距離を取り、両手の短剣を強く握り締め構え直す。
リアが顔を上げると、眼孔は開ききり似つかわしくない笑みを浮かべた。
「来る」
リアが地面を一蹴りすると、一瞬で距離を詰められた。
袈裟に振り下ろされたナイトメアを血刃とグランロストで滑らせる様にいなす。
──剣戟が重すぎる……直に受けたらヤバい。
剣戟は更に勢いを増しており、闘気を発動させていても徐々に端へと押される。
「くッ……」
俺は縮地を発動し背後に回りこむと、至近距離でエアーインパクトを放つ──
しかし、ナイトメアが割込みエアーインパクトは飲み込まれてしまった。
「アハハハハ、無駄よ。魔法は効かないって言ったじゃない。ナイトメアが全部食べちゃうんだから!」
「だったら、たらふく食わせてやるよ!」
俺は縮地で距離を取ると、ファイアボールを大量に展開させリアに放った。
「ご馳走してくれるのぉ?」
リアは笑いながらファイアボールを斬り、ナイトメアに吸収させ始めた。
すかさず、背後に周りグランロストで乱撃を放ち縮地で距離を取る。
「何その剣。ぜーんぜん痛くないんだけど」
リアの背中は服が破けはしたが、かすり傷にも満たない痕が付いただけだった。
──魔力を喰らっていないグランロストは、ただのなまくらの短剣だ。だが、これでいい……
俺は再度ファイアボールを展開させリアに連打する。
「はぁ……またそれ? 芸の無い男。無駄だって言ってるじゃない」
ファイアボールを斬るリアの隙をついて、グランロストで攻撃を加えていく。
繰り返すうちに、徐々にリアの動きは鈍くなり始めた。
「な、んで……」
リアは片膝をついて苦しそうに呟いた。
ナイトメアの刀身からは既に赤い筋は薄れ、禍々しい気配もしなくなっていた。
グランロストで魔力を削り続け、リアの魔力は枯渇した。
──ナイトメアは魔力を代償に力を得る魔剣だ。持ち主が魔力切れになれば力も無くなる。
リアは前のめりに倒れると、動かなくなった。
「勝者、ユウヤッ!」
審判がリアの状態を確認し、叫んだ。
暫くして、状況を理解した観客から歓声が沸き上がり始める。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
「勝ったか……ユウヤのやつ色々隠し持ってやがったな。闘気か……使えそうなスキルだ」
既に勝ち進んでいたレンは、身体から白い湯気を立ち登らせながら呟いた。
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