第35話 グレイ・ガルシア×風の壁
──僕の名はグレイ・ガルシア。
風魔法の天才と呼ばれる僕が、ある日突然現れた王家専属冒険者の傍付きに任命された。
初めは面倒なことになったと思っていたが、レン様は凄いお人だ。日々の訓練でものすごい勢いで技を習得される。
今じゃ槍術でもレン様の足元にも及ばない……
そんなレン様が今朝、おかしな事を言い出した。
「ユウヤさん、ですか?」
「昨日たまたま市場で知り合ってな。久しぶりに日本の話が出来た」
「レン様と同郷の方なんですね……」
「そうなんだよ。しかも、ユウヤはさぁ──」
レンは楽しそうにユウヤの話をグレイに聞かせた。
──厄介な虫がレン様に付き纏っているようだ。必ず駆除しないと……
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「お前はここで潰すッ!」
──ここまで僕の綿密な計算により、予選結果を調整し、この男をレン様と戦わせる前に僕と当たらせることに成功した。
運良く剣姫も隣のブロックだ。この男を倒し、剣姫を倒せば、レン様を邪魔する者は誰もいなくなる。決勝戦は僕とレン様だけの物ッ!
きっと、レン様もお喜びになられるはず。
「あはは、あはははは」
肩にかかる程の長めの灰色の髮に整った顔立ちの少年は、舞台の所定位置に立ち意気込むなり、変な笑い方をして頬を赤らめている。
「何か分かんねぇけど、気持ち悪いな。お前」
「……はッ! お前に理解してもらうつもりは毛頭ない!」
2人は武器を構える。
──槍か……短剣だと間合いが違いすぎる。魔法主体で行くか?
「はじめッ!」
「消えた!?」
審判の掛け声と共にグレイの姿が消えた。
背後に気配を感じ、前方に縮地を発動し回避する。
──まさか、縮地持ちか?
この大会で目立っていた出場者しかステータスを確認していなかった俺は、咄嗟にグレイを鑑定した。
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【名前 / 性別】グレイ・ガルシア / 男
【レベル / Exp】Lv.34 / 28666(Next:3388)
【スキル】槍:Lv.6 / 風魔法:Lv.5 / 身体強化:Lv.7
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──縮地を持っていない? どういう事だ?
「今のを避けるのか、勘がいいね。でも、逃がさないよ」
グレイが地面を蹴った瞬間、空気が振動し目の前に槍の矛先が現れた。
縮地を連発し距離を取るも、狭い舞台ではすぐに距離を詰められてしまう。
「どうした。どうしたァ!?」
グレイは俺が突破口を見出せないのをいい事に、槍を振り回し追い打ちをかけてくる。
「いい加減に、しろッ!」
イラついた俺は、グレイにファイアボールを放つ──しかし、ファイアボールはグレイに届く前に爆発することなく消えてしまった。
──どうなってる……
「お前が火魔法を使えることは知っているよ。だが、所詮その程度の魔法しか使えないのか。魔法書に載っている程度の魔法が、僕の
──風壁……風魔法か? 魔法書に載っていない魔法が存在するのか?
「この程度なら、わざわざ僕が潰す必要もなかったか。まぁいい、お前を倒した後は剣姫を倒しレン様へ優勝をプレゼントする計画だからな」
──ん?
グダグダと自分に酔ったかのように話すグレイを見ていた俺はあることに気づいた。
魔力がグレイの周りを渦巻き、脚を中心に魔力が濃く集中している。
グレイは魔力を風に変換し、自分の周囲に吹かせ風のバリアを作っていた。
さらに、脚に風の魔力を集中させ、噴出させることで瞬間的に移動速度を上昇させているらしい。
「これならどうだッ!」
俺は特大のファイアボールを作り、グレイに放つ。
「無駄だよ。風壁の前ではどんな炎も消えるんだ」
ファイアボールは、風に流されると消えてしまった。
「ならッ!」
ファイアボールの影に隠れていた俺は、縮地を発動させグレイの背後から斬り付ける。
「それも無駄」
「ぐぁッ!」
強風に抗えず、俺が吹き飛ばされてしまう。
「僕の風壁は絶対防御なんだよ。お前なんかに崩せるわけがないだろッ!」
「絶対防御とか笑えねぇもん俺が崩してやる!」
俺はファイアボールを大量に打ち込む。
「数を増やしたところで無駄だ。僕がそれを上回る風を起こせば良いだけのことだからね」
風壁はさらに風圧が増し、ファイアボールは次々と消されてしまう。
「どうして風が強いと火事が起こりやすいか知ってるか?」
「は? なにを言って──」
突如、風壁の中に火柱がのぼった。
グレイは身体の火を消すために転げ周った。
「はぁ、はぁ……一体なにが……あいつはッ!?」
なんとか火を消したグレイは体を起こす。が、ユウヤを見失っていた。
「風が強い日は火事に気をつけないとな」
俺は状況を把握しきれていないグレイの背中に手を着き言った。
「え?」
「──エアーインパクト」
「ぐへッ……」
グレイは背中を強打され、場外へ落ちていった。
「グレイ・ガルシア、場外のため失格ッ! よって勝者、ユウヤッ!」
審判が叫ぶと歓声が沸き上がる。
俺は声援に手を振りながら、闘技場を出た。
「ユーヤおめでと」
「ありがと。最後は賭けだったけどな」
俺はティナの祝福に笑って答えた。
「最後の火の魔法、アレどうやったの? ただのファイアボールだったよね? 魔力少なかったよ?」
ティナは観客席から魔力の量を見ていたらしく、火力がおかしいことを言いたいようだ。
「グレイの風壁を利用したんだ。小さな火も風で大きく燃え上がるからな」
風壁には弱点があった。
周囲を渦巻く風壁はグレイがいる真上だけが空いていた。
大量のファイアボールに混ぜて、真上からファイアボールを落とせば、グレイに燃え移り劫火となる。
「それにしても魔法にあんな使い方があったなんてな」
「ユーヤが使ってる魔法書の魔法はただの基礎だからね。魔法はイメージと魔力コントロールが大切なんだよ」
俺はティナに魔法について教えてもらいながら宿に帰った。
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「グレイが敗れたか……ルピート、あの男は何者だ?」
「ユウヤと言うそうです。以前、王宮騎士団の話を断った男ですな」
ルピートは出場者リストを確認しながら、フジワラ王に説明した。
「おお、カタクのランディから推奨されておった奴か。あの時は、レンよりも早くシルバーになりそうじゃったから断ったが、ふむ……ステータスは隠蔽しておるが、彼奴も転移者で間違いないな」
「その様です。中々の逸材かと……」
「レンに続いてまた1人現れるとは、私に運が回ってきたようだ。監視し能力を探れ」
「はッ!」
ルピートは返事をすると部屋を出ていった。
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