第34話 リア・エストレア×武術大会
予選初日。
リアは予選が行われる南闘技場の控え室に来ていた。
──またあの目だ……
リアを見る出場者たちは、まるで汚いものを見るような目をしていた。
「間もなく、第3試合を始めます。呼ばれた出場者はこちらに来てください」
闘技場スタッフの声が控え室に響いた。
リアは周りの目を気にしないようにし、スタッフの元へ向かった。
「エストレアってあの没落貴族のエストレアか?」
「……ッチ」
初戦の対戦相手がリアの名前に反応したが、リアは舌打ちで返した。
「てめぇ、人殺しの娘のクセに生意気だなッ!」
「おい! これから入場だ、静かにしろ」
「クソッ……」
対戦相手はスタッフに怒られ、苛立ちならがらも黙った。
闘技場に入場した2人は中央に進む。
「さっきの、訂正しなさい」
「はぁ? 事実だろうが。てめぇの父親は人殺しだ。人殺しの娘に生きる資格はねぇ!」
「お前たちいい加減にしろ。所定の位置につけ」
「……」「ケッ!」
2人は所定位置につき、武器を構える。
リアの構える刀に赤い筋が入る。
「はじめッ!」
審判の掛け声と同時に相手の懐に入ったリアは、刀を逆手に持ち、横一線に振るった。
対戦相手は吹き飛び、地面に何度もバウンドすると闘技場の端で止まった。
「勝者ッ! リア・エストレア!」
審判が叫ぶと、場内にブーイングが巻き起こった。
──また無駄に魔力を使ってしまった……
リアは周りに悟られないように平然を装い、控え室へと戻った。
「大丈夫か?」
適当な場所に座り休んでいると、知らない男に声をかけられた。
──穢らわしい……男はすぐに弱みにつけ込んでくる。今は少しでも休んで身体を回復させないと……
「私に優しくしないで……死にたいの?」
リアは睨みつけると、ふらつく足取りで闘技場を出た。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
予選最終日。
毎日晒されるブーイングの嵐に耐え続けたリア。
魔剣に身体を蝕まれながらも、予選最終試合へ向かった。
「クリフ様。この試合に勝てば本戦出場も有り得ますぞ」
「おーそうか。2度も化け物に当たったが、僕の実力を持ってすれば当たり前のことだな! ガハハハ!」
クリフのバカ笑いが控え室に響き渡る。
「コホン。クリフ・ユースレスト対リア・エストレアの試合を始めます! 両者は闘技場へ!」
闘技場スタッフに呼ばれた2人は闘技場の中央へと歩き始めた。
「ほぉ。かつての名家、エストレア家のご息女ではございませんかぁ〜!」
クリフはいやらしい笑みを浮かべながら、話しかけてきた。
「……」
「貴様。落ちこぼれのくせにこの僕を無視かぁ? まぁいい。落ちこぼれに良い話をしてやろう。この試合、わざと負けろ。そうすれば僕の側室として迎え入れてやらんでもないぞ?」
クリフはリアにしか聞こえないように、耳元で囁いた。
──こんな奴が貴族だなんて……国民の上に立つ貴族の風上にもおけないッ!
リアは鋭い眼光でクリフを睨みつける。
「あなたみたいな人、私大っ嫌いッ!」
「なッ!?」
リアはナイトメアを構える。
ナイトメアはリアの魔力を喰らい、中央に赤い筋が伸びる。
凄むリアにビビリながらも、クリフも剣を抜き構えた。
「はじめッ!」
リアは審判の掛け声と同時に地面を強く蹴り、クリフの眼前まで距離を詰める。
「ひッ!」
怯えたクリフは目を瞑り剣を振り回した。
鋭い金属音が鳴り響くと、クリフの持つミスリルの剣は二つに折れた。
「ぐぇッ」
背中から倒れ、潰れたカエルのような声を出したクリフの首筋にナイトメアが突きつけられる。
「ま、参りま……ッ!?」
クリフが降参しようと口を開いた時、折れた剣が倒れるクリフの顔スレスレに突き刺さった。
クリフは鯉のように口をパクパクすると、泡を吹いて気絶した。
「勝者ッ! リア・エストレア!」
リアは審判の宣言を聞くと、納刀してブーイングの響く闘技場を後にした。
宿に戻ったリアは食事もそこそこに、布団に潜り込んだ。
「やっと本戦出場だわ……あと数戦勝てば、目標にまた1歩近づける……冒険者叙勲制度で……必ず──」
その夜、リアは意識を失うように眠りについた。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
「これより、Bブロック第1試合を始めます。ルールを守ってフェアな戦いを!」
本戦の舞台へと立ったリアは所定位置で剣を構える。
──こんな所で魔力を無駄遣いできない……ここは温存して戦わないと。
「はじめッ!」
審判の掛け声により、両者が距離を詰める。
2人の武器がぶつかり、火花を散らす。
「よぉ。人殺しを父親に持つのはどんな気持ちだ? 母親も被害者に殺されたってのに、お前はどうして生きてんだ?」
「……貴様ぁ!」
──母は最後まで強く生きた。私に生きろと言ってくれた……
ナイトメアに赤い筋が浮かび上がり、鍔迫り合いの状態から対戦相手を吹き飛ばす。
ナイトメアの赤い筋が太く、濃くなる。
リアは地面を強く蹴ると、体勢が崩れた相手に追い打ちをかけた。
相手のガードも構わず、リアは逆袈裟に切り上げた。
「がはッ!」
対戦相手は闘技場の壁まで吹き飛び、瓦礫の下敷きになった。
リアはしばらく放心したあと、納刀するとふらふらと闘技場の入場ゲートへと向かった。
死んだかもしれない。人を殺めたかもしれない。そんな事が脳裏に過り、鼓動が強く脈打つ。
──身体中が痛い……肺が、苦しい……
リアはふらつく足を抑えながら、入場ゲートを通り抜ける。
「あ、ちょっと待ってくれ」
「なに、またあんた……なの」
聞き覚えのある声にリアは立ち止まり、振り返る。
視界がボヤけ、その場に倒れ込んでしまった。
「おいッ! 大丈夫か!? 誰か来てくれ!」
駆け寄ってきた男は、リアを抱え必死に人を呼んだ。
──どうしてだろ……なんだかこの声、少し落ち着く……ジェイド様……
リアはそのまま意識を失った。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
目を覚ますと、男と女の子が医務室にいた。
「お、目が覚めたか。俺はユウヤだ」
リアは被っていた布団を手繰り寄せ、体を覆う。
「大丈夫だ、何もしていない。それより体はどうだ」
「……あれ? 何だかいつもより体が軽い」
ユウヤに言われ身体の気だるさが薄れていることに気づいた。
「そうか、ならよかった」
「私に何かしたの?」
リアは獣を見る様な目でユウヤを睨みつける。
「俺は何もしてねぇって! 魔力が枯渇してたみたいだから、ティナが魔力を補填してくれたんだ」
「魔力を補填? そんなことできるわけ──」
「できるよ?」
人形のような可愛らしい女の子が、食い気味に会話に入ってきた。
「体内の魔力の流れに逆らわないようにゆっくりと流し入れていくの」
リアは理解できていないようで、不思議な子を見るような目でティナを見つめる。
「ちょっと何を言ってるのかわからないわ」
「むー」
ティナは理解してくれないリアにむくれた。
リアはベッドから立ち上がると、扉の方へ歩いていった。
「……助けてくれた事には感謝してるわ。あなたも大会出場者よね? 私、恩を受けたからって負けるつもりないから」
リアはそう言うと、医務室を出ていってしまった。
「そんなつもりで助けたんじゃないんだけどな……はぁ」
ユウヤの独り言とため息が医務室に響いた。
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