第30話 大会登録×平たい顔族
人で賑わう街とは裏腹にギルド内は静まり返っていた。
「王都のギルドはいつもこんなに静かなのか?」
俺は暇そうにしている受付嬢に声をかけた。
「他の街からこられた冒険者さんですか? いつもと言うよりは、この時期はですかね。依頼を受けても王都を出入りする度に厳重な検査を通らないといけませんから……この時期は王都を拠点にしている冒険者さんは、お休みをされているか他の街で依頼を受けているかと思います」
「あーなるほど」
カタクギルドの暇な時間でも冒険者はチラホラといたが、王都のギルドには1人も見当たらない。
「この時期に王都に来られたってことは、大会出場希望ですか?」
「あぁ。手続きはここで出来るんだよな?」
「はい。大丈夫ですよ。ギルドプレートをお借りできますか?」
俺は首に提げていたプレートを受付嬢に手渡した。
「すごい。短期間でシルバーになられたのですね!」
受付嬢は魔導具でプレートを読み取り、依頼の履歴確認を始めた。
「かなりの実力をお持ちの様ですね。予選で勝ち上がって本戦目指して頑張ってくださいね」
「予選? 2日後から大会が始まるんじゃないのか?」
「ご説明させていただきます──」
受付嬢は大会の詳細を教えてくれた。
要約すると、2日後に大会参加が締切となり10日間に渡って予選が行われるそうだ。
予選は今までの依頼内容などがわかるギルドプレートの情報をもとに、ギルド側が指定する参加者と1日1試合行われる。
勝敗の勝ち点で決められた順位を元に、本戦のブロックに振り分けられることとなる。
本戦のブロックは各8名からなる、A〜Dの全4ブロックとなり、各ブロックで勝ち上がった4名が決勝へと進む。
今回の大会では、優勝者はゴールドクラスに昇格となる。
ちなみに、決勝に進んだ時点でノースフルへの乗船許可証は手に入るそうだ。
「予選参加者は何人いるんだ?」
「現在の参加希望者は約70名ですね」
「予選で半数以上減るってことか」
「今回はゴールドクラス昇格も兼ねてますので、熟練の冒険者も数多く参加しています」
「あーなるほど」
──ランディのやつ、知っててこのタイミングで送り出したな……
「怖気付いちゃいました? 昇格が目的じゃないなら来月参加された方がいいですよ?」
黙る俺に心配そうに受付嬢が聞いてきた。
「いや、問題ない。予選の対戦相手はギルドから連絡が入ると言っていたが」
「その事でしたら、こちらの魔導具で連絡をさせていただいております」
受付嬢が取り出したのは、バングル型の魔導具だった。
「対戦相手が決まり次第、相手の名前と対戦場所、時間が表示されます。ユウヤさんの情報を取り込んでおきましたので、嵌めていただければ登録完了となります」
「わかった」
俺はバングルを受け取り腕に着けると、バングルに嵌め込まれた魔石から登録完了のウィンドウが浮かび上がった。
「登録が完了したようですね。対戦相手が決まりましたら、ご連絡させていただきます」
「ありがとう」
俺は受付嬢に礼を言ってギルドをあとにした。
「さてと、宿を探すか……こんなに人がいて空いてる宿があればいいが」
ギルドの前は大荷物を抱えた人達で溢れかえっていた。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
「何とか宿が見つかってよかったなー」
俺はベッドに腰を下ろしながら言った。
「ん。お腹空いた」
「そういや、飯がまだだったな。すぐ支度するから待ってな」
俺は荷物を適当に置くと厨房に向かった。
ギルドを出て宿探しを始めた俺たちだったが、武術大会本戦の闘技場付近から部屋が埋まっていくらしく、どこも満室だった。
最後に行き着いたのが、この高級ホテルのような外観で全部屋が狐の尻尾亭の最上級ルーム以上の宿だ。
本戦の闘技場となる王城から近いのはいいのだが、2人部屋で1泊食事付き金貨10枚、つまり1泊10万円のスイートルームだ。
ここまで高いとサービスが行き届いており、各部屋にフロント直結の連絡用魔導具が取り付けられ、個室の風呂まで着いている。
「流石王都だな。色んな食材が手に入ったから何でも作れそうだ」
俺は盛り付けた皿をティナが待つテーブルに運びながら言った。
市場の食材の豊富さは料理人冥利に尽きるほどだ。
特にテンションが上がったのは『米』が手に入ったことだ。
「コロッケだ! お米も久しぶりッ!」
「熱いウチに食べるか」
「ん!」
「「いただきます!」」
食事を終え、風呂に入った俺たちは早々に寝床に入った。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
翌朝、異世界生活に体も慣れた俺は早朝に目を覚ました。
俺が体を起こすと、ティナも揃って起きた。
「おはよ」
「ん。はよ……」
ティナは眠そうに洗面所の方に歩いていった。
俺はベッドに胡座をかくと、目を閉じゆっくりと一定の速度で魔力を体内に巡らせ始めた。
これはハイオークとの戦闘で傷ついた魔力回路を修復するためにティナが教えてくれた方法だ。
魔力操作の練習にもなるので、一石二鳥らしい。
魔力が体内を巡る感覚は、内側からマッサージをされているようで気持ちいい。最近の日課となっている。
既に回路は完治しているが、感覚の鋭さは戻る様子はなかった。ティナの言う通り慣れてしまえばどうということは無く、集中すれば魔素や魔力の流れも見えるようになった。
「ふー……」
一通り終わり、目を開けるとティナが洗面所から戻ってきていた。
「大会の予選が始まるまでは王都観光でもするか。うまい飯もあるかもしれないしな」
「ん! 行く!」
フロントで早朝にやってる店を尋ねたところ、市場にいい店があると紹介を受けた俺たちは、身支度を済ませ市場街へ向かった。
「お、ここだな。朝早くから結構人がいるな」
「おいしそうな匂いがするー」
早朝にも関わらず市場には人が多く、その中でも教えてもらった店はより一層、賑わっていた。
「らっしゃい! 空いてる席にどうぞ!」
俺たちが店に入ると野太い大将の声が響いた。
席を選んで座ると、大将の奥さんらしい気の強そうなおばさんが、料理をテーブルに運んできた。
「え、まだ注文してないんだけど」
「初めてのお客さんかい。うちの店はこの時間のメニューは1つだからね、座った時点で料理が決まるのさ。おかわりもあるからいるなら言っとくれ」
おばさんは、笑顔で言うと忙しそうに客の帰ったテーブルを片付け始めた。
「奥さん! 勘定ここに置いとくよ。ご馳走さん!」
「あいよー。また来てね! いらっしゃい。そこの席空いてるよ」
俺たちが入ったあとも次々と人が出入りしている。
「いい店だな……」
実家の定食屋を思い出した俺は小さく呟いた。
「それじゃ食うか!」
「ん!」
「「いただきます」」
運ばれてきた料理はスープとパンだ。
スープには野菜やら肉やらが細かく刻まれ、丁寧に煮込まれた証に澄んだ金色に輝いている。
俺は1口スープを啜った。
「「うまッ!」」
俺はあまりの美味さに声を上げ、同時に声を上げた男と目が合った。
目が合った男は茶髪で目は黒く平たい顔立ちをしていた。
首から提げるギルドプレートからみるに同じシルバークラスのようだ。
「うおぉ! マジか!」
男は声を上げて席を立つと、こちらに近づいてきた。
隣の席に座るとゆっくりと口を開いた。
「なぁ、あんた
「え?」
男の左手首に魔石が嵌め込まれたバングルが輝いていた。
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