第28話 ハイオーク×魔瘴の大槌

 

「あ、あいつ一人で行きやがった……し、死ぬなら、ひひひ、一人で逝きやがれ」


 青ざめ、尻もちをついていたガイはユウヤが居なくなると、ガクガクと震えながら這うように檻の連結部分へ向かった。


「触らないで」


 連結を外そうとするガイをティナが制止する。

 ガイが視線を上げると、ファイアボールが眼前に展開されていた。


「ひっ……」

「魔物はユーヤがどうにかしてくれる」


 ロイたちは静かに頷き、視線を立ち込める土煙に移した。


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


 馬車から飛び降りると、数十メートル先までオークの群れが詰め寄ってきているのが目に入った。


「よし……やるかッ!」


 俺は闘気を発動し、血刃を構え突っ込んだ。

 闘気の効果で迫り来るオークの懐にまで瞬時に詰寄る。


『フゴッ!?』


 血刃を振り上げ、オークの首を深々と斬り付け致命傷を負わせる。

 突如現れたユウヤに対処でず狼狽え始めるオークを他所に、俺はオークの群れを次々と倒していく。


『グォオオオオオオオァァァァ!!』


 群れが半数程になった時、群れの奥から咆哮のような叫び声が聞こえた。

 声の方に目を向けると、他よりも倍の背丈はあるオークがこちらを睨みつけていた。

 ──この群れのボスか?


 鑑定すると──。


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【ハイオーク】Lv.42 / Bランク(exp544)


【スキル】大槌Lv.6 / 身体強化Lv.5 / 統率Lv.10


【補足】全体的に脂身が多く、筋肉質で硬い部位もあるが比較的柔らかい肉質の部位が多い。


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【統率】

 味方を鼓舞することで身体能力を向上させる。

 Lvによって鼓舞できる数、上昇値が変化する。

 鼓舞された者は狂戦士バーサーカーとなる。


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「まさかさっきの咆哮は……笑えねぇ」


 咄嗟に周囲を確認すると、回りを取り囲むオークの目は白目を向き、口からヨダレを垂らしながら狂ったように武器を振り回し突っ込んできた。

 狂戦士になったオークたちは、先程までの動きが嘘のように、闘気を発動させた俺の動きに反応してくる。


「クソッ! 魔力を温存しておくべきだったか……」


 俺は呟きながらもインベントリから魔剣【グランロスト】を取り出し双剣に持ち替え、迫り来る狂戦士となったオークを対処する。


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


「はあ、はあ……あとはあいつだけか」


 俺は肩で息をしながら、高みの見物をしているハイオークを睨みつけ呟いた。

 魔力は尽きかけ、闘気はとっくに切れてしまっている。

 ハイオークは片手に黒い大槌を持ち、嫌な笑みを浮かべながら、ゆっくりと近づいてきた。

 ハイオークが持つ黒い大槌からは禍々しく魔素が漏れ出ている。


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【魔瘴の大槌】

 代償と引き換えに、所有者に〖統率〗のスキルを与える。


<製作者> : ジェイド


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「笑えねぇ……」

 ──こんなもん作ったジェイドって誰だよ……


 ハイオークとの距離がゆっくりと縮まる。

 俺は血刃とグランロストを構え、大きく息を吸った。


「……先手必勝ッ!」


 俺は手のひらを突き出し、ファイアボールを放つ。

 ファイアボールはいとも簡単に大槌で打ち消されてしまった。

 その瞬間、縮地を発動しハイオークの眼前に手を突き出し、ゼロ距離でファイアボールを放った。

 ハイオークは顔面から煙をたたせてよろめく。

 着地した俺は双剣を構え追撃する。ハイオークの腹から胸にかけて逆袈裟に切り上げた。


『グオォォォォオオオ!』


 短剣では傷は浅く致命傷には至らなかったらしく、ハイオークは倒れる体を踏ん張ると雄叫びを上げた。

 直後、ハイオークの右腕が目の前に現れ、俺は吹き飛ばされ地面に叩きつけられた。


「うッ……」


 過度の魔力消費とハイオークの一撃で視界は霞み、指を動かすこともままならない。

 薄れる視界には、怒り狂った顔のハイオークがゆっくりと近づいてくるのが見えた。


 ──ここまでか……


 視界が徐々に暗くなる。


「かはッ!」


 突如、鼓動が激しくなり胸が熱くなる。

 ──なんだ、これ……体が軽くなったみたいだ。


 俺はゆっくりと立ち上がった。

 体の気だるさは薄れ、痛みも感じない。

 動かなかったはずの体が動く。

 感情が高まり、高揚感に思考が緩む。


「何が何だかわかんねーけど……ぶっ殺す!」


 ユウヤの体から、黒いモヤが溢れ出した。


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


「ユーヤの魔力が小さくなってる……」


 ティナは馬車の手網を握るマルコに近づいた。

 馬車はユウヤが戦う場所から少し離れた場所で停車し、戦いを見守っていた。


「ユーヤが大変。ユーヤの所に戻って」

「何言ってんだガキ! あんなところに戻るわけ無いだろ。マルコ、あんたも早く馬車を出せ!」

「……いえ。ユウヤさんが戦い始めてからオークの追撃は無くなりました。ユウヤさんがあの場所で食い止めてくれている証拠です……ティナさん、あなたが行けばユウヤさんは助かるんですよね?」

「ん」


 ティナは真剣な表情で短く返事をした。


「わかりました。みなさん掴まっていてください!」


 馬車は旋回すると、ユウヤの元へと走り出した。


「ウソ……」

「これをユウヤが一人でやったのか」

「半端ねぇな……」

「……」


 馬車が近くまで引き返すと、大量のオークの死体が転がっていた。

 惨状を見たロイたちがざわつく中、ガイは黙り青ざめていた。


「ユーヤ!」

「あ、ティナちゃん待って!」


 ティナは叫ぶと馬車を飛び降り、エリーの制止を振り切り走り出した。


「ユーヤ、ダメッ!」


 ティナが叫ぶ先には、ハイオークに馬乗りになり滅多刺しにするユウヤの姿があった。

 呼び掛けに反応したのか、ユウヤはティナの方に振り返る。

 ユウヤの表情は返り血を浴び、恍惚こうこつな笑みを浮かべていた。

 ティナは勢いを止めることなく、ユウヤの胸に突っ込む。

 ユウヤの体から漏れ出た魔素がティナの腕輪に吸い込まれていく。


「あ……ティ、ナ……」

「ユーヤ!? 大丈夫……絶対に大丈夫だから」


 薄れいく意識の中、目の前には今にも泣き出しそうな表情をしたティナの顔があった──。

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