第27話 魔物の死体×疑惑

 

「おいしーっ!」

「ユウヤ! 何だこれ、めちゃくちゃ美味いぞ!」

「まさか、こんなご馳走を護衛中に食べれるなんて思わなかったよ」


 ロイ達は俺が作った料理を頬張りながら言った。

 護衛開始から2日目、夕暮れ前の明るいうちにテントを張って野営をすることになり、俺が皆に料理を振る舞うことにした。

 ちなみに今晩の料理はクアドゥルのチキン南蛮だ。


「こんな柔らかくジューシーなクアドゥルの胸肉を食べたのは初めてです。それに、この甘酸っぱいソースとタマゴが良く合います」


 マルコさんからも賞賛の声が上がった。

 食材は出発前に買っておいたものだ。酒や油なども手に入り料理の幅が広がった。


「みんなの口に合ってよかったよ」

「ふんっ! 緊張感のない奴らめ。食い物なんぞに魔力を使いよって。いざと言う時に動けんくなっても知らんぞ!」


 ガイは棒状の固形食を口に運びながらブツブツと呟いた。


「よく飽きずに食べれるわね……」

「腹持ちもいいし、持ち運びにも便利だが、あれを毎日はな……」


 エリーとアーノルドはガイの持つ固形食を見て、口々に言った。

 初日の野営でマルコさんから配られたので、俺も食べたがパサパサしていて味もなかった。

 さすがに2日目は我慢できず、今夜は俺が料理を作ると提案したのだが、ガイは気に入らないらしく料理に手をつけようとしなかった。


「そんなことより、この2日間魔物に遭遇しないなんてラッキーだわ」

「本当ですね。今まで数々の御者をやってきましたが、こんな事は初めてですよ」


 エリーの一言にマルコさんが頷きながら答えた。


「魔物と言えば、死んでいる奴なら何体か見たよな」

「それ僕も見たよ。頭を何かで貫かれていて、不気味な死体だった」


 皆は口々に道中で見た不気味な魔物の死体について話し始めた。


「魔物はわたしが倒してるよ?」


 ティナの一言に談笑していた皆が一斉に振り向いた。


「はははは。そうですか、それはありがとうございます」

「ふふ、ティナちゃんって冗談言うんだね」


 皆はティナを優しくあしらうように言った。


「嘘じゃない……ユーヤ、嘘じゃないよ?」


 ティナは俺の服を引っ張って訴えかけた。

 ──ティナが嘘をついているとは思えないが……この2日間は馬車の上に座って景色を見ていただけ、だよな……?


「おい! 何騒いでるんだ。魔物が来たらどうする!」


 周囲を監視していたガイが、語気を強めて詰寄ってきた。


「ガイさん、すみません」


 苛立つガイにマルコさんが仲裁に入った。


「何よ偉そうに、あなたが1番煩いじゃない」

「あ? 何か言ったか?」

「別になんでもないでーす」

「ふんっ! 静かにしてろ、騒いだら魔物が来るかもしれねぇだろ」


 ガイはバカにするように鼻を鳴らして言った。


「近くに魔物はいないから大丈夫だよ?」

「何だと? 小娘、てめぇ……」


 ティナに横槍を入れられたガイは今にも爆発しそうな勢いで睨みつけた。


「ティナは魔物の位置がわかるんだ」

「俺をバカにしてるのか?」

「バカになんてしてないさ、ティナが嘘をついてないって言ってるだけだ」

「てめぇ……」

「お二人共落ち着いてください……」


 ヒートアップする俺たちをマルコさんが止めに入った。


「ティナちゃん、今は冗談は言わなくていいからね?」

「嘘じゃない……ここに来るまでも、わたしが魔物を倒してたのもホントだよ?」


 エリーに言われティナは訴えかけるように言った。


「なるほどな……お前が数日でシルバーに昇格できたのがずっと不思議だったが、そういう事か」


 ガイは何かを悟ったかのように、ドヤ顔で言った。


「そうやって嘘の報告をして評価を上げてきたんだろうが、今回は残念だったな。俺がその化けの皮を剥いでやる」

「嘘の報告? 何言ってんだ。そんなことする訳──」

「まだ言い逃れするつもりか? この2日間、たまたま魔物に出くわさなかったのをいい事に、自分たちの手柄にしようとしているだろ!」


 ガイには何を言っても意見を覆すつもりは無いらしく、勝ち誇った表情で俺を見下ろしてきた。


「ん?」


 俺がガイに睨み返していると、ティナに袖を引っ張られた。


「ユーヤ、すごい数の魔物がこっちに向かって来てる」

「また嘘か? そうやって混乱させて逃げてきたんだろうが、ここからは逃がさねぇぞ!」


 ガイはティナに突っかかって場を煽りだした。

 他のみんなもどちらに着くべきか定まっていないらしく、俺たちを見てうろたえている。


「ユーヤ、向こうだよ」

「あーマジか……笑えねぇ」


 ティナの指さす方を見ると、夕暮れの空に土煙が上がっているのが見えた。

 次第に地響きが聞こえ始めると、振動で周りの物が震え始めた。


「ひッ……あ、あれはオークです! みなさん、早く馬車に乗ってください!」


 望遠鏡を覗き込んだマルコさんは叫ぶと、馬車に乗り込んだ。

 全員が乗り込むと馬車は急発進して来た道を戻り始めた。


「おいおい、嘘だろ……」

「あんなの無理だよ!」


 ロイたちは現実逃避するようにその場で蹲った。

 オークの土煙はどんどん近づいてくる。


「おい! もっと早く馬車を走らせろ」

「無茶言わないでください。これ以上は無理です!」


 ガイがマルコさんに詰め寄ったが、馬車の速度は限界のようだ。


「だったら……」


 ガイは檻の方に歩いていくと、大剣を抜き振り上げた。


「おい、何やってんだ!」

「ガキは黙ってろ。こいつらは所詮罪人だ。囮に使って何が悪い!」


 ガイは俺の静止を振り切り、馬車と檻の連結部分に大剣を振り下ろした。

 金属音が響き渡る──が、檻は切り離されなかった。


「なッ……どうなってやがる」


 連結部分は俺の血で覆ったため傷一つない。


「あいつらは俺が何とかする……あんたは何もするな」

「ガキに何ができる! 運良くシルバーに上がれたからって調子に乗ってんじゃねぇ!」

「黙ってろ」

「ッ……」


 俺が睨みつけると、スキル『威圧』で怯んだガイは何も言い返さず、青ざめた顔で後ずさり尻もちを着いた。


「ティナ、雷霆打てるか?」

「ん」


 俺の質問にティナは短く返事をした。


「んじゃ1発頼むわ」

「ん。──雷霆」


 ティナが手を振り下ろすと、オークの群れの頭上から巨大な雷が轟音を纏って落ちた。

 雷霆で半数以上は削ぐことが出来たが、オークたちの勢いは止まることなく、倒れたオークを踏み越えてこちらに向かってくる。


「んじゃ、行ってくる。ティナは皆を頼む」

「ん。わかった」


 状況を把握できない冒険者たちを他所に、俺は走る馬車から飛び降りた。


「よし……やるかッ!」


 迫り来るオークの群れに、俺は1人突っ込んだ。

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