3章『王都武術大会』編
第26話 護衛×皮肉な笑み
「ティナ、見えてきたぞー」
「んぁ、ん……」
俺たちは魔導二輪に跨り、平原を快走していた。
ティナは風が気持ちよかったのか、器用に俺の腰に捕まりながら寝息を立てていた。
俺は魔導二輪を停め、スタンドを立てる。
平原の先にはカタクのように外壁に囲まれた街が見えていた。
「よし、この辺りからは歩いて行くか」
「え……もう降りるの?」
ティナに降りるように促すと、嫌そうにノソノソと魔導二輪から降りた。
「魔導二輪はまた今度な。こいつは目立ちすぎる」
俺はインベントリに魔導二輪を収納しながら言った。
やはり魔導二輪は目立つらしく、ここまでの道中も道行く冒険者や行商人にすごい形相で驚かれてきた。
──このまま街にいけばすごい騒ぎになるだろうな……
「……ん」
ティナは寂しそうに小さく頷いて返事をした。
「歩きながらだが、飯にでもするか」
「ご飯!?」
沈んでいたはずのティナが、目を輝かせながら顔を上げた。
「昨日の夜作っておいたんだ」
俺はインベントリから紙に包まれた塊を取り出した。
インベントリに保管されていたため出来たての温かさだ。
「いい匂い……もしかして、ハンバーグ!?」
「匂いで分かるのか。けど、昨日食べたハンバーグとはちょっと違うぞ」
俺は紙の包装を解いて、ティナに差し出す。
出てきたのは、軽く焼いた白いパンにハンバーグと葉野菜を挟んだハンバーガーだ。
「ユーヤ、食べてもいい?」
「熱いから気をつけろよ」
「ん。いただきます」
ティナは大きな口でかぶりついた。
「ん……っ、ユーヤ! すっごくおいしいよ、これ!」
「そうか? 喉に詰まるからゆっくり食べろよ」
大袈裟なぐらいに喜ぶティナに水袋を手渡して、俺も1口かぶりつく。
ちなみにこのハンバーガーは俺にとって特別なものだ。
今、
移動しながら食べれるためこれからも重宝しそうだ。
ティナも、満足そうにハンバーガーを頬張っている。
俺は機嫌の治ったティナを連れて、イスタへ向かった。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
「この時間はやっぱり暇そうにしてるんだな」
イスタに入った俺たちは、ギルドに来ていた。
昼前のギルドは、ひと段落終えた職員が書類を片付け、チラホラと冒険者がいる程度だ。
「この依頼をお願いしてもいいか?」
俺はカタクのギルドマスター、ランディから預かっていた荷馬車護衛の依頼書とギルドプレートをカウンターに置きながら、受付嬢に声をかけた。
「はい。こちらの依頼書ですね。え……カタクのギルドマスター直々の依頼!? それに、黒髪に黒い瞳……って、もしかして! いッ……!」
受付嬢が大声を上げ始めた時、後ろから別の職員が現れ受付嬢の頭を書類で叩いた。
チラホラといた冒険者たちも、こちらを気にするように視線を向けている。
「セラさん……何するんですかーッ!」
「何をするもないでしょ? 指名依頼は、依頼内容が極秘の場合もあるの。大声で読むような物じゃないの、研修で教えたでしょ?」
「すみません……」
「申し訳ございません。この子はまだ新人なもので、教育が行き届いておらず大変失礼致しました……」
先輩受付嬢が新人の頭を押しながら、頭を下げさせた。
新人はカウンターにデコを擦り付けられている。
「いや、大丈夫だから……それより、依頼の受理をお願いしてもいいか?」
「あ、はい! すぐに手続きしますので、少々お待ちください」
そう言って、新人受付嬢は書類の確認を始めた。
「おまたせ致しました。こちらのご依頼は複数人での護衛になります。なので、他の冒険者さんも参加されることになります」
どうやら依頼の護衛は俺たちだけではないらしい。
「集合場所は東門です。出発は次の鐘が鳴る正午なので遅れないようにお願い致します。依頼管理者は御者のマルコさんと言う方なので、その方に依頼書をお渡し下さい」
「ありがとう」
俺は受付嬢にお礼を言って、ギルドを後にした。
魔導二輪で来たこともあり、出発まではまだ時間がある。
「買い物でもしておくか」
「何か買うの?」
「これから数日かけて王都に向かうからな。それまでの食料とか調味料とかだな。ほかにも調理器具とかも見ておかないとな」
「ん。わたしはユーヤに着いてくね」
俺たちはイスタを散策しながら買い物に向かった。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
太陽が真上に来る頃、東門へ向かうと檻が連結された大きな馬車が目に入った。
周りには冒険者らしい人が4人たむろしており、御者らしい男性が慌ただしく馬車の点検をしていた。
他に馬車は見当たらないので、どうやらあれが護衛対象の馬車のようだ。
「えっと、マルコさんって人は……?」
俺が声をかけると、慌ただしく動き回っていた男性がこちらを向いて近づいてきた。
茶髪のボブショートの男性で、全体的に細身だ。
「あなた方がランディ様からご紹介いただいた冒険者さんですかな?」
「あぁ、そうだ」
俺は返事をしながらな、依頼書をマルコさんに手渡した。
マルコさんは常に笑顔で印象がいい人だった。
「確かに間違いありません。わたくし、今回の馬車護衛の管理、責任を任されました。商人のマルコと申します。王都までの5日間、どうぞ宜しくお願いします」
「俺はユウヤ、んでこっちはティナ。こちらこそよろしく」
「ほぅ、お前がユウヤか」
マルコさんと話していると、横からガタイのいい冒険者が割り込んできた。
「俺は
ガイは一方的に喋ると、大笑いしながら馬車の方に歩いていった。
──偉そうな奴だな……
俺はマルコさんに一礼して、馬車の近くで固まっている冒険者たちの方へ向かった。
馬車に連結された檻には、手枷を付けられ俯く人が何人も乗っている。
──この荷馬車の荷物って人……なのか?
「初めまして! 君がユウヤだよね? 噂は聞いてるよ。たった9日でシルバーに昇格したなんて、凄すぎだよ!」
俺が馬車に目を奪われていると、冒険者の1人から声をかけられた。
──俺のことが噂になってるのか?
「その噂、誰から聞いたんだ?」
「この辺の冒険者ならみんな知ってるさ」
周りにいた冒険者たちも知ってるらしく、目が合うと頭を縦に振った。
「ただ運が良かっただけだから、あまり期待しないでくれ……」
「ごめんごめん、プレッシャーを掛けるつもりは無かったんだ。僕はロイ、このパーティのリーダーをしてる。
「俺はアーノルド、主武器は片手剣だ。パーティでは盾役をしている」
「私はエリー、主武器は槍よ。よろしくね」
「みんな
ロイと名乗る少年は手を出し、握手を求めてきた。
「俺はユウヤ、主武器は短剣だ。馬車の護衛依頼は初めてだから色々教えて貰えると助かる。
こっちはティナだ」
俺はロイの手を握り返し自己紹介を済ませた。
ティナはロイたちに小さくお辞儀をした。
「その子はユウヤのパーティ?」
「んーまぁ、そんなところだ」
俺は説明も面倒なので、愛想笑いをして答えた。
「ボウズ、久しぶりじゃねぇか。あん時は世話になったな」
「ッ!? マジかよ、笑えねぇ……」
俺たちが話していると、
そこには……ゴント盗賊団の頭領、ゴントの姿があった。
この数日、まともに飯を食ってないのか頬が少しやつれている。
「……生きてたのか」
「おかげさんでな……まぁ、捕まっちまったら死んだも当然だがな」
ゴントは皮肉な笑みを浮かべた。
「お前の娘が仇討ちしに俺のとこに来たよ」
「何だと!? まさか、テメェ!」
ゴントは檻に詰め寄り睨みつける。
「なんだ、お前にも親の心はあったんだな。安心しろ、ステアはギルドで保護されてる。前科がないから、お前みたいになることはないだろ」
「……」
大人しくなったゴントは、返答もなく檻の中で座り込んだ。
──この親子が再会することは無いだろうな……
「そろそろ出発の時間だ! 馬車に乗り込め!」
ガイから声がかけられ、冒険者たちは馬車に乗り込み始めた。
「ユウヤ、お前は見張り役だ」
「見張り?」
俺が馬車に乗り込もうとすると、ガイに止められた。
「罪人たちが何かしないかを見張るんだ。俺は馬車の前方で魔物共が襲ってこないか見張ってるからな。見張りは交代制で行う。何かあれば声を上げてくれればいい」
ガイはそう言うと馬車の前の方に向かった。
「ティナ、周りの魔物を警戒しててくれ」
「ん。わかった」
俺は魔物の位置がわかるティナに一声かけて、馬車の最後尾に着いた。
「それでは、出発します。みなさん、よろしくお願いします」
マルコさんの号令とともに馬車が動き始めた。
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